彼女はエンジェル
「‥‥‥‥‥桃山にはできるだけミアを見せたくなかった。特に今は‥‥‥‥‥くっそ!」
雅秋が後ろを向いてゴニョゴニョ一人愚痴った。
「どうしたの?雅秋。」
「あ、いや、別に。なあ、黒板アート見た後は昼飯どっかで買ってさ、理科講義室に戻ろうぜ。」
ーーー俺はミアをもうしまっておきたい。もう誰にも見せたくない。
俺はミアとつき合う前までは、かわいい女の子を連れて周囲にひけらかすのが常だったってのに。周りの羨望の眼差しが快感だった。彼女とはただのアクセサリーだった。
それなのに今は‥‥‥‥
桃山が俺が変わったって言うのは本当だ。
「えっ?せっかく時間があるのにどうして?もっと回りたいわ。」
ミアは初めての文化祭だけに色々見て回りたがった。
「‥‥‥‥俺、ミアと二人だけでいたいから。いいだろ?」
雅秋には10月のあの日からのダメージは大きかった。
ミアが雅秋を想って雅秋を彼氏認定していることはわかっているが、リアスのこともいまだに想っていることがミアから漏れている。
リアスはそれなりに引いた立場にはいるもののミアを想う気持ちが駄々漏れで、態度に出過ぎている。
ーーーここのところ、ミチルとのばらがミア争奪戦からドロップアウトしたが、まだ座家を筆頭に神谷、同じクラスのイケメンとやらがいる。さらに桃山にも注意が必要だ‥‥‥‥‥
俺、もう今月受験だってのに‥‥‥‥
雅秋はミアの彼氏の立場をキープするために苦悶の日々が続く。
1Fにある茶道部による茶店と変身した茶道部部室で抹茶と和菓子をいただき廊下に出た所で、マナカが紙にプリントされた文化祭プログラムを中村に見せた。
「ねぇ、ヒトミ!このさぁ、2年8組の『ミルキー.ミルキー』に行こうよ!」
「何だよそれ?」
「えっとね、いろんなものに牛乳を注いで食べられるんだって。シリアルにポテチとか、菓子パンとかおむすびとかに。」
「うっ‥‥‥‥‥やめとこうぜ、マナカ。まったく誰が考えたんだよそれ?びじゅチューン好きの仕業だな!」
中村が顔をしかめた。
「それよりほら、この2年1組のホラーハウスなんてどうだよ?『緋鯉の怨念~首斬り羅刹の庵』っていうやつ‥‥‥‥緋鯉の頭があなたを襲う、だってー!怖そうだなー。」
「‥‥‥でもさ、こういうのに私とヒトミが一緒に行ったらさー、まるでカップルみたいに思われちゃうんじゃない?」
マナカが上目遣いでチロっと中村を見た。
「そ、それは‥‥‥‥‥」
中村はいいよどんだ。
「‥‥‥今だってそう見えてんじゃん?文化祭を二人で回ってんだからさ。」
思いきって言ってからそっぽを向いた。
「そ、そうかなー?」
マナカもよそを向いて言った。
「だ、だから今さらそんなこと言ったってかわんねーよ!行こうぜ!」
照れながら中村がちらりとマナカを見た。
「そ、そうだね‥‥‥‥うんっ!」
マナカがほほを染めて中村の顔を見た。
ふと視線が合ったマナカと中村はお互いさっとそらした。
それ以上言葉をかわさぬまま二人の足は2年1組のホラーハウスへと向かって行った。
「ちょうど今、甲斐くんを呼ぼうと思っていたところなのよ。」
「ああ、ほんとごめん!ちょっと目を離した隙にに見学者がガードの内側に入って自撮りしようとして‥‥‥‥ぶつかって擦れたんだ。」
3年7組の黒板アートを見に雅秋とミアが来た途端、フロント当番二人が雅秋にすがってきた。
「うっ、ひでぇな‥‥‥‥‥ちゃんと見てろよ!お前らっ!」
黒板の一部崩れた絵を見た雅秋がいらっと二人を睨んだ。
「まじ、ごめん‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥私と紅林くんで直そうと思ったんだけど上手くいかなくて‥‥‥」
気まずそうに紅林カエデと伊調杏が言った。
「ったくよー!俺は知らねーよ!お前らで直せっつーの。」
雅秋が二人を突き放して冷たく言い放った。
不機嫌になった雅秋にミアが堪らなくなって言った。
「雅秋、この当番の方たちのせいじゃないわ。怒らないで!お願い‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥ミアには関係ねーだろ。」
雅秋がジロリとミアを見た。
「で、でも困っているんだもの。雅秋がっ、雅秋が手伝わないなら私が手伝うわ!」
ミアがむきになって言った。
「わぁ、あなたなんていい子なの!甲斐くんの彼女なのに外見だけじゃなくてまるで中身もエンジェル!だよね?紅林くん!」
伊調杏がミアの右手を両手で握って微笑んだ
「ほんとだよな!甲斐の彼女なのにかわいいだけじゃなくて優しくて親切なんて!」
紅林カエデがミアの左手をフォークダンスのように右手に取ってひざまずいた。
「あの‥‥‥‥‥なのにってなんですか?」
ミアが戸惑っているとそこには青ざめて立ちすくむ雅秋がいた。
「‥‥‥‥だ‥‥‥だめだ‥‥‥‥!ミアが手伝うなんて‥‥‥‥‥だめだ!」
「何言ってんのよ!甲斐くんが知らないっていったのよっ!いいわよっ!私たちこのエンジェルちゃんと直すから!」
ミアの手を握ったまま杏がむくれて言った。
「そうだ、そうだ!俺たち3人、エンジェルちゃんと俺と伊調さんでやるから甲斐はもういいからなっ!」
カエデがひざまずいたままミアを仰ぎ見ながら言った。
「お前ら‥‥‥‥知らねーから‥‥‥‥‥うっ‥‥‥‥」
雅秋がうつむいて右手で顔を覆った。
ーーーミアに絵を描かせる訳にはいかない!絶対に。だってミアの絵は‥‥‥‥‥
「どうしたの?‥‥‥‥‥雅秋?」
ミアは杏とカエデで両手がふさがったまま首をかしげた。
「‥‥‥‥‥わかったから‥‥‥もういい。俺が一人で直す。」
崩れた箇所を消し始めた雅秋にミアが言った。
「ありがとう!雅秋。私、雅秋のためにお昼ご飯買ってくるね。何がいい?」
「‥‥‥‥じゃ、ミアと同じのでいいから。」
「わかったわ。」
「俺も行くよ!エンジェルちゃん。一人で行ったら荷物になるし。」
カエデが言った。
「おいっ!何でミアと紅林が二人で行くんだよっ!」
雅秋がカエデを引き留めた。
「あれー?甲斐くん、焼きもち焼いてんの?じゃあ、私も一緒に3人で行こうよ。ならいいでしょ!ねー、エンジェルちゃん。行こっ!」
杏はそういうとさっさとミアと腕を組んでカエデを引き連れ出て行った。
「‥‥‥‥なんでこうなるんだ?」
入口には杏によって『修繕中立ち入り禁止』と書いた紙が貼られていた。
誰もいない教室で一人絵の修復をしながら雅秋は深いため息をついた。




