雅秋の本心
「何か、聞いてたのと違うね。この劇。」
「うん、おかしなコスプレがでてくるねー。よくストーリーはわかんないけど。」
「でも、甲斐先輩の演技は真に迫ってたね。あの涙!」
「フィクションとノンフィクションが交錯する設定のストーリーなんじゃない?」
「あの侍超かっけー。まじリアル。」
「あの姫超絶な美貌だったな。あれ何年何組の子かな?」
「きっとあの扉から次々とコスプレーヤーがゲスト出演する設定なのよ!」
「なるほどー。でもさ、侍いきなり消えたよ?どうなってんの?マジ謎。」
観客たちはざわめいていた。
蓮津姫が去った後、のばらは直ちに部員を上手袖の中に集めた。
「今のはなんだったのかしら?ミチルはあの姫のこと知っているの?」
のばらはミチルに訝りの視線を送った。
「あ‥‥‥‥えっと、僕の父さんの知り合いで‥‥‥‥たぶん今日一緒に来てたのかも‥‥‥‥‥」
ミチルはまさか本物の蓮津姫が現れたとも言えずに誤魔化した。
本当の事を言っても信じて貰えないどころか嘘つきとか妄想やばしと思われてしまうだろう。
「あっ、だからミチルの幼なじみのミアちゃんのこと心配してたんだ?でも、劇の途中に乱入してくるなんて!」
「で、ミアちゃんあのお侍さんは何だったのよ?一体誰だったの?」
次ののばらの訝りはミアへ向かった。
ミアは急ごしらえの言い訳をした。
「あ‥‥‥‥えっと、あの人は3年の名波索先輩で元錦鯉研究部の部長なの。実は‥‥‥‥‥えっと、その、飛び入り参加したいって突然連絡が来て‥‥‥えっと、皆を驚かせたいって言われて‥‥‥‥‥断れなくて‥‥‥‥‥」
「錦鯉研究部の人だったんだ!だったら、仕方ないかもだけど、私にだけは事前に言ってほしかったわ。」
「ごめんなさい、のばらさん。秘密にするように言われて。」
「とにかく、すぐに第3幕に行くわよ!マナカ、ミアちゃんいいわね?座家くん、すぐ朗読よ!ミチルは井戸のセット用意して!」
皆を見回してのばらが言った。
「さあ、始めるわよ!急いで再開よ!」
雅秋はミアを下手の楽屋スペースに連れて行った。
今のミアと侍コスプレ男子の事を確かめなければ気が済まない。自分はほぼほぼ捨て身のぼろぼろで舞台上でミアに愛を叫んだのだから。まるで公開処刑だ。
「なぁ、さっきのは錦鯉研究部元部長とミアの芝居だったのか?」
「‥‥‥‥雅秋は覚えてないの?索のこと忘れてしまったの?」
「‥‥‥‥今のやつの顔は知らねぇ‥‥‥はずだが、ただ何か頭の中がもやもやしてる。」
「そう‥‥‥‥。」
ミアは先ほどの出来事を丸く収めるためにはなんと言えばいいのかと思案した。
「答えろよ!俺はあれを本気にして必死でミアのことを取り戻そうとしたんだぞ!おかげで俺は‥‥‥‥‥超絶恥ずかしいじゃねーか!」
珍しく雅秋が赤くなっている。
「雅秋‥‥‥ごめんなさい。あれはお芝居よ。名波先輩は雅秋が突然割り込んで叫んできたからアドリブで答えたのよ。それに‥‥‥‥」
ミアは優しい微笑みを浮かべて雅秋を見た。
「私のことを本当に大切に思ってくれていたのね。命尽きるまでなんて‥‥‥‥まるで結婚するみたいで大げさだけど。でも、嬉しかったわ。ありがとう。」
「大げさじゃねーよ。俺は本気だって言っただろ?きっとそうなるさ。」
照れて横を向きながら言った。
「私たち、まだ出会ったばかりだわ。」
ミアは上目使いでちらっと雅秋を見た。
「俺の本心、さっきのでわかっただろ?」
雅秋がミアの瞳を真剣な眼差しで捕らえた。
ミアもそれに本心から応えた。
「うん‥‥‥‥雅秋。私、雅秋が私を想ってくれている限りずっと側にいるわ。私も雅秋を想いながら‥‥‥‥‥‥‥」
そして第3幕、リアスの朗読が始められた。
開け放たれた戸口からミチルの家族3人が覗いている。
「特に何もなく進んでいるようだね。」
「ええ、もののけは来ていないわ。」
馬白とユミは視線を交わした。
濃濃夜は父と母がなにやら緊迫したような、わくわくしたような普段とはまったく違う様子を黙って見ていた。
ーーーまさか、パパとママもあの病気だったなんて!
