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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第3章
98/102

索の密計

「あ‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


 立ちすくむミアの瞳から涙が溢れて来た。



「またお会いすることがかないました。ミアどの。私のことをまだ覚えておいでか?」


 若侍男子が言った。


「索っ!」


 ミアが駆け寄った。


「ミア、これが僕の本来の姿だった。」


 索がミアを抱き締めた。


「どんな姿だとしても私、すぐにわかるわ‥‥‥‥‥すべての人が索を忘れたとしても私は忘れたりしないの‥‥‥‥。索、もう消えてから2ヶ月経ってしまっていたのよ。もう二度と会えないかと思って私‥‥」


 ミアは索の腕の中で愛しの人の顔を見上げた。


「僕はここにいると言っただろう?たとえ僕が見えなくとも。」


 索はミアのほほに伝う涙を親指で拭った。


「でも、見えなかったら、話もできないんだったら私は索を感じることができないのよ!」


「ミア、仕方がないんだ。もう少しで私はまた七不思議の名波索としてここに現れることができよう。だが、それでも‥‥‥‥僕とミアはこの世では結ばれぬ運命(さだめ)ゆえ、来世を、時の流れを待つしかないんだ。」


「嫌っ!もう離れたくないの!このまま私を黄泉に連れて行って!お願い、索!」


「それは出来ない。ミアはこの現世での生きている時間を大切にして。いいね?」


「索‥‥‥‥‥」



「おい‥‥‥‥‥これはどういうことだよ?ミア‥‥‥‥このコスプレ侍は一体誰なんだ?何でお前らいきなりここでいちゃついてんだ?」


 雅秋が混乱と怒りの目で舞台中央で抱き合う二人を睨んだ。


「あ‥‥‥‥雅秋‥‥‥これは‥‥‥‥」


 ミアが索の腕の中で身を縮めた。


「ミア、おまえさっき、俺に好きだって言ったばっかじゃねーかっ!俺はミアの特別じゃなかったのかよっ?」


 あれほど外見を気にする雅秋が感情のまま恥も外聞も気にせず叫んだ。


「俺は本気で‥‥‥‥こんなにマジでミアに惚れてんのに。俺、もうミア以外要らないって何度も言ったじゃんか!」


 涙を流しながら叫んだ。



「私‥‥‥‥‥」


 ミアは索の顔を潤んだ瞳で見上げた。


 索はやさしく、さみしげに微笑んだ。


「いいんだ‥‥‥‥行って。」


 索はミアを包んだ腕を放した。


「人の気持ちは変わりやすいものだが‥‥‥‥僕は今のミアの愛も、君の来世での愛も信じてる。」


「索‥‥‥‥‥‥」


「今はこの男と行くがいい、ミア。」



 ミアは動けずに佇んだままだった。


 索は雅秋の前にひざまずいた。


「ミアどのをお前に頼む。」


 スッと立ち上がり言った。


「お前の命尽きるまで。だが、出来ぬというならさっさと手を引け!」


「‥‥‥‥出来ねーわけねーじゃん!最初っからそのつもりなんだよ!なんだよ、おまえの方こそ!わけわかんねーことぐちゃぐちゃと!現世だの来世だのって。おまえバカだろ?たとえ来世だろうがミアをおまえなんかにぜってー渡すかっての!」


