役得
「ああ、もうこんな時間だ。そろそろ戻ろうか。」
のばらとミチル、リアスが1年5組催しの軽食喫茶店で昼食を食べ終えた所だった。
ミチルがスマホで時間を見て言った。12時45分を過ぎている。
「あれ、生徒会から錦鯉研究部部長宛ての連絡が来ている。なんだろう?」
ミチルは不安になってすぐに読むと、のばらを見た。
「のばらさん、明日の最後の部に生徒会の視察だって!3人分の席を用意しておくように‥‥なんてきているよ!」
「はぁ?何なのよ一体?あの人たち、もう前に視察したじゃないの!何考えてんのかしら!さっき煌とすれ違った時には何にも言ってこなかったわよね。」
のばらはかなりムカッとしたようだ。
「急だな。目的は何なんだろう?」
リアスが言った。
「今さらまた視察なんてどういうことだろう?」
ミチルが言った。
「本当ね。しかも一番最後の回って‥‥‥‥?」
のばらの顔が曇った。
「ミッくん、何で視察に来るのか聞いてみろよ。いきなり無茶振りだぜ?こんな直前にさ。明日の最終の部って、最後に見たってもう後には無いんだぜ?見てどうすんだよ?修正のしようもないじゃん。何が見たいんだよ?あいつら。」
リアスがミチルに言った。
「そうだね。今すぐ送るよ。」
ミチルは問い合わせのメッセージを即座に送信した。
少し前に煌が見回りから生徒会室に戻って来た。
今は神露と密談をしている。
「錦鯉研究部から問い合わせが来ましたね。」
神露が言った。
「ああ、見抜かれたかな?」
煌が神露の目を見た。
「さあ、どうでしょう?でもそれくらい役得があってもいいでしょう。僕たちは他の生徒たちよりこんなに多くの仕事をこなしているのだから。」
神露の口許が片方だけ上がった。
「だな。カモフラージュで時田も連れて3人だしな。時田は本当に視察だと信じてるし。」
煌がふふっと嗤ってからつけ加えて言った。
「理由は僕がそれらしいことを送っておくから。」
生徒会室の前に設置された最終日三日後に発表される『グレイトパフォーマンストップ10』投票のボックスには既に錦鯉研究部の票が感想とともに2票投票されていた。
その感想には『蓮津姫役の女子がガチ女優!那津姫の女子サイコー!極かわ!』、もう一枚には『郷土伝承の物語に感動しました。朗読もよかったです。』と書かれていた。
錦鯉研究部の劇の詳しい配役は簡単に知ることが出来る。
今日午前の公演では蓮津姫役はのばら、那津姫役はミアだ。
校外の人も閲覧できるネット上には詳しくはのっていないが、校内の事前の宣伝用に用意されていたリアルの文化祭特設の掲示板には各クラスや部活、有志らがそれぞれの詳しい情報をはったり、フリーペーパーのチラシを作って置いたりしていた。
錦鯉研究部でも宣伝のポスターの他チラシも配置しており、回ごとの配役表も載せていた。
煌は文化祭の最中は多忙だ。明日の最終回にはのばら出演しないようだが、行けばそこにいるはずだ。明日の最終回なら何とか時間を調整して行けそうだ。
それに行けばのばらに再接近するチャンスだと思った。素直ではないのばらに自分の方から仲を修復する機会を与えてあげよう‥‥‥そんな考えもあった。
一方、神露はミアを目的としていた。ミアの出演も見たいが、一番の目的は雅秋とミアの今の実情を探ることだ。
神露は先日、ミアと雅秋が別れたという事実ではなかった噂をのばらに吹き込まれ、危うくミアに告白してしまうところだった。
神露は確実に勝てそうな勝負しかする気はない。
二人は別れてはいなかったようだが、あの様子からして二人の関係は危うくなっているのは確かなように思えた。
とりあえず二人がそろっている錦鯉研究部の劇を見れば間近でどうなっているのか感じとる事が出来るだろう‥‥‥そう考えた。
それに普段じっとミアを見つめることなど出来ないが、演技しているミアならいくら見つめたところでおかしくはない。
