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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第3章
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ブーイング

 舞台上ではミアと雅秋のその後の演技の間も客席でヤジと怒号と冷やかしは続いていた。


 それはミアと雅秋がそれぞれ上下にはけるまで静まらなかった。



 上手(かみて)に戻ってきたミアにのばらが言った。


「客席のヤジがすごいわね。今回はミアちゃんとあいつの配役だからそれぞれの推しが集まって対立してるんだわ。その中で二人が何の遠慮もなく演技するからますますファンはあおられてるわ。」



「‥‥‥‥あ‥‥‥‥私、雅秋推しからまた嫌がらせを受けるかも?」


 ミアの顔が曇った。


「‥‥‥‥どうなるかはわからないけど‥‥‥これは演技なんだもの、気にせずにやってちょうだい。それに、ミアちゃんにまた何かしてきたら私が許さないわ!私が暗黒返ししといてあげるから。」


 のばらはくちびるに冷笑を浮かべた。


「あ、あの‥‥‥暗黒返しって‥‥‥‥?」


「あ‥‥‥‥‥なんでもないわ。ダークサイドのことは。うふふふ。ねえ、そんなことがあったら座家くんだってミアちゃんを守ってくれるわよね?」


 のばらがリアスに言った。


 のばらに会話を振られたリアスはギクッとしたが、思いきって振り向いた。


 ミアはリアスを不安そうな瞳で見ていた。



「あったり前だろ!そんなの。」


 リアスはにかっと笑ってみせた。


 リアスを心許なく見ていたミアの瞳が潤んだ。


「あの‥‥‥リアス‥‥‥‥‥ありがとう。さっきはごめんなさい。私いつもリアスに甘え過ぎていたの。」


 ミアの目の周りが急に赤らんできた。


 リアスはその表情からミアの心の中の自分の存在を確信した。そして自分を見ているのは相変わらずの控えめで優しいミアだった。


 リアスはミアがやはり愛しくてたまらない。今は諦めるなんてできやしない。


「ミアは悪くない。俺が不機嫌で‥‥‥‥ごめん、ミア。」


「良かった。私、リアスに嫌われてしまったかと思って涙が出てしまったのよ。」


 リアスを見つめる蓮津姫メイクのミアはいつもと違った色香が漂っていて、まさしくリアスがキスしたいのはやはりこのかわいくてやさしいミアだけだった。


「んなわけねーじゃん。ばかだな。」


 リアスはミアを抱きしめたかったがリアルでは許されないことだった。

 両手をきつく握りしめた。




「ちょっと、あんたたち!もう舞台に集中して!」


 のばらの喝がとんだ。




 のばらの手のひらで転がされたミアとリアスは自然と会話を交わすきっかけを得て仲直りできた。


 ミチルは、のばらとリアスの秘密の出来事もミアとリアスの一時傷つき回復した微妙な関係のことなど知ることもなく舞台の隅で朗読を続けていた。


 蓮津姫と牧野様が密かに愛を育む様子と、そんなある日、牧野様と別れを余儀なくされてしまった所まで朗読された。



 そして再びドラマチックシーンに突入する。


 蓮津と牧野様が別れる場面だ。これが生きて二人が会った最後の時だ。



 上手(かみて)からミアが出た。下手(しもて)袖では雅秋が舞台上にミアが出るのを見ていた。



 ーーーミア、さっきは舞台の上で俺にコクってくるなんて。ふっ。

 ミアは俺に夢中になってんのはわかってる。でも、ミアの心の一部には座家が入り込んでしまっている。あと、まだ大きな懸念が1つあったはずだ。なんだったか‥‥‥あれは誰だ?ミアはその誰かを想っている?俺とつきあう前から‥‥?思い出せそうで思い出せなくて胸くそ悪い。



 ミアが舞台中央まで沈んだ顔で歩きながら言った。


「今日が牧野様にお会い出来る最後の日になることでしょう。」


 雅秋が下手(しもて)から思い煩う牧野様を演じながら出てきた。


「‥‥‥‥‥ああ、俺はこの日が来ることを恐れていた。ずっと‥‥‥再会したあの日から‥‥‥‥」


 ミアと雅秋はは舞台中央で向かい合った。


 ーーーミアは自身に愛情を示してくるやつらには同じように愛情を持って接する。あいつらの下心に気づきもしないで。


 その結果、見てみろよ?


 ミアは俺を特別だと言っておきながら俺の後ろには何人の男が並んでいる?

 胸くそ悪いあいつらを一掃するにはどうすりゃいいんだ?




「牧野様‥‥‥‥私は、お家のため、領民のため嫁がなくてはなりません。」


 ミアが悲しげにうつ向いて行った。


「これが最後のお願いです。」


 ミアは雅秋の目を切なげに見つめた。


「牧野様、わたくしを強く抱きしめてくだいませ!」


「蓮津‥‥‥‥‥!」




 雅秋はセリフを言った後、リハーサル通り5つ数えながらミアを見つめた。


 ーーー確かにミアはガチ美少女だ。でも他にもかわいい子はいる。それなのに俺はもはやミアにしか興味はない。俺はミアの愛情すべてを必ず俺だけのものにしてやる!


