発動 蓮津姫の魔炎松ぼっくり
「出演者は移動してください。グリーティングは最後にもおこなわれますので皆さん席についてください。」
ミチルが、なれなれしくミアに腕を回し後ろ向きてこそこそしている桃山に気がつき早かったがグリーティングは終わりにした。
歓談していた来場者たちはわらわらと皆席に向かって行った。
雅秋は解放されてすぐに桃山の襟首を後ろから掴んだ。
「おいっ!ミアを放せ!」
ミアの肩を抱いた桃山の後ろ衿を思い切り引っ張った。
「桃山!ふざけたことすんじゃねーぞ!」
「うっわ!急に何すんのー!ひでぇなー、甲斐。」
よろめいいた桃山はミアに腕をかけたまま首だけ振り向いた。
「ミアを放せっつーの、桃山!」
「いいじゃん、少しくらいさー、どうしちゃったんだよ?急に。」
癇癪と焦燥を交錯させて突っかかって来た雅秋を怪訝に見た。
「俺、ミアにはマジなんだ!やめてくれ!触んなっ!」
雅秋はミアと桃山の間に体を割り込こませて離した。
「ミア!もうあっち行ってろ!」
雅秋は顎で上手を指した。
「でも‥‥‥‥‥」
戸惑うミアに、きつく言った。
「いいから行け!」
ミアは二人を気にしてその場に佇んだままだった。
リアスは上手袖の陰で朗読練習をしていた。雅秋が険悪な顔で侍姿の男子と向き合っているのが目に入った。近づいて様子を伺うと、雅秋と侍男子の横でミアがおどおどしている。リアスは迷わずミアの手首をつかむと上手袖の奥へと連れて行った。
「おいおい、雅秋。今までギブアンドテイクでそうしてきたじゃん。なんだよ?おまえここんとこ変わりすぎじゃん?つまんねーやつ。」
「俺はもう、そういうのしねーし、止めたから。今度ミアに触ったらマジ殺す!」
「‥‥‥‥ふーん。甲斐がそこまでいうなんてますます興味が湧いてくるじゃん。あの子、純情そうだったよな。どうせおまえのしてきたこと全然知らねーんだろ?上手いこと言って騙してんの?ま、この話は後でね。ふふん。」
桃山は雅秋にそう耳打ちした。
その頃、濃濃夜と馬白とユミは文化祭を回っていた。
「なーんだ!生きてるスライムじゃなかったんだねー。ココてっきり魔術でスライムを生み出す実験かと思ちゃった。ここは魔法学園じゃないのにさー。えへへ。」
「ココはまさか魔法学園が本当にあると思っているの?」
ユミが眉をしかめて濃濃夜を見た。
「えっ!無いの?」
「ココは無自覚厨病だな。」
「ねえ、あそこでお鮨食べようよ!ちょっと列がながいけどさ、きっとおいしいからだよ。」
「ココ、ここはお化け屋敷だよ。えーとね、緋鯉のお化けがでるみたいだね。家にもいるだろう?」
馬白が看板を見て濃濃夜に教えた。
「なーんだ。残念だな。でも、もしかしておうちの鯉でもお鮨作れるのかなぁ?試してみる?」
「ココ、あれはパパの大切なお魚だからね、そういう目でみないでくれないかな‥‥‥‥」
その頃島田は漆塗りの美しい宝箱から松ぼっくりをひとつ取り出した。
この松ぼっくりはこの学校の松の木に実る松ぼっくりの中に年に1つだけ実る特別な松ぼっくりだった。
この学校にいる生徒や教師などの人間、住み着いている生物からわずかづつ霊気を集めて自分のものにしている蓮津姫からの感謝の贈り物だ。
この松ぼっくりには蓮津姫の霊気が込められていて、願いを叶えてくれる魔力がある。
これは、誰でも拾うチャンスがあるのだが、一見普通の松ぼっくりと区別はつかないため、結局島田にしか見分けは出来ず、島田が拾うことになる。
だが、たくさんの高い松の木のたくさん実る松ぼっくりから探し出すのは大変なことだった。
松ぼっくりは実っても何年も落ちて来ないこともあるし、実った場所を見つけても知らぬ間に風で落ちて飛ばされて行方不明になってしまうこともある。
島田はどうせ自分しか見つけられないのだから、蓮津姫は素直に私によこせばいいのにと思うが、蓮津姫いわく、この学校の誰もがこれを得る権利があると言い張ってこのスタイルを変えようとはしない。
