巡回 濃濃夜
馬白とユミと濃濃夜は図書室の手前まで来た。
「ねぇ、パパ。ココ図書室なんてつまんないよー!あっちの楽しい賑やかな教室の方に行きたいよー!ココひとりでも大丈夫だから行ってもいいでしょう?」
「まあ、ココも6年生だしなぁ。でも学校内から出てはだめだよ。今から1時間、えっと、11時前には図書室に戻って来なさい。いいね?」
「わーい!」
濃濃夜は左手のひらを上にして出してユミを見た。
「はいはい。」
ユミは濃濃夜に2千円渡した。
「行ってきまーす!」
濃濃夜は賑やかな中庭のバンド演奏を横目に渡り通路を通って新校舎へと走って行った。
ふと、ガラリと図書室の戸が開く音がした。馬白はなにげなくそちらに目を移しながら言った。
「さて、我々は島田先生にご挨拶に‥‥‥‥‥‥‥‥ああ、あなたは‥‥‥!」
見てすぐにわかった。
馬白は図書室から出てきた、ずいぶんとあの頃とは老けた懐かしい顔に目が潤んだ。
「島田先生!」
「ああ、やっぱり、君の声だったんだね。土方くん‥‥‥‥‥そのまなざしは全く変わってはいないがずいぶん老けたじゃないか?君は高校生のだったはずなのに‥‥‥‥‥‥」
「先生だって若くてお兄さんのような先生だったはずではありませんか‥‥‥‥」
二人は抱き合った。
そして固く握手を交わした。
「ユミさんもお元気で幸せそうだね。」
島田がユミをまじまじと見た。
「はい‥‥‥‥‥馬白と島田先生のお陰で私は‥‥‥‥‥こちらの世界へ戻ってこられて今は子どもも二人。」
ユミはハンカチで目尻をきゅっと押さえた。
島田はユミの肩をそっと叩いた。
「知っているよ。ミチルくんだろう。ミチルくんの父親があの土方くんだと知った時には本当に驚いたよ。優しくてしっかりした子だね。ああ、狭いあの部屋でお茶を入れよう、懐かしいだろう?覚えているかい?」
島田は二人を誘い図書準備室のドアを開けた。
「さあ、入って。」
「私は、まさか島田先生がまだこの学校にいらっしゃるなんて思いもしませんでした。」
馬白があの頃とそれほど変わっていない部屋を見回しながら言った。
「うわー!いろんなお店があるよ!」
濃濃夜はうきうきで新校舎の2Fに来た。
「ここの教室はなんだろう?」
教室の入口の受付に座っていた、ティアラを乗せキラキラしたドレスのお姉さんに聞いてみた。
「ここは何ですか?」
「ここはダンジョンよ!迷路になっているの。えへへー‥‥‥‥途中に罠があるかもよぉ?なーんと、ゴブリンも出ちゃうよ~!勇者は入って入ってどーぞどーぞ!ぶっへっへっへ‥‥‥‥」
そう言ったお姉さんの顔はとても不気味な笑いだった。
「‥‥‥‥ココ、怖いからやめようっと。」
「あっ、かわいいエルフもいるわよ!えっと、みごと攻略出来たら出口でお菓子ももらえるよ!」
「‥‥‥‥‥もう遅いよ、お姉さん。ばいばい!」
濃濃夜は隣の教室に行ってみた。
「ご自由にお入りくださいって書いてある。」
濃濃夜は入ってすぐに大きな声を出してしまった。
「わー!きれーい!すごーい!」
黒板には白いチョークで美しい星空と湖の森の風景画が描かれていた。
「よーし、良くできてるからココが赤いチョークではなまるをつけてあげ‥‥‥‥」
「あげなくていいの!全くガキんちょは油断ならないわね!」
濃濃夜は受付の女子に追い出された。
「うー‥‥‥‥。次は‥‥‥」
濃濃夜は隣のクラスを覗いた。
ここは列をなして混んでいる。
「焼きそばと目玉焼き‥‥‥ふーん。おいしそう。でも混んでるからやめておこう。1時間しかないもん。」
「すみません、アンケートです!お嬢ちゃんは目玉焼きに何をかけて召し上がりますか?」
突然、目玉焼きもようのTシャツを着たお兄さんに話しかけられた。
「ココですかー?うーん、ココはねぇ、気分によってかわるかなー?塩が多いかなー、でもケチャップの時もあるよ。」
「おお!ケチャップ‥‥‥なるほど。塩派、醤油派、マヨ派、ラー油派に今回新たにケチャップ派も加わった!新たな回答をありがとう!3年6組より、お礼にこのまずいと噂のこの焼きそばキャンディをプレゼント!」
「‥‥‥‥‥まずいんならココいらない!」
濃濃夜は駆け出した。
「おっお嬢ちゃん、冗談だよー‥‥‥‥行っちゃった。あの子、人を避けながら走り去る今のスキルはすげーなー‥‥‥」
「なんかさー、ここの階はつまんないかもねっ!上の階に行ってみよう。」
濃濃夜は階段を登って3Fに行った。
「うわっ!すごい列。」
登ってすぐの教室の前は長い列が出来ていた。教室の前の看板を見てみた。
『緋鯉の怨念~首切り羅刹の庵』というタイトルとともに赤い魚の首の絵が描かれている。