 見てろ、座家、『ガチいけてるイケメン』、その他客席の雑魚ども!....5。



 雅秋は二人きりの時と同じようにミアを抱きしめた。

 ミアに無理やりにキスでもしそうな勢いだ。


「雅秋っ、だめよ!こんなことしたらまた客席からブーイングが‥‥‥‥」


 ミアは雅秋の腕の中で焦った。


「気にすんな!俺たちの仲をあいつらに見せつけてやろうぜ!」


 ミアの耳にそっと告げた。


 ミアは離れようと押したが雅秋は許さなかった。



 客席からは先ほどより激しくヤジと冷やかしが飛んだがかまわず続けた。




「牧野様‥‥‥‥‥愛しております。」


 ミアが顔を上げて言った。

 ミアの目は『雅秋やり過ぎよ!』と訴えている。




「蓮津‥‥‥‥‥おまえを絶対誰にも触れさせない!」


 ミアがさらに困った顔になった。

 雅秋のセリフが違う。



「触れさせない‥‥‥‥‥つもりだったのに‥‥‥‥だがっ‥‥‥」


 雅秋は適当にごまかして下手に下がって行った。



「男たらしー!たらし撫子!」


「イケメンキラー!」


「策士女!」


「つばき姫!甲斐先輩につばつけないでー!」


 ミアは客席からの雅秋推しからのヤジが心に刺さり涙がでそうだったがくちびるを噛んでこらえた。


 蓮津姫の演技を続けなければならない。

 雅秋が去った方を悲しげに少しの間見つめてからとぼとぼとうつむいて上手に戻って行った。


 客席はざわめいたままだった。悔しがったり、羨ましがったり、面白がったり、怒ったり、呆れたり、反応はそれぞれだった。



「これって、雅秋先輩ったら、すっごく見せつけて来たねー!超リアルなラブシーンじゃん。ミアになにする気だよー!ミアと抱き合うシーン以外はめちゃ適当な演技のくせに。そう思わない?キリル。」


 柊也はミアを手に入れるためには、雅秋はとんでもなく邪魔な存在だということを改めて思い知った。


「思うわ!なんか作為的なものを感じるわ。ヤジってる奴らは本当嫌な感じね!ミアも泣きそうな顔してたし。」


 ルイマはますますアンチ雅秋となった。



 マナカがメインの第3幕となった。



 蓮津姫のミアと那津姫のマナカのおしゃべりシーンの後にマナカが井戸に飛び込み、黄金の鯉に飲み込まれてしまう迄だ。


 マナカは今回も見事なジャンプを決め、観客を驚かせた。


 マナカは黄金の鯉に飲み込まれる叫び声をリアルにあげ、ミチルが少し()れた声の朗読で締めくくり無事第3幕は終わった。



 そして、第4幕。



 那津姫のマナカと鯉の化身の中村というラブラブ真っ最中の二人により、舞台上でハートマークが撒き散らかされた。


 客席はまたもや冷やかしと指笛、ヤジで盛り上がった。



 中村とマナカは仲むつまじく手をつないで下手(しもて)にはけて行った。


 ミチルの朗読が入った。

 さすがに出ずっぱりでの3回目の朗読役はきつかった。

 所々声がかすれてしまった。




 朗読が一旦止まった所でミアと雅秋が舞台上に再び登場した。


 ミアはまたとんでくるであろう客席のヤジを恐れていたがリアスに励まされ持ちこたえた。



 舞台中央にて、雅秋がミアの手を取って言った。


「お会いしとうございました。わたくしは牧野様を亡くしたとて、想わぬ日は1日とてありませんでしたわ。さあ、今こそ神の審判の時。共に成仏の道へと進みましょうぞ。」


 ミアが客席の反応を恐れつつもほほえみを雅秋に投げかけた。


 雅秋は自分を見つめる美しい蓮津姫にマジで見とれてしまった。もはやこの憂いのこもった儚げなほほえみから目が離せない。



 神に変身した中村がゆったりとした歩きで進み出た。舞台中央の奥で止まり客席の方にくるりと向きをかえた。


 ミアとの雅秋はリアスの前でひざまづいた。そして来世を誓いあった。



 ーーーそうさ、俺とミアは究極お似合いカップルだからな!お前らがいくら割り込もうとしても無駄だぜ?ミアのほほえみは俺のものだ。


 雅秋が片膝立ちのままミアの手を取り微笑みをかわした。


 雅秋はお得意の決め顔と決めポーズでミアと見つめ会う。


 観客は美しい二人に羨望の眼差しを向けた。たしかに二人は見た感じはお似合いであることはまちがいない。



「牧野様‥‥‥わたくし、生まれ変わっても‥‥‥きっとあなたをお慕いするのですわ。」

 


 ミアは一部の客席の女子が怖くてもはや涙声にかわっていた。


 ミアの潤んだ瞳と切なげな色っぽい声がだめ押しで雅秋を虜にした。



 ーーーこんなミア、初めて見た。やばい、ミアの1年後、2年後、3年後どうなってくんだよ?

 もう、人前に出せねーよ。心配過ぎんだろ、これ?いっそ俺の部屋に閉じ込めとく?


「蓮津‥‥‥‥私もだ。」


 煩悩でいっぱいになった雅秋はもはやミアしか見えず、ミアの手を取るとミアの儚げな美しい姿を細かく観察し目に焼き付けようとした。


 そんな煩悩など欠片も顔に現すことなく爽やかに微笑む雅秋だったが、ミアの心の中は客席からの反応にびくびくだった。一秒でも早く終わってほしい。




 ミチルの朗読で締めくくられたが、ミチルの声は既に声が出にくくなっているのは明らかだった。









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