リアスのジェラシー
「いよいよ次は雅秋の出番ね。」
ミアが持参したサンドイッチを袋から膝の上に出して言った。
一般公開日二回目を何とか終え、すべての観客が退出し部員たちは短い昼食の時間となった。
時間が余りないので皆持参した昼食をそのままここで取ることに決めていた。
のばらとリアスはもう舞台出演は無いので、それぞれ上手と下手で制服に着替えてから昼食だ。
先ほど公演が終わった後はちょっとした一悶着あった。
どうしたわけか、中村の妹とマナカの弟がばちばちと火花を散らし反目し合い周りをハラハラさせた。
だが、二人とも自分の姉と兄に言い聞かされ、一緒にいた友だちにもとりなされ、それぞれつんけんしながら去って行った。
「あれはなんだったのかしら?」
「さあな。喧嘩するってさ、仲良しなんじゃねーの?ほっとけばいいのさ。それより俺、早く食べて着替えて次の用意しないとな。」
雅秋が地衣の差し入れから炭酸水を取り出しながらミアに言った。
「私、着付けを手伝うわ。」
「おう、頼むな。」
雅秋は最近はミアに対する自信の上下が激しかった。ミアの一挙手一投足で気分が変わる。今ミアが彼女っぽいことを言ったので気分が上がった。
「次の開場は12時20分だからまだ40分位あるわ。でも私もメイク直しもあるし、急がないとね。」
「ん?中庭がキャーキャー騒がしいな。」
雅秋が窓の方を見ると、ミチルが換気のため開けた窓から中庭を見下ろしていた。
「生徒会主宰のコスプレコンテストが始まったみたいですよ。窓から見えます。今、二人の忍者が出現してますよ。忍者なのに派手に衣装をラインストーンか何かで飾ってキラキラ光ってますけど。」
「ははっ、隠密できねーな、そんなんじゃ。‥‥‥‥‥コスプレか‥‥‥‥桃山が出るって言ってたな、それ‥‥‥‥」
雅秋は桃山が後でこちらに来ると言っていたことを思い出した。自分に会いにくるというよりミアを見に来る気だろう。
ーーーミアは俺にとって特別なんだ。悪いが桃山みたいな女の子にチャラチャラとは関わらせる訳にはいかない。まあ、ミアの方からああいうタイプは避けるだろうが‥‥‥
雅秋は着替えがあるので特に急いでいた。ミアも合わせて急いで昼食を取った後、すぐに自分のメイクと髪と着付けを整え直した後、雅秋を手伝った。
ミアはスマホで検索した動画を見ながら雅秋の帯を結んでみた。
「うーん、何か変だわ。」
ミアは結んだ帯をほどいた。
雅秋にとってミアに着替えの世話を焼かれるのはいかにも恋人同士という感じがして気分は上げ上げだった。
真剣な顔で帯に奮闘するミアの姿はとてもかわいらしい。
しかも、帯を腰に回す時にはひざまずいたミアとかなりの接近だ。
「だめだわ!こんなんじゃ‥‥‥‥そうだわ!雅秋、ちょっと待っててね。」
「あっ、変でもいいって、ミア!」
雅秋の制止を無視してミアはさっと立ち上がり上手袖から出て行った。今朝、リアスが中村の帯を上手に結んでいたことを思い出した。
ミアは昼食を食べ終わって窓辺からぼうっと中庭を眺めているリアスに声をかけた。のばらは雅秋と仲がよくないし、頼れるのはリアスだった。
「あの、リアス。ちょっといい?」
ミアがリアスの袖をつんつん引っ張った。
「あ、ミア‥‥‥‥‥」
リアスは今の公演の前に4Fの渡り通路で雅秋がミアを抱き寄せた所を目撃してしまい撃沈したままだった。
「ちょっと、お願いがあるの。あの‥‥どうかしたの?大丈夫?」
ミアは何か憂いているようなリアスの顔色を気遣いつつ言った。
ミアがリアスをじっと見た。
心配げに自分を見ているミアの顔を見たとたん、先ほどのばらに髪の乱れを指摘されほほを染めていたミアと、密かににやけていた雅秋の顔がリアスの脳裏にフラッシュバックした。
「別に。‥‥‥‥‥‥‥俺なんかに何の用があんだよ?はん?」
リアスは窓の外に目を戻してから冷たく言い放った。
「あ‥‥‥‥の‥‥‥‥」
リアスの思いがけない超不機嫌な態度と冷たい声にミアは凍えてしまった。
「あ‥‥‥ううん、やっぱりいいの。休んでいたのにごめんなさい。」
