姉弟 兄妹
文化祭二日目第一回目の公演を終えた理科講義室から濃濃夜たち親子が去り、二人きりになった教室で、ミチルは心の内をのばらに告げた。
ミチルのひたむきさに少しばかり慈悲の念を抱いたのばらはとりあえずは引き続きミチルとつき合うことにしたのだった。
ミチルとのばらは既に次の公演ための準備を初めていた。なんだかんだともう次の観客の入場時間まで15分余りしかない。
「もうっ!みんな早く戻ってきてくれないかしら!」
のばらがイライラしながら言った時、ちょうどリアスが戻って来た。
「座家くん!遅いっ!早く次のセッティングしてちょうだい!もう時間がないのよ!」
「あ‥‥‥‥おう、わりぃ。」
浮かない顔で素直に謝るとそそくさと準備を始めた。
リアスの様子が変わったことに気気づき、のばらとミチルは無言で視線を交わし首をかしげた。
「ごめんなさい!遅かったかしら?」
それからすぐにミアと雅秋が戻って来た。
「もう、急いでちょうだい!二人とも!‥‥‥あら?ミアちゃん、風に吹かれたのかしら?髪が乱れているわよ。すぐに直して!」
のばらが指示した。
「あ‥‥‥‥‥はい、すみません。渡り通路に出てたので。」
ミアは左耳を触りながらなぜか顔を赤らめて楽屋スペースに入って行った。
その様子を見て雅秋は、客席の椅子をきれいに揃え直しながら口元に浮かぶ笑みを密かにかみ殺した。
ミアと雅秋の態度の意味を知るリアスはくちびるをきゅっと結びながら耐えていた。
観客入場5分前になってマナカと中村が戻って来た。
「ちょっと!昨日も午後の部に遅刻したくせに、あんたたちはっ!」
のばらの10万ボルトの雷が落ちた。
「ごめんなさーい!のばらさん。うふふっ。」
「すみませんでした!ほら、マナカ、早く支度しようぜ!」
「うん、そうね!ヒトミ。あはっ。」
しかし、恋が成就したばかりの二人には全く電気タイプの攻撃は効かないのだった。
「のばらさん、間に合いますから大丈夫ですよ。」
苦々しく眉を寄せるのばらにミチルが穏やかに微笑んだ。
「おい、座家。そろそろゲスコンだ。」
雅秋が呼んだ。
「‥‥‥‥‥あ、はい。」
「?」
雅秋は急にテンションががた落ちしているリアスを変に思いつつもかまわず廊下に出て行った。
グリーティングにはのばら、中村、マナカ、ミアが並んだ。ミチルは今回は舞台袖で待機している。
「開場します。」
リアスが皆に告げた。
キョロキョロしながら来場者が順に入って来た。
出演者たちは微笑みを浮かべながら手を振ったり、会釈して観客を迎え入れた。
突然どこかの中学校の制服らしきセーラー服姿のかわいらしい女の子が入ってきて一同をさっと見回し、中村に標準を定めると中村にがばっと抱きついた。
「お兄ちゃーん!来たよー!」
いきなり中村に抱きついたセーラー女子中学生にマナカは驚いた。
「おう、二葉!来たな!おい、ちょい、放せ。‥‥‥マナカ、これさっき言った俺の妹の二葉。」
くっついた二葉を押しやりながら横にいるマナカに教えるとマナカは笑顔ですぐに返した。
「あ、こんにちは。二葉ちゃん。私は池中マナカよ。」
「‥‥‥‥‥こんにちは。お兄ちゃんこの人何?」
「あの‥‥‥実は‥‥‥‥ははっ、お兄ちゃんの彼女なんだ。」
中村は右手でほほを擦り照れながら二葉に言った。
「え‥‥‥‥‥‥マジ?」
二葉の顔色が突然変わった。
その時、しゃれた黒いパーカーを着たシャギーヘアのかわいい男の子が入ってきてマナカの前に立った。
「よお、マーナカ!俺来てやったぜ!」
「流河!うえーい!」
マナカと流河はパンチするようにげんこつをがしっと合わせた後、肘を出して腕を軽くぶつけ合った。
「ねえ、ヒトミ。この子私の弟!中2よ。かわいいでしょ。ふふん!」
中村に向けて言った。
「え?マナカ、この人誰?」
中村を観察するようにじろじろ見た。
「えっとね‥‥‥‥じつはお姉ちゃんの‥‥‥彼なんだ。えへへっ。」
マナカが恥ずかしそうにもじもじしてよそを向いた。
「なっ、なっ、何だって!いつの間に!こいつ‥‥‥‥‥!」
流河が食って掛かるように反抗的な目つきで中村に言った。