 雅秋が索の着物の襟を掴みながら言った。


「ふふっ‥‥‥‥なかなか威勢がいいじゃないか。僕が見込んだ通り悪くはない。」





 ーーーお前は私と体の相性がよい。入り易い。姿見映えも私と同等遜色ない、そして壮健な男。甲斐雅秋‥‥‥‥



 私は悪霊となった。

 愛する蓮津に取り憑き、殺した。


 ああ、あの時はすべて蓮津が自ら死を望んだからそうした、という訳ではない。

 私も蓮津を欲していたからだ。


 私の愛する女を私の手に。



 だが、今回ミアを殺す訳にはいかぬ。

 私が人を殺せば成瀬様がお怒りになるだろう。


 私がここに留まるしかない。


 確たる実体のない私が現世でもミアと過ごすためには‥‥‥‥‥‥






「甲斐雅秋。いいだろう。その言の葉、忘れるな。」


 索は雅秋の手をいとも簡単にひねり上げ、掴まれた着物の襟から外した。


 索はミアを振り返った。


「近いうちに錦鯉研究部の名波索としてまた会えるだろう。だが、君は今度こそ僕を忘れてしまっているかもしれないね。それでもいい。それでも僕は君と‥‥‥‥」


 索がミアの手を取ろうとした。


「ミア、君の清らかな愛が欲し‥‥‥‥‥」


 索の姿がふっと消えた。


 最後にミアは聴いた。


 ーーーミア、甲斐雅秋を放すな‥‥‥‥‥



「‥‥‥‥索?」



 茫然とたたずむミアに雅秋が駆け寄った。


「おいっ!今の消えたっ!なんなんだよ?今のコスプレ侍。」



 ミアはただ涙を流して茫然自失している。


 雅秋はミアを抱き締めた。もう、舞台の上だろうが人が見ていてもどうでも良くなっていた。


「俺はミアを絶対誰にも渡さない!」




 リアスは舞台の隅で台本を握ったままキョドっている。


 のばらとミチルは揃って顔面蒼白でミアと雅秋を見ている。


 マナカと中村は二人手を取り合いあわあわと周章狼狽状態だ。


 神露は明鏡止水の面持ちで何を思っているのかわからない。


 りりあは愛別離苦の恋人たちの物語に感動しているようだ。


 煌は今の出来事の合理的事実の究明に脳にシワを刻んでいた。


 桃山は先ほど索に受けた剣術の技に衝撃を受け、即ミアをあきらめた。


 観客は今のはショーの一部だと思っている。




 索によって開け放たれた戸から豪奢な着物を着た美しい姫ぎみが入ってきた。


「皆のもの、そのままでよい。ああ、おまえたちは座ったままでよい。」


 客席に向かって言った。



「あなたは‥‥‥‥蓮津姫様!」


 舞台袖から出たミチルの口から思わずこぼれた。



 ミチルは以前ルイマと一緒に、島田から一度だけ蓮津姫と会わせてもらったことがあった。


「ああ、お前はミッくんとやらだったか?どうじゃ、ミアは少しはまともになれたか?あのどうしようもない臆病娘は。ふふふっ。」


「あの‥‥‥‥‥あなたが蓮津姫様?」


 横にいる雅秋に腰を抱かれたミアが涙を拭って美しい姫を見た。

 自分に姉がいたらこんな感じかも知れないと思った。索が初めて自分を見た時、驚いた顔をしていたが、確かに自分に似ている。



「はぁ、そなた‥‥‥また泣いておったのか?やれやれ。まだまだだの?それで妾の真似事をして遊んでいるとはなんという戯れ言。ミア、ただ美しいだけではただ男の慰みとされるのみ。しかもその美しさも一時のもの。もっと賢く強くあらねばならぬ。心せよ。」


 蓮津の持つ閉じた扇子がミアをばしっと差した。


「はっ、はい!蓮津姫様。」


 ミアが凛とした蓮津の態度に感銘を受け、染めたほほと尊敬の眼差しで蓮津姫を見た。




 ふと、蓮津姫が空中に向かって一人で喋りだした。


「‥‥‥‥‥なにっ!ミアには余計なことと申すのか!」



「‥‥‥‥‥そんなことはない!妾はミアを案じて‥‥‥‥なんと!妾は那津様のために‥‥‥‥‥七瀬様ほどの男に壁ドンされたのじゃ、仕方あるまい。乙女心は止められないのだから。」



「‥‥‥‥‥だったら、索もミアとさっさとすればよかったではないか!何回かしたところで死にはせぬ。だいたいお前が霊力の制御が甘いから奪ってしまうのじゃ。」



「なんと!妾を愚弄する気か!妾は姫じゃぞ!‥‥‥‥もう、城は確かに無くなったが‥‥‥‥姫であることにかわりはないのじゃ。」



「‥‥‥‥‥ほおー、ミアの気が変わらないといいの?ほら、となりの男、あやつは黄金の鯉族の血がほんの少し現れておる。遠い先祖に混じっていたのがこの男に現れたのだろう。この美しさ、間違いはあるまい。お似合いではないか。」



「‥‥‥‥‥ふふっ。だからな、お前の力では無理じゃ。せいぜい寝ている時ぐらいだろう。完全には行くまい。」



「‥‥‥‥ふふっ。勝手にすればよいであろう。邪魔立てなどせぬ。はっ、ああ、妾とておまえなどと話はしたくないのじゃ‥‥‥‥」



「ああ、嫌な男に会ってしまった。せっかくミアの様子を見に来たというのに。妾は気分が悪うなったゆえ、帰る。今日は愛しの七瀬様の元に戻るとしよう。では皆のもの、ごきげんうるわしゅう。」



 蓮津姫は豪奢な着物の裾をしゃっとターンさせて戸口から出ていった。


 皆、ポカーンとして黙たまま見送った。



 マナカが言った。


「今のコスプレまるで生きたお雛様だね。」


「じゃあさ、次は三人官女とか五人囃子とか来ちゃうわけ?」


 中村が言った。











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