神露が戻って来た煌に錦鯉研究部の視察を提言すると煌は文化祭期間中は忙しく、今さら必要性はない、と言った。そこで神露はパフォーマンス投票ボックスの投票用紙の感想を利用した。さりげなく煌に見せると真意が伝わった。
以前煌がミアを彼女にした、と言ったのはうまくいかなくなったのばらの気を引くための虚言だったと煌は言っていた。
確かにミアは雅秋とつきあったままだった。
ならば煌とはまだ協力し合える。
今、視察を実行に移すべく煌と神露により行動は開始されたところだ。
「あっ、生徒会から返信が来たよ。」
理科講義室に向かう途中でミチルが言った。
「えっと、1、前回指摘した指導が遵守されているのか確認するため。
2、錦鯉研究部の暗幕等の演劇用の貸し出しセットの予約時に
おける係の者による不手際が発覚した。(そのことに関
しては反省し再発防止のため今後予防策を講じる予定。)
演劇用貸し出し無しで公演を成功させた錦鯉研究部の手法を
視察し、今後に生かすため。
急で申し訳ないが協力を要請いたします、だって。」
ミチルがのばらとリアスの顔を見た。
「劇の内容がどうのこうのじゃなくってよかったけど‥‥‥‥‥。」
「‥‥‥‥‥なんかうさんくさいわね。あの人たち。」
そう言った後、のばらは一人ぶつぶつつぶやいた。
「私、煌にも恨まれているし‥‥‥‥‥この間、座家くんを助けるためにっていうか、劇を護るため神谷くんも利用しちゃったからなー、そちらにも警戒が必要なのよねぇ‥‥‥‥‥うっ、もしかして暗幕借りれなかったの神谷くんの方の仕業ってことも考えられたわね‥‥‥そういえば。‥‥‥全く、フレネミーが多いと苦労するわー‥‥‥‥っていうか私がみんなからフレネミー認定されてるわよねぇ、きっと。」
「どうかしたの?のばらさん。」
ミチルが独り言をつぶやくのばらを心配そうに見た。
「ううん、何でもない。仕方ない!明日は隅っこに3つ椅子を追加すればいいわ。これ以上他の観客を減らすのはよくないし。さっきだって入れない人もいたくらいだしね。」
のばらが提案した。
「そうですね、次は立ち見で良ければ数人入れてもいいかもしれません。僕たちには暗幕もなかったから教室内は明るいままだし、窓もふさがってないから開けて換気も出来ますし。」
ミチルが言った。
「そうだな。さっきはさ、廊下で教室の戸の小窓越しに見てるやつもいたくらいだからな。」
リアスが言った。
3人が理科講義室につくと既にミアと雅秋が戻っていた。
「ミア、どこを回ったの?どうだった?僕たちミアのクラスのムービー見てきたよ!すごくよく出来てたね!」
ミチルが言った。
「うん、キリルが本当にがんばったのよ。後でDVDにしてクラスで配るって。きっとリアスにもくれるわ。高校生活のいい記念になるわね。」
ミアがリアスに微笑んだ。
「そうだな‥‥‥‥あれは‥‥‥あれの撮影日は俺にとっても一生忘れられない1日だからな‥‥‥‥」
あの撮影の日の午後にリアスがミアの家で告白したのだった。
雅秋の顔が険悪になってきたきたことに気づいたミチルはすぐに話題を変えた。
「そうだ!明日の最終回で生徒会の視察が入ることになったんだ。」
ミチルが雅秋とミアに生徒会からの連絡の内容を話して聞かせた。
「誰が来るの?」
ミアが不安そうに聞いた。
「えっと、生徒会長の雪村先輩と副の神谷先輩と時田さん。‥‥‥‥ミアは雪村先輩には会いたくないよね‥‥‥‥‥」
ミチルが言った。
「うん‥‥‥‥。雅秋、私、雪村先輩が怖いわ。」
ミアが怯えて雅秋に言った。
「ちっ!うぜーやつらだぜ!設置したセットが見たいんならわざわざ公演を見なくたって終わってからでも来りゃ済むだろうが!なんて白々しいやつらだよ!ミアを見たくて来るに決まってる!大丈夫だ!ミアには一切関わらせないから。この俺がな!」
雅秋がますます不機嫌になってしまった。