ミアはショックを受け、すぐにきびすを返した。
リアスはくるりと後ろを向いたミアの細い手首をつかんだ。
顔だけ振り向いた蓮津姫メイクとなっていたミアは普段より色っぽく見えた。ミアの目にうっすらと涙が浮かんでいる。
「言えよ。」
「もういいの、ごめんなさい。」
「言えって!」
「ううん、本当にもういい。離して。」
ミアはリアスの手を振り落とすと客席の隅の席でミチルと昼食中ののばらの元に向かった。
リアスは浴衣の袖をはためかせて逃げて行くミアの後ろ姿を見て更に落ち込んでいった。
ーーー俺、ミアに八つ当たりして‥‥‥‥何やってんだか‥‥‥‥。
俺、ミアがあんなことくらいで泣きそうになるなんて思わなかった。
そして、時間は刻々と過ぎていき本日3回目の公演が始まろうとしていた。
あと数分で開場される。理科講義室の中にはグリーティングするため中村、マナカ、雅秋、ミアが並び待機していた。
「ミア、ありがとな。」
雅秋はミアと微笑み合った。
「ううん、のばらさんが帯を結ぶコツを教えてくれたの。そしたらかっこよく出来たわ。うふふ。」
浴衣姿で決めている雅秋とミアは誰が見てもお似合いの見目麗しいカップルだった。
戸を隔て、廊下の列にはミアと同じクラスのルイマと柊也に町田も並んでいた。
ゲスコンに出ていたリアスはルイマと柊也に話しかけられた。
「やっほー!来たわよ。ザッカリー!」
「座家くんは今回出ないんだー。出てたら一緒に撮ってあげたのにざんねーん!あははー。」
ルイマと柊也は劇をビデオ撮影する準備をしていた。
「‥‥‥‥‥ふん、全然残念じゃねーよ。俺みたいなゴミ撮ったってしょうがねーじゃん。」
「あれー?どうしたの?座家くん。そーいう態度はつまんないなぁ、絡んでくれないとー。陰キャラ化しちゃったのー?」
「どうしたのよ?ザッカリー。何か変よ?」
「‥‥‥‥おまえらに関係ねーから。はぁ‥‥‥‥顔は濡れてねーけどな、力がでねーんだ。はぁ‥‥‥‥心の中は突然の大雨でびちょ濡れ、みたいな?」
リアスはため息をついて二人から離れた。
ルイマはリアスはミアに振られたと柊也から聞いていたが、リアスの心の中にミアが住み着いていて消えてはいないのがありありにわかった。
「‥‥‥‥ミアが原因なのがまるわかりね。」
「えー!振られたのまだひきずってるのー?まだ諦めてないのかなー?」
「仕方ないわ。心は簡単にはいかないものよ、しばらく落ち込んだって普通よ、柊也。」
「そう?ま、簡単に上げ上げになる方法はあるけどねー。」
今回と最終回はミアと雅秋、マナカと中村での本物のカップル二組による公演となった。
のばらは監督として、きっと今回が最高の出来になるだろうと期待していた。
「ああ、どんなステージになるのかしら?楽しみだわー。ねぇ、座家くん。」
のばらがなぜか沈みこんでいるリアスの顔を覗きこんだ。
「あ‥‥‥‥はい。」
「‥‥‥‥どうしたのよ?ふにゃふにゃして!しっかりしてね。今日の公演が無事終わったら約束の『第一回ミアちゃんを語る会』を開いてあげるから元気出しなさいよ!」
「なんだよそれ?俺とのばらさん、そんな約束いつしたんだよ?今、そんな気分じゃねーし。」
「あら?嫌ならいいのよ、別に。ほら、もう開場の時間よ!出演者に知らせてちょうだい。」
のばらはさらっと受け流した。
「ったくよー。のばらさんまで冷てーなー。あっさり過ぎねー?もうちょっと絡んだりおしてくれよ。ま、いいけどさ、別に。」
リアスは理科講義室の戸を開けて知らせた。
「そろそろ開場しまーす。」
ふと、ミアと目が合った。
ミアはさっと目をそらして雅秋の影に下がった。
ーーーすっかりお姫様のご機嫌を損ねちまったな‥‥‥‥あんなちょっとのことで。
リアスは輪をかけて心が沈んで行った。
自分がミアに好かれているという自信が、ちょとくらいミアに不機嫌を見せて甘えてももいいだろうと油断させてしまった。
リアスが本当の彼氏だったのなら、ちょっと不機嫌を見せた所でどうってことはない出来事だっただろう。
この出来事でリアスはミアの中での自分の立場をますます思い知った。