もう、この家は私がしっかりしないとダメだ!きっとこのままじゃ10年後くらいに会社も倒産しちゃうかもしれないよ?
親もやばい病気で、お兄ちゃんはへなちょこ。
ココ、これからは真面目にがんばって勉強しなくっちゃ!
濃濃夜は家族を支えるべく会社を継ぎ次期CEOになる決心をしたのだった。
「あれ?廊下の向こうから誰か来るよ。」
濃濃夜が馬白とユミの袖をつんつん引っ張った。
教室の中を見ていた二人は濃濃夜の指す方を見た。
「あっ!」
馬白とユミは目を大きく開いて顔を見合わせた。
二人の顔に笑みが拡がってゆく。
向こうから褐色のよく日焼けした細筋の逞しい背の高い青年が来る。その前を濃濃夜よりも少しだけ幼く見える女の子がぴょんぴょん元気よく跳ねながらこちらに向かっている。
その野性的な雰囲気漂わせた細筋の青年は、茶色の風切り羽で出来たノースリーブの上衣をまとい、皮製の短いスパッツを身につけている。硬そうな革で出来た腰のベルトには合口のような短剣が何本かささっている。長い褐色の髪をポニーテールにしている。
女の子は桃色地に花柄の美しい着物を着ているが、なぜかミニスカート丈になっていて、さらけ出した棒のように細い脚で小気味良くジャンプを繰り返して前に進んでいる。そのたびに長い黒髪も跳び跳ねている。なんともかわいらしい。
馬白とユミはたまらず駆け寄って行った。
「なんじゃ、なんじゃ?そなたら妾たちになんぞの用かの?」
「ん?誰だ?お前ら。」
女の子と青年が突然うれしそうに駆け寄ってきた二人に言った。
馬白とユミはお互いの顔を見合わせた。
もう、二人はあの頃の10代の少年少女ではなかった。
「待て、那津‥‥‥‥‥この匂い知ってる。」
日に焼けた羽の衣の青年は馬白の顔をじっと見た。
にやっと嗤った。
「人間は変わるのが早くてやべーよ。なぁ、馬白。」
「ああ、思い出してくれたんだ!キザシくん!」
馬白が少年のように笑った。
「もう、二度と会うことはないと思っていた。偶然だな!今年の夏以降、那津は霊界で過ごしててさ、蓮津姫から蓮津姫と那津の芝居があるからって知らせてきてさ、だからちょうど俺ら二人で現世にお出ましだったんだぜ。」
キザシがにかっと笑った。
「ほお。おまえ、馬白じゃったのか!変わりすぎでわからんかった。ではこちらの女人は‥‥‥‥ユミだの?」
「はい、那津姫様!お久しゅうございます。」
「あれから恙無う過ごしておったかの?」
「はい、那津様が貴重な霊樹の実を私に下さったおかげで。」
「それはよかったの。話は積もっておるが妾たちは、急いでおるのじゃ!すまぬの。おや、そこのちっこいおなごはなんじゃ?」
「‥‥‥‥ちっこい‥‥‥って何なの!あなたの方がちっこいじゃない!」
濃濃夜が那津姫にうむむっと迫った。
「おう、そうだの。でも妾はお年頃の見目麗しい体も持っておるぞ。」
「‥‥‥‥2つ体があるの?あなたの言っていることはよくわからないよ。」
濃濃夜は眉をしかめた。
キザシが那津の手を取った。
「おい、那津!行くぞ。お前の忘れてしまった記憶の部分見たいんだろ。本当は俺は見ない方がいいと思うけど。」
「妾はずっと知りたかったのじゃ!なぜ妾は死んだのか思い出せないのじゃからな。気になるではないか。」
手をつないだ那津姫はとキザシは開け放たれた戸口から公演中の理科講義室へと入って行った。
馬白とユミと濃濃夜も二人の後に続いた。
「おい、また違うのが来たぞ!」
「わお、あの色黒の男子!超スタイルよくね?脚なっが!」
「あの女の子かわいー!お人形さんみたい。超ラブリーじゃん!」
「あれ本物の羽の衣装?何のアニメキャラのコスプレだろ?知ってる?」
客席では今度は新たなコスプレイヤーが今度は何をするのかと待っていた。キザシは背の低い那津をお姫様抱っこし那津はキザシの首につかまった。
二人はただそのまま後ろで舞台を見始めた。
今、舞台上では那津姫を演じるマナカと蓮津姫を演じるミアがお城の鯉にえさをまきながら楽しそうに語らっている。
「そうじゃ、妾はあんな風に蓮津と鯉にえさをまいたことが何度もあるのじゃ。楽しかったのう。おう、あの女子は確かに蓮津に似ておるの!あのはしっこで立っている背の高い男は何やらキザシに似ておるのう。キザシよ。」
那津は抱えられながらキザシの耳元でささやいた。