「おまえっ、俺の姉ちゃんに手ぇ出すなんて!」
「は?ちょっと!あなた、私のお兄ちゃんに何言ってんのよ!あなたのお姉さんが私のお兄ちゃんを誘惑したのよっ!きっと。」
真横にいた二葉が流河に立ち向かった。
「おい!二葉、止めろ!」
「そうよ!流何、なんで怒っているの?どうしちゃったのよ。」
マナカと中村が二人の間に入って離した。
「‥‥‥‥何よもうっ!ロメルちゃん座ろ。」
後ろに離れて立っていた同じセーラー服の長い髪を二つ結びにした女の子を振り返って二葉が言った。
「う、うん。」
様子を見ていてひきぎみなロメルとぷりぷりした二葉は客席に向かった。
「ちっ!おい、沙入あっち行こうぜ!」
流何は親指で客席を指さし、離れて待っていた色白の細長い体型の長い前髪の男子とともに空いている席に着いた。
「もういいのかよ?これから面白くなるとこだったのにな、はん?」
「ちっ、相変わらずずいぶんなやつだなー、沙入はさぁ。」
「ふっ、お前のシスコンぶりには恐れ入ってっからな。」
そして、一般公開二回目の公演は始まった。
順調に始まり、今はミアの蓮津姫とのばらによる牧野様が絡んでいる。
「愛しております‥‥‥‥‥牧野様!」
ミアがのばらを見つめている。
「なー、あのねーちゃん良くね?」
沙入が流河の耳元で言った。
「ああ、マナカの次位だな。」
「‥‥‥‥はぁ。」
沙入が小さくため息をついた。
そして、マナカの重要シーンの鯉に飲み込まれるシーンが来た。
マナカが浴衣の裾をまくりあげた。
「お前のねーちゃん大胆だな。」
沙入が流河の耳に顔を寄せた。
「そうか?家じゃこれどころじゃねーけど‥‥‥‥?」
「ま、マジかよ?後で詳しく教えろよ!」
「那津姫様!何をなさっているのです!お止めくださいませっ!」
「止まれ!そこで待て。妾はあの鯉に用があるのじゃ。すぐ戻る。」
マナカは叫ぶと一回目の舞台と同じく、走り幅跳びのようにダダダーっと走り、ダンッと思いっきり踏みきり身軽に高くジャンプして井戸セット裏に飛び込んだ。
水に落ちる大きな飛沫の音がした。
「なっ、無礼ものめっ!‥‥‥‥きゃーっ!!」
井戸からマナカの声が響くと同時に舞台後ろ正面、で口を大きく開けた迫力の鯉の絵が展開された。
「おいおい、お前のねーちゃん喰われちまったぜ?そのうちあの彼氏にも喰われんじゃね?」
「‥‥‥‥黙れ、沙入。」
「うわっ‥‥‥怖ぇー‥‥‥」
第4幕に入り、中村が登場する場面がやっと来た。
舞台上では既にマナカが横たわっている。
中村ははそっと横たわるマナカに両手を伸ばした。
「ねぇ、二葉ちゃんのお兄さんと彼女、王子様とお姫様みたいだね。素敵!」
ロメルがうっとりしている。
「うん、お兄ちゃんは王子様みたいだけど、あの人はさー、ピグミーマーモセットって感じじゃない?」
「それはディスってるの?褒めてるの?‥‥‥‥?二人とも素敵だと思うけど‥‥‥‥」
中村は横たわるマナカの背中を抱上げ、立てた左膝と左腕で上半身を支えた。
「大丈夫か!娘よ!‥‥‥‥‥おいっ、目を覚ませっ!お前はいったいどこから来たのだ?なんと美しい‥‥‥‥名はなんと申す?」
「わらわは‥‥‥‥那津じゃ。他のことは‥‥‥よくわからぬ‥‥‥。」
「どうしたの?お兄さんようやく出てきたのに。眠くなっちゃったの?」
隣で目を瞑っている二葉の膝をとんとんしながらロメルがささやいた。
「違うよ。意識的に精神統一して見ないようにしてるの。」
「ねぇ、今日はこれ見に来たのよ?」
「‥‥‥‥‥見たかったのと違うもん!」
「そなたは‥‥‥誰じゃ?‥‥‥妾は何をしておったのか?何もわからぬ‥‥‥。」
「おお‥‥‥私の名はヒトミ。安心しなさい、俺が、俺がおまえが良くなるまでたすけてしんぜよう。」
舞台は続いている。
「私、こんなの見たくなかった!」
「俺、こんなの見たくなかった!」
敵対していた二葉と流河の意見は最終的には一致したのであった。
めでたし、めでたし。
次回連載はマナカ弟と中村妹を書こうと思ってます( `・∀・´)ノ ヨロシクー




