てんやわんやの始まり
「来たよー、ミア!」
教室が解放されグリーティングに立つミアの前に早速ルイマが来た。
「うわー、すごくきれいだわ!ミア。一枚撮らせてね。」
ルイマはミアに抱きついてキャーキャー騒いだ後、スマホでミアだけ数枚撮った。それからミアと並んで一枚自撮りした。
「後でミアに送っとくから。劇、楽しみだわ!緊張してない?大丈夫よ、ミアだったら。うん、じゃあね。」
ルイマは隣にいる雅秋を見たが、雅秋は雅秋で一緒に写真を撮りたい女子が並んでおり忙しく、こちらにはかまっていられないようだ。
一言また忠告しておきたい所だったが無理そうだ。
ルイマは後ろに並んでいる柊也たちに先に客席に行っていると告げてからミアから離れた。
「あー、僕もミアと写真撮んなきゃ!やばっ!前髪上げてないじゃん、僕。町田くん、先にミアと写真撮ってて。」
柊也が後ろにいる町田に言った。
「オッケーー!真夏多さん、一緒に撮ろうぜ!化粧すると雰囲気かわるよなー。え?どうかって?もちろんきれいに決まってるよ。俺、昨日は定員オーバーで見れなかったんだぜ?今日は早めに来て並んだんだ。うん、いいって、別に。真夏多さんのせいじゃないよ。」
町田はミアと並んで3枚ほど自撮りした。
「うん、よっしゃー、なかなか上手くとれたぜ!じゃ、がんばれよ!」
ミアの肩をたたき、激励してからルイマの隣の席に座った。
「ミーア!やっと僕の番だねー!一緒に撮ろーよー、うぇーい!ねえ、僕の前髪大丈夫かな?今急いで留めたんだけど‥‥‥‥あ、ミアが直してくれるの?さんきゅー!さっすが僕のミアだねー。」
雅秋が『僕のミア』という言葉に反応して、ファンに写真を撮られながらちらりとミアの方を見た。
そこには顔をさらした柊也がいた。瞬間、これがあのミアの新しい彼氏だと噂になった同じクラスの『ガチ素敵なイケメン』だと確信した。
しかも、ミアはその『ガチ素敵なイケメン』の髪をピンで留めてアレンジしている。
それは親密過ぎる行為だ。
雅秋の心はざわついた。
ミアをたしなめようとしたが、自分の方も立て込んでいてミアに声をかけるどころではなかった。
それなのに、その『ガチ素敵なイケメン』がそれだけではなく今度は好き放題なことをミアに言っているのが聞こえて来た。
「うーん、さすがミア!いい感じになったじゃん。僕の髪。ありがとー!じゃ、撮ろっか。カシャッ、うん、もう一枚ね!カシャッ。うん、僕たちキレイに撮れてるよー。まあ、これって当たり前だけどー。うぇーい!ミア、今度さー、ぼくん家来る時はさー、泊まっていきなよー。一晩中二人でおしゃべりしてさー楽しそうじゃん。ねっ!えー、ダメってなんでー?いいじゃん!僕とミアの仲じゃーん。ま、この話は後でいいや。じゃあ、がんばってねー!」
雅秋はグリーティングなど、もう心あらずだった。
「すみませーん、残りの方は公演の後でお願いしまーす!出演者は用意してください。」
のばらの声が響いた。
「ミア、ちょっといい?」
戻りながら雅秋がミアの耳元で言った。
ミアはうなずいて雅秋を見た。
「さっきのミアが髪いじってた奴何?」
「何って‥‥‥‥同じクラスの友だちよ。」
「さっき、家に泊まれとか言ってたよな?」
「あの子はさみしがりやなの。特別な意味は無いのよ。気にしないで。」
ミアはそう言ってから上手に入って行った。
雅秋はミアの鈍感ぶりにいらっとしたがミアが『ガチ素敵なイケメン』に特別な感情は無さそうな事には安心した。
だが『ガチ素敵なイケメン』がミアを狙っているという事実を知った。
蓮津姫はミア、牧野様は雅秋、那津姫はマナカ、鯉の化身と救いの神は中村、朗読はミチルという配役で今回と最終回は行われる。