「えっと、『緋鯉のなんとか~首切りなんとかのなんか』って書いてある。よくわかんないけど活け造りみたい。お刺身かな?お鮨のお店かな?さすがお鮨は人気だね。食べてみたいけど時間がないよ、無理だよ。‥‥‥‥‥何か他に美味しいものはないかなー?」
濃濃夜は廊下を進んだ。
「えっと、ここは‥‥‥卵の殻に絵を描こう、だって。ココは食べる方がいいな。パス。‥‥‥‥‥えっと、次は‥‥‥‥『実験だ!スライムを作ろう』って、なんだろ?いいスライムなんだろうね?できたのが悪いやつだったら困るよ、ココ。出来たら飼わなきゃいけないの?実物なんてちょっと怖いし‥‥‥‥ここもスルーしよう。」
濃濃夜は何かいい匂いが漂っているのに気がついた。
「一番向こうだ!」
濃濃夜が看板を読んだ。
「『ミルキー.ミルキー‥‥‥‥牛乳を注ぐあなた』ってなんだろう?」
中は普通に軽食を売っているようだった。
おむすびやパン類、パックに入った唐揚げやコロッケ、ホットドックが並んでいる。
「あのー、ここは何のお店ですか?牛乳を注ぐって何ですか?」
そばにいたお姉さんに聞いてみた。
「あら、あなたひとりなの?迷子なの?」
「ううん、違うよ。ココ美味しいものが食べたいんだー。」
お姉さんと一緒にいたお兄さんが言った。
「じゃあさー、あれ、えっとー、1Fでやっているクッキング同好会のパンケーキが美味しいって聞いたけどー、混んでるかもねー。」
見た感じ前髪がすっげぇうざいお兄さんだ。
「ここはふつうのおにぎりとかパンしか売ってないのよ。あと、パックの牛乳とその他ドリンク類。希望者には牛乳をかけるための紙製のカップとスプーンを50円で売っているけど、買う人はいないわよ。」
ショートヘアのスラリとしたお姉さんが言った。
「えー!ココ、あと30分したら戻らなくちゃ行けないのにー!」
「‥‥‥‥しょうがないわね、私がさっき差し入れ用に買っておいたこのベビーカステラをあげるわ。まだ開けてないからだいじょうぶよ。」
お姉さんが紙袋を小さな手提げバッグから取り出して濃濃夜に渡した。
「でも、お姉さんのが無くなっちゃうよ?」
「いいよ。私はまだ時間あるし、また買いに行くから。」
爽やかな笑顔で濃濃夜に言った。
「これ、いくらですか?ココお金もってるから。」
「あなた、ココちゃんていうの?何か近くで聞いたことある名前だけど、珍しいってわけでもないし気のせいか‥‥‥‥ココちゃんにあげる。お腹すいてるんでしょう?」
「ありがとう!優しくてきれいなお姉さん!お姉さんの名前はなんていうの?」
「あはは!もらったからって気を使ってんの?小さいくせに!私はルイマっていうのよ。じゃあね、ココちゃん!」
「よかったねー、ココちゃん。このお姉さんいつもはケチなんだけどー。いたっ!」
うざ前髪のお兄さんが言った。
親切なお姉さんと耳を引っ張られたお兄さんは去って行った。
「わーい!いい匂い!じゃあ、ここで牛乳買ってって外の鯉の池のとこで食べようっと。」
濃濃夜は紙パックのミルクを買うと、ご機嫌で中庭に向かっていった。
1Fの渡り通路への出口から横に出て、校舎沿いに延びている幅1メートル程のコンクリート部分に沿って歩いて行った。
人がたくさんいたが、空いてる部分に入り込み校舎の壁に寄りかかって座り込んだ。
池の前の特設ステージでは男の人がマイクをつかみシャウトしている。あんなに叫んでいるなんてずいぶんストレスをためていたに違いない。
その横ではギターを持った人が、もしかして熱中症かもしれない、ゆらゆらしている。そのうしろのキーボードを弾いている派手なお姉さんとドラムスを叩くお兄さんは落ち着きなく首を振っている。何か霊的現象が起きている?ちょっと大きいギターを持ったお兄さんは地味に船をこぐように揺れている。顔色も悪いし寝不足で眠いのを我慢しているんだろうね。
池の3辺の周囲から観客が黄色い声をあげている。
「ふーん。こういうの初めて来たけど、文化祭っていろんな人がいろんなことしてて面白いね。」
濃濃夜は人物観察をしながらベビーカステラをパクつきミルクを飲んだ。
「そろそろ時間かな。戻らなくっちゃ。」
立ち上がるとぱんぱんとお尻を払いスカートについた食べかすを払った。
濃濃夜は短い時間の中でそれなりに文化祭を満喫したのであった。
いよいよ最終回が近づいて来ました!
後、数話で終わらせるつもりですが、自転車操業状態で投稿しているため続きがまだ出来てません。ぴえん。
さすがに最終部分はまとめて書かないと余計におかしくなりそうなので、一週間後位(?)に数話分まとめて投稿しようかなーと思います(・ω・ゞ-☆
最後まで読んで頂けたら嬉しいです。わーい!三連休だねー!




