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第百十九話 皮算用

作者: 山中幸盛

 山中幸盛は運動不足を補うため、というより体重を七キロ減量して標準体重に近づけるため、知多半島のT漁港まで魚釣りに通うことにした。

 年金生活者ではあるが、近年は為したい事、為さねばならぬ事が山積しているので、元々は釣りが趣味の幸盛にとって、不謹慎で無神経で人非人とご叱責の向きもあろうが、願ってもないことで新型コロナウィルス様々である。

 『ステイ・ホーム』で釣り動画を毎日毎日飽きもせず数時間見ているうちに、堤防からワーム(疑似餌)を投げてアジを釣る、アジングなる釣りがあることを初めて知った。竿は二メートルほどの軽いものを使用し、リールも小さな軽量なものを使うので年寄りに打って付けの釣りだ。

 食べるために釣るのなら、アミエビを使ったサビキ釣りの方がアジは格段に釣れるだろうが、運動することが目的なので、あえてアジングに挑戦することにした。メリットとしては、アジ以外のメバル、サバ、カサゴ、ムツ、カマスなど他の魚が食いつくこともあるから、「突然のアタリからの引き」を楽しむことができて退屈はしないだろう。

 というより、どんな釣りにも言えることだが、一日中ただひたすらアームやルアーやアミエビを投げ続けても何の反応もないことはザラにあることなので、それを辛抱強くひたすら待つ間の期待感、ワクワク感がたまらない。釣れても釣れなくても「過程」を楽しめばよいのだ。

 そこで、アジングに必要な釣り道具を揃えるために釣具店に出向き、竿やリールや小物を物色するが、あまりにも種類が多いため、動画で紹介されているようなワームや専用針などは店に置いていない物の方が多いし、いちいち店員に探してもらうのも気が咎めるし、メーカーから取り寄せてもらえるかどうかも分からないので、インターネットで探して買うことにする。ネットの方が割高だが、ネットは商品の説明書をじっくり読むことができて確実なのだ。

 実践的には、大別して二つのやり方があるようだ。一つはアジのいる場所を探して漁港内や堤防をあちこちくまなく歩き回り、それで釣れなければ車で漁港から漁港、堤防から堤防、テトラ帯などに移動する方法。

 一つは車を動かさず、同じ漁港内のどこかで投げ続けて、アジが回遊して来るのを、あるいは食い気が立つのを気長に待つスタイルだ。面倒臭がり屋で怠け者の幸盛はむろん後者を選択する。

 何でもそうだが、アジングも釣れるかどうかはやってみなければ分からない。ある動画の中で、有名なアジングのプロが日本中を転戦してきて仲間に語った言葉に、

「愛知県(の海)は鬼門です」

というものがある。

 彼が愛知県内の海で何度チャレンジしたのか知らないが、一度や二度では鬼門と言わないだろう。このような名人ですら釣れないこともあるというのだから、アジング初心者の幸盛が釣れなくても当たり前、という心構えはできたので、気楽にチャレンジできるというものだ。

 

 そして、強欲な幸盛は名案を思いついた。釣ったアジに針を付けて泳がせ、そのアジに襲いかかって一飲みにするヒラメやマゴチなどの大きな肉食魚や、あるいはガシッと抱きついて後頭部からガジガジ囓るアオリイカを釣り上げることを最終目標とすることにした。アジが二匹釣れてくれれば、一本の竿には鈴とオモリをつけて海底のヒラメ、マゴチを狙い、もう一本の竿にはウキをつけて中層のアオリイカか青物を狙う。その二本の竿を左右に置いて、その間でアジングをしながら奇跡を待つのだ。

 だから、クーラーボックスは毎回欠かさず用意することにした。アジをエサにして釣れた高級肉食魚やアオリイカを持って帰るためのものだが、そんな奇跡はまず起こらないので、氷はペットボトルに水を入れて蓋をしたまま凍らせ何度も繰り返し使える状態にし、クーラーボックスは重いので車から降ろさないことにする。釣れた場合は最寄りのコンビニで氷を買えばよいので、それまでの一時しのぎの氷だ。

 クーラーボックスに入りきれない程大きな魚が釣れた場合のために、魚をさばくためのナイフとハサミとミニまな板も用意した。頭と尾びれをカットし、腹はキッチンバサミでチョキチョキ切って内臓を取り出し、これらを海に返してカニやタコや小魚や微生物に食糧として提供する。ウロコも剥いでおけば、家の台所を汚さずに済むので一石二鳥だ。

 同様に、大きなランディングネットを持ち歩くのは恥ずかしいので持ち歩かないことにした。その代わりに、落としタモをたたんでリュックの中にこっそり忍ばせておく。

 肉食魚は歯が鋭くてラインが傷つき切れてしまう恐れがあるから太めのハリスを用意し、ハリも細いと大物が掛かった際に折れたり曲がったりして獲り逃がしてしまうので、手作りで極太の仕掛けを四組作成した。

 もし一メートル級のヒラマサなどが食いついて来た場合には頑丈な仕掛けでないと一瞬で破損するので、大枚をはたいて頑強な竿、リール、ラインを買い揃えた。

 さてさて、用意万端整えたが、生まれて初めて挑戦するアジングで、アジは釣れてくれるのだろうか。



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