島田は今、その貴重な蓮津姫の松ぼっくりをひとつだけ掴んだ。
「今日は特別な日だ。二十数年ぶりにあのイタズラぼうずで那津姫の井戸に落ち、霊界の冒険をした馬白くんがここに戻って来た。そして馬白くんが霊界に落ちたその20年も前に霊界に落ち、時空空間で眠ったまま歳をとることなく眠り続けて漂っていたいたユミさんを救い出した。」
誰もいない図書室に向かって島田が言った。
「名波くんも、覚えているかい?彼らがここに戻って来た日のことを。」
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥』
「そうか‥‥‥‥あのときはたくさんの霊界の皆さんに関わった。あの心優しき黄金の鯉の成瀬様に出会わなかったら我々はどうなっていたことか‥‥‥‥」
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥』
「ああ、そうだったね、名波くんも成瀬様に助けられたと言っていたね。」
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥』
「君は成瀬様がいなかったら七瀬様に魂を殺されて消滅してしまうところだったそうだね?蓮津姫を追いかけた時に。そして今も成瀬様は君の後ろ楯になってくださっているんだろう?」
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥』
「ああ、今からみんな大集合するかもしれないね。この松ぼっくりで皆普通の人間にも少しの間だが霊たちが見える様にしてあげよう。今日は生徒たちもいろいろな仮装をしているからね。どんな格好の人がいてもおかしくはないだろう。だって君たちの物語が再現されているのだから、本人たちだって気になるだろう。」
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥』
「そうか、君は本来の侍の姿で真夏多さんに会いたいのか。ああ、それもいいかもしれないね。でも間違っても彼女をあの世に連れ去ったりしないでくれよ!」
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥』
「‥‥‥‥そう、名波くんの愛を信じるよ。どれくらい持つだろうか?5分か30分か1時間か?僕にもわからないな。ああ、那津姫はキザシ様から霊樹の実を得ているからね、霊力が強くなっているから現れ易いだろうね。ここでも生徒に希に目撃されているし。相変わらずお茶目な姫様だね。ああ、無駄話はこの辺にしておこう。名波くん、用意はいいかい?では、魔力を解放するよ!」
島田は手にした松ぼっくりを拝むようにした両手で包み込んだ。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
口のなかでもごもごと呪文を唱え始めた。
島田の手のひらの中で松ぼっくりが青白い炎を上げ始めた。
島田の青白い炎を包んだ指先から煌めく光が上り始めた。それはさらさらと空間に上って行く。コンクリートの壁も天井もガラスの窓も、本だなも関係なく突き抜け広がってゆく。
煌めく光は生徒たちの体も突き抜け池の水さえ突き抜け旧落花生城の敷地を包み込む蓮津姫のシールド内を満たして行った。
これの光が見えている人間はここでは一人だけだった。満たされた霊力を感じることができるのは二人。
前者は島田、後者は馬白とユミ。
「馬白さん、これは‥‥‥‥‥‥島田先生が?」
「ああ、あれを発動させたんだ。きっと、彼らは錦鯉研究部の演劇に集まるに違いない。行ってみよう!」
「はい、私たちにも本当に見えるようになったのかしら?」
「たぶんね、この感触‥‥‥‥‥ユミにもわかるだろう?」
「ええ、とても。さあ、ココ、お兄ちゃんの所に戻るわよ。」




