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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第3章
84/102

のばら、クライマックス

 ーーーさっきのは何だったんだ!


 あのミチルの妹やらが、まるで家族全員でミアをミチルの嫁化計画してたような言い方だったじゃねーか!


 ざけんな!ミチルはあの地雷女とくっついてりゃいいんだ!



 後であいつらに俺の存在をしらしめておかねーとなっ!




 ミチルの妹、濃濃夜(ここや)の登場により、雅秋の昨日からの不機嫌の上にますます輪をかけてストレスがかけられていった。


 雅秋はミアやミチルにもさっきのはどう言うことなのか話を聞きたかったが本番中だったので抑えた。


 それはリアスにも同じことだった。


 確かにミチルとミアは幼なじみで特別なつながりあるのは知っていたがここまでとは想定外だった。






 そして、舞台上ではついにのばらにとってのクライマックスの瞬間が始まろうとしていた。




 ミアが切なげな表情でつぶやきながら上手(かみて)から現れた。


「今日が牧野様にお会い出来る最後の日になることでしょう。」



「‥‥‥‥‥ああ、私はこの日が来ることを恐れていた。ずっと‥‥‥再会したあの日から‥‥‥‥」


 のばらは下手(しもて)から苦悩しながら現れた。



 二人は舞台中央で向かい合った。



「牧野様‥‥‥‥私は、お家のため、領民のため嫁がなくてはなりません。これが最後のお願いですわ。」



 そして、ついにミアがあのセリフを言う瞬間が。




「牧野様、わたくしを強く抱きしめてくだいませ!」




 ーーーキター!ついにこの瞬間が!


 私の長い長ーいあの錦鯉研究部に足を踏み入れてからの怒濤の2ヶ月間!


 つい真に報われる時が来たわ!


 残念ながらミアちゃんを手折(たお)ることは諦めたけど。

 そう、ミアちゃんは鑑賞だけが許された決して汚してはいけない存在だったの。


 しかし!


 初志貫徹!ここまでは!しっかり頂いておくわ!

 この2ヶ月間の報酬として。




 のばらは心の中とは裏腹にのばらのキリリと描かれた濃いめの直線的な眉は寄せられ、煩悶(はんもん)する色男を美しく表現していた。



「蓮津‥‥‥‥‥!」




 ミアが悩ましげな遣る瀬無い表情でのばらを見つめてきた。



 ーーー1、2、3、4、5、ああ、ついにこの瞬間が!さあ、来るのよ、ミアちゃん!



 ミアが抱きついてきた。

 のばらもしっかり受けとめた。



 ーーーかわいいうぶなミアちゃん‥‥‥‥。あなたは殺伐とした裏サイトに通じてるのような世界の人間とは無関係でいて欲しいわ。


 だから私、これからは卒業するまで陰からあなたを見守っていてあげる。


 それが私の愛よ!





 ミアはのばらの心の内など知る事もなくのばらの男装の麗人ぶりに感銘をうけていた。


 ーーー発案から脚本そして監督までこなしてきたうえにこんな熱演まで出来るなんて!


 のばらさんてなんてすごい情熱と行動力の持ち主なのかしら!

 私もキリルやのばらさんみたいなアクティブな人になりたいと思って、私なりに変わろうと決意はしているけれど‥‥‥‥‥難しいわ。




「愛しております‥‥‥‥‥牧野様!」



 ミアはのばらへ尊敬を込めて言った。




「私もだ‥‥‥‥‥、蓮津!本当はお前の肌に何者も触れさせたくはないのだ。だが‥‥‥‥‥私の身分では!」



 のばらはミアの髪を撫でながら心の中でミアに言った。



 私、ミアちゃんみたいに純情な素直な子でいられれば良かったのだけれど‥‥‥‥それはちょっと出来ない天分なのよね。


 だって私は牧野のばらなんだもの。


 私、ミアちゃんに会えてよかったわ、うふっ。




 のばらの心の奥の英断とともに第2幕は終わった。





 そして、第3幕が始まった。


 ここでは、ミア演じる蓮津姫とマナカ演じる那津姫が仲むつまじく会話をかわし、その後那津が黄金の鯉に飲み込まれる。



 ロリに仕上がったマナカの登場に開場からかわいー、という声が聞こえてきた。


「ねぇ、ママ。あの子ココと同じ年位だよね?小学生が何で出てるの?」


 ココが母のユミの耳元で聞いた。


「ココ、あの子も高校生よ。役柄で子どものふりをしているだけなのよ。」





 今日は配役は昨日とは違っているが3回目の公演だったのでさらにスムーズに劇は進んでいった。

 ミアとマナカの会話シーンもほのぼのと進行した。


 そして、マナカの重要な場面が訪れた。

 黄金の鯉の鱗を得るために井戸に飛び込むシーンだ。



 マナカが浴衣の裾を上げた。

 マナカはおもいっきりまくり上げて中にはいているスパッツが出ている。



「那津姫様!何をなさっているのです!お止めくださいませっ!」


 舞台の袖の中から声がした。



 ココが夢中で見ていると不穏な響きの音楽が流れてきた。



 そして不穏な音楽の音はだんだん大きくなっていく。



 マナカは上手袖の方を振り返って叫んだ。


「止まれ!そこで待て。妾はあの鯉に用があるのじゃ。すぐ戻る。」



 マナカは走り幅跳びのようにダダダーっと走るとダンッと思いっきり踏みきり身軽に高くジャンプして井戸セット裏に飛び込んだ。


 雅秋が大きな水音に落ちる効果音を入れた。



「あの小さいお姉さんすごい‥‥‥すっごい高く跳んだ!」


 ココはつぶやいた。




「なっ、無礼ものめっ!‥‥‥‥きゃーっ!!」


 井戸からマナカの声が響くと同時に舞台後ろ正面、で口を大きく開けた迫力の鯉の絵が展開された。



 BGMがフェードアウトした。



「皆が井戸に飛び付き井戸の中を覗いた。それは鯉の口からはみ出した那津姫の足が鯉に飲み込まれる瞬間だった‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥井戸の中は何事もなかったの如く静まりかえり、ただ暗く水をたたえているのみであった。」





 ミチルの朗読で第3幕は終わった。



 一拍おいてから大きな拍手が起こった。



「ねぇ、ママ。ミアちゃんすっごくきれいだった!でもさ、あの鯉の絵怖いよ。夢にでちゃうよ。」


 拍手をしながらココが言った。


「ミアちゃんも知らない内にすっかりお姉さんになっちゃったわね。あの絵は迫力だわ。誰が描くのかしらね?ああいうのって。美術の先生かしら?」


「ママ、あのさ、もしかしてミッくんの彼女ってあの小さいジャンピングお姉さんかな?ミアちゃんがどうしても絶対無理っていうならココはあの小さいお姉さんがいい!」


「さあ、ミチルは写真も見せてくれてないし、ただ素敵な彼女を紹介するって言っただけだしね‥‥‥もしかしてミアちゃんのことかと思ったけど、ミアちゃんには3年生の彼氏がいるって言ってたから。でも、どんな子か楽しみね。」


「えー!ココ、さっきのジャンピングお姉さんがいいよぉ!」


「ココ、静かに!次始まるわよ。」




 ミチルの父の馬白(ましろ)はただ黙って物思いに耽って舞台を眺めていた。




 舞台では第4幕が始まろうとしていた。







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