今回はのばらが音響効果を担いリアスは補助だ。
下手に入った雅秋は舞台袖から上手で待機しているミアを見ていた。
ミアは胸に手を当て目を瞑っている。
のばらが客席に総監督として挨拶に立ち、簡単に郷土の伝説について説明した。それから袖に戻り開幕のベルを鳴らすと客席は静まった。
ミチルの朗読が始まった。
「これは今、正にあなたがいるこの地この場所で生まれた物語。はるかはるか遠い昔から伝わる物語。そう、霊界の使者、黄金の鯉の現れる伝説の井戸は今もこの学校のどこかにひっそり眠っているのです‥‥‥‥‥」
今から牧野の屋敷で蓮津と牧野が初めて出会ったシーンをミアと雅秋により再現される。
蓮津姫とお付きの小雪がお忍びで町に出た時、想定外の出来事で牧野の屋敷に行くことになったいきさつがミチルにより語られている。
その間に、ミアは舞台の中央に出て行儀よく座った。
そしてつまらそうな顔できょときょと辺りを見回したあと、自分の手で影絵の狐や犬を作ってひとりで遊んでいる。
不意に雅秋が下手から飛びだして言った。
「よぉ、こっちに来いよ。池に魚がいるぜ。」
牧野様が縁側から現れたというシチュエーションだ。
客席から『キャー、甲斐先輩!』、『甲斐くん、ヒュー!カッコいい!』と黄色い声がかかった。
「ほんと?見せて!」
ミアが立ち上がって言った。
今度はミアに客席から低めの声ががかかった。
『真夏多さーん!うえーい』、『ミアさーん、サイコー!』、『フッフー!』
「こっちだ。」
雅秋がミアの手を取った。
客席から『キャー、嫌ぁ!』、『キャー、触ったー!』、『おい、手を放せお前!』、『真夏多さんに触るな!』声が重なって騒がしくなった。
「‥‥‥‥‥‥‥あああ、我慢ならないわ!これはアイドルのライブじゃないのよ!」
上手で音響をしていたのばらが わなわなしながら立ち上がった。
「えっ?なっ、何?どうしちゃった?のばらさん‥‥‥‥?」
体からめらめら炎立つのばらのおかんむりモードにリアスがびびった。
「‥‥‥‥‥すぐ戻るわ。」
リアスに言い残すと、スッと舞台に出た。
のばらは舞台中央真ん前に立った。
ミチルが舞台上の上手隅で驚いてのばらを見ている。
ミアと雅秋も手を取り合ったままフリーズした。
のばらは一礼し、鋭い眼光を放ちながら客席の騒がしい一部の生徒たちを見た。
「えー、劇の最中でありますが‥‥‥‥客席のみなさん、舞台にいるのは蓮津姫と牧野様です。お間違い無いようにお願いしますっ!引き続き伝説の物語をお楽しみください!」
最後にもう一度、客席に向かってのばらビームを目から放ってから一礼して戻って行った。
のばらビームに撃たれた生徒たちはぶつぶつ文句を言っていたが一般の観覧者にもじろじろ見られ黙った。
ムカつきが収まらない様子で戻ってきたのばらにリアスが言った。
「かっけーじゃん!舞台中にアルティメットのばら降臨だな!」
「あら、あんなものは私のアルティメットでも何でも無くってよ?」
「‥‥‥‥‥ミッくんはアルティメット勇者だな‥‥‥‥のばらさんの彼氏してるなんて。」
ミアはフリーズが溶けた後は雅秋と手を取り合ったまま素に戻りおどおどしていた。状況をにやけながら静観していた雅秋だがミアと目を合わせると小さくうなずきあい演技を再開した。
「見ろよ、これ、きれいな魚だぜ。この真っ赤のが椿ちゃんで、あの人面魚が桜ちゃんだ。あっ、俺は牧野信。」
雅秋が言った。
「わたしは蓮津。ここには少ししか魚がいないのね。お城の池にはもっとたくさんいるのよ。」
波乱の様相をにじませ始まった第1幕だった。




