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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第3章
77/102

1年1組にて

 のばらを挟みミチルとリアスはルイマ脚本監督の1年1組出演のムービーを鑑賞していた。


 セリフが棒読みだったり、不自然に堅くなっていたり、照れ笑いしていたりして、いかにもアマチュアらしいところが面白い。知ってる人がどんな風に出演しているのか見るのも楽しい所だった。


 終盤の方に近づくとようやくミアとリアスのシーンが出てきた。





 二人きりの教室の壁によりかかって床に疲れたように並んで座り込んでいるミアとリアス。



『私‥‥‥本当は知っているの。』


 ミアは隣に座るリアスに向かって憂いをにじませて言った。


 ミアのアップが入った。


 会場のあちこちの席から、こそこそ話し声が聞こえる。



 ‥‥‥かわいいー、誰あの子?


 ‥‥‥ああ、あれ1年1組の真夏多ミアさんよ。


 ‥‥‥俺、あの子見たことあるぜ?中庭で。


 ‥‥‥私知ってるわ。あの子よ!あの甲斐先輩の彼女よ。


 ‥‥‥あの子甲斐雅秋と最近別れたって噂の1年の子だろ?


 ‥‥‥ガチかわいいじゃーん。俺、後で校内探しちゃおうかな。





 スクリーンの中のリアスが並んで隣に座るミアを見て言った。


『何のこと言ってんだ?』


 リアスのアップになった。



 ‥‥‥誰だよ?こいつ。


 ‥‥‥さあな?同じクラス誰かじゃね?


 ‥‥‥私この人知ってるよ。数学5点の人。


 ‥‥‥ああ、この人、真夏多さんと一緒にいるの見たことあるよ。




「ここからがミアとザッカリーのメインシーンだね!」


 ミチルが嬉しそうにのばらとリアスの方を見て言った。


「うふふ、そうね。」


 のばらはスクリーンから目を離さずに言った。





『元の世界に戻る方法。』


 膝を抱えて座ったミアが言った。

 この時のミアの膝にはケガはない。


 少しうつむきかげんのミアが斜め上から俯瞰するアングルで映し出されている。


『黙っててごめんね。リアスに側にいて欲しくて‥‥‥ずっと黙っていたの。』


 正面からの二人の全体ショットに変わった。


 そのまますぐにミアとリアスの正面からの二人並んだ顔のズームになった。


 リアスの左側に座ったミアがこてんとリアスの肩ににもたれかかった。




 スクリーンの中のミアがリアスに寄りかかったとたんに会場からはヒューヒュー冷やかすヤジが飛んだ。



「いっ、いつの間にこんなことを‥‥‥‥‥!」


 のばらはつぶやいた。スクリーンを見つつもチラッとリアスの顔を見て鋭い眼光を送った。


 リアスは隣に座るのばらから、なぜか左ももをバシッと叩かれた。



「痛っ!なんだよ?のばらさん。」


 リアスが小さい声でのばらに抗議した。


 のばらはつーんと知らんぷりしている。


「何かした?俺。」


 リアスは何がのばらの気にさわったのか全くもって不明だった。





 ムービーの中でリアスにもたれかかっていたミアは起き上がり、リアスに一枚の小さな紙切れを渡した。


『‥‥‥行って。リアス。今まで一緒にいてくれてありがとう。』


 ミアは決心したように立ち上がった。


 リアスはミアから渡された紙切れを見た。


 その手にした紙のアップシーンがちらり入った。


 そこにはこのパラレルワールドからの脱出方法と出口への地図が書いてある。


 リアスも立ち上がりミアに向かい合った。



 リアスの足元斜め下の床から仰ぎ見ているアングルの画面に向かって、リアスの手からミアに渡された帰還方法の記されたメモがハラハラと落ちてきた。



 ショットが変わり、画面左側にミアの後頭部が半分映り、右側にはその奥にいるリアスの顔がある。リアスが言った。


『ミア‥‥‥‥一緒に帰ろう。』



 次は画面右側にリアスの後頭部半分。その向こうに悲しげなミアの顔が映っている。


『‥‥‥‥私は無理。ここに残るわ。あの世界は私には苦しすぎるの。ごめんね。リアス、大好き‥‥‥でも、さようなら‥‥‥。』




 リアスは思い出した。


 練習の時、このセリフのあと思わずミアを後ろから抱きしめてしまったことを。