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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第3章
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イニシエーション

 その後ミアと雅秋のセリフが少し入った後ミチルの朗読で第1幕は終わった。


 ミアが上手(かみて)袖に戻るとのばらとリアスがいた。

 まだ出番のない中村はマナカのいる下手(しもて)に行ってしまっていない。


 ミアはリアスとは気まずくなっていた。


 雅秋の帯結びを頼もうと思ってほんのひと言話しかけただけだった。リアスを怒らせてしまうような心当たりは何もないのに突如リアスに冷たくあしらわれ、ミアは傷ついて逃げ出した。


 もしかして、雅秋の手伝いを頼もうとしたので気を悪くしたのだろうかとミアは考えたが、あれはミアが頼みごとを言う前の出来事だった。


 それに、少し前にリアスは雅秋とひと悶着あったがその後は雅秋がリアスの赤点対策のチューターを買って出て、リアスも追試では高得点を取ることができた。関係はいいとはいえないものの表面上は普通に戻っていた。


 ミアはリアスを今も憎からず想っている。友だちでいようとお互い言ったとて、リアスは以前と同じようにミアを特別視していて、いつも優しくしてくれていた。それを当たり前のようにしていたことにミアは気づいた。


 ーーーリアスがいままでいつも私に優しかったのは私のことを好きだったから。ただの友情からではなかったの。

 それなのに‥‥‥‥私たちはただの友だちになったはずなのに、私はリアスの彼女ではないのに、私がリアスに返せるものなどないのに、いまだに同じようにリアスの優しさだけを一方的に奪っていた?それがリアスの不機嫌の原因なの?



 ミアはもうリアスにどう接すればいいのかわからなくなってきた。

 なるべくリアスの方は見ないように、接しないようにした。



 一方、リアスはミアを怒らせてしまい、このままマジで嫌われてしまうのではと落ち込んでいるのに今もミアにあからさまに避けられて、枯れ葉が一枚ずつ落ちてゆく落葉樹を見つめる気分になっていた。


 ーーーこのままミアにシカトされたままなら俺マジ死ぬ‥‥‥‥



 ミアは舞台の袖に立ち、雑念を振り払うため、胸に手を当て目を閉じた。そしてセリフを繰り返し心の中で唱えた。





 そして、生徒会で問題にされたミア演じる蓮津姫と雅秋の牧野様の再会と別れの第2幕に入った。



 蓮津のお付きの千蒔(ちまき)の手引きで秘密裏にお城の池の橋の上で蓮津姫と牧野様が再会するロマンチックシーンだ。


 ミチルの朗読から始まり、途切れた所で雅秋の登場となった。


 下手(しもて)から雅秋が一歩出て控えた。


「お久し振りでございます。蓮津姫様。」


 雅秋は生徒会の指導など無視するつもりでいた。ここで思いっきり演じなければこれに出る意味は無い。


 上手(かみて)の袖からミアが一歩出た。


「!」


 蓮津が目の前に突然現れた牧野様を見て驚く。


 ミアは雅秋を見て左手で胸を押さえた。なぜか雅秋を見て目が潤んだ。

 リアスのことでミアは心もとない状態にいた。



「またお会いすることがかないました。」


 雅秋が控えたままで顔を上げてさわやかに微笑んだ。


「牧野様!」


 ミアは改めて雅秋を見た。


 リアスに冷たくされた分、ミアの拠り所のない依存する想いは雅秋に向かって行った。今、目の前でミアへの想いを示している雅秋をとても愛しく感じた。


 思えば、雅秋からミアを突き放すような言動をされたことは一度もなかった。




 ーーー雅秋が好き。


 索が取り憑いたこととは関係なく‥‥‥‥今、雅秋自身を感じてそう思うの。

 今まで私が怒って雅秋を突き放して避けたことも何度かあった。でもそのたび雅秋の方から私を迎えに来てくれる。雅秋はとても心の広い優しい人。




「蓮津!わたしは元服しお城にあがったんだ。」


 雅秋は立ち上がった。


 雅秋を見つめるミアの瞳には少女の恋心が現れていた。

 ミアの妙にリアルな表情に雅秋は内心どぎまぎした。


「‥‥牧野様、もう1年近く経ってしまったわ。もう二度と会えないかと思ってわたくし‥‥」



 ミアと雅秋は舞台中央に駆け寄った。



「蓮津!」


「牧野様!」


 ミアが所定の場所で転びそうになったところを雅秋ががしっと抱き止めた。



 客席から悲鳴と怒号が上がった。



 客席の騒音に紛れさせ、下を向いたミアが雅秋の胸のなかでつぶやいた。


「雅秋が好き。」


 思いがけないミアの告白に雅秋の自尊心が高鳴った。


「ミア、だったら俺だけを見ていろ。」


 雅秋はミアを抱きしめながら耳元でささやいた。





「あいつ‥‥‥‥‥やると思ってた。生徒会から注意されたところで自粛する男じゃないわよね。」


 上手(かみて)ではのばらが呆れて雅秋を見ていた。


「‥‥‥‥‥なんだよ。これ見よがしに。ついさっきだって‥‥‥普段だって‥‥‥ミアとあんな風に‥‥‥‥‥くっそ!」



 先ほどから沈み混んだり不機嫌になったり怒ったりのリアスを見かねてのばらが言った。


「座家くん、あなたいつまでもミアちゃんだけ見てないで他にも目を向けた方がいいわよ。ミアちゃんを忘れなくたっていいのよ。ミアちゃんを愛している座家くんでも付き合いたいって子がいるかもよ?」



「は?そんなやついるわけないじゃん。他の女を愛してる男とつきあいたいなんてバカな女がさ。それに俺はこれから先だってミアとしかキスとかしねーし。他の女誘う気ねーし。」


「‥‥‥‥‥‥ふーん、やるじゃない。そんなことしちゃったんだ?それでこの間甲斐雅秋を怒らせてあの騒ぎになったんだ?」


「‥‥‥‥‥‥」


「それで‥‥‥‥‥ほんとかしら?ミアちゃん以外とキスしないなんて。」


 のばらがにやっと嗤った。


「今、私にキスしてもいいわよ?」


 リアスにささやきで言った。


 のばらがリアスの真ん前に立ちリアスのほほに手を触れた。


「なっ?」


 たじろいだリアスはのばらのが伸ばした右手の手首をつかんだ。


 リアスは急な展開にドキドキしながらのばらの美しい顔と魅惑的なくちびるを見た。


「‥‥‥‥‥‥‥」


 のばらは黙って目を閉じた。


「なんだよ、突然‥‥‥‥‥‥」


「ほら、いいのよ。」


 のばらが一度目を開けてからまた目を瞑った。


 リアスはのばらの艶やかなくちびるから目が離せなくなった。

 唾を飲み込んだ。


 そのままそっと一瞬口づけた。



 とたん目をぱっと開けたのばらが言った。


「ほーら、嘘だったわ!ミアちゃんを心の底で愛していたっていいじゃない!視野を広げなさい!」



 のばらは何事もなかったように次のBGMの準備を始めた。



 リアスはCDを確認しているのばらの後ろ姿を見ていた。


 ーーー今の何だった?え?え?‥‥‥‥‥もしかしてのばらさん、いつまでも落ち込んでうだうだしている俺の背中を押すためにこんなことを‥‥‥‥‥‥‥?


 やばっ、のばらさんマジ大人!




 ーーーうふふ、私やったわ!これでミアちゃんと間接キスしちゃったことになるわね!あはっ、ラッキー!


 のばらはCDを入れ替えながら小さくガッツした。




 何かすごくいけないことをしたような気がしてきたリアスはのばらの後ろ姿に言った。


「あの‥‥‥のばらさん、俺‥‥‥‥のばらさんにこんなことするつもりなかったんだ。のばらさんは俺に気づきを与えるためだったんだろうけど‥‥‥」


「え?何のこと?」


 振り向いたのばらが不思議そうにリアスを見た。


「何のって‥‥‥‥‥今、俺にミア意外に目を向けさせるためにキスさせたんだろ?」


 (いぶか)ってのばらを見た。


「‥‥‥‥あうっ、そうだったわね‥‥‥‥‥」




 のばらは、思いがけずミアとリアスがキスしたことを知った。


 ミアに直接手出しは出来ないのばらにとっては思いがけないラッキーだった。

 のばらはミアとの間接キスが目的だったのでリアスのことはただの中継点としか捉えてはいなかった。


 適当にらしき事を言った。


「ああっと、これは秘密よ!いいわね?陰ながらミアちゃんを愛する者同士の同志となるための誓いのイニシエーションだったのよっ!これで座家くんは『ミアちゃんを語る会』に入会したのよ。わかったわね?そしてそこから新たな道を一歩踏み出すのよ!」


「お、おう‥‥‥‥?」


「じゃ、これでおしまいっ!」



 のばらはリアスに背を向けた。



「‥‥‥のばらさんその会は他に誰いるんだよ‥‥‥‥?」



 リアスにはのばらの真意は想像など出来ないのだった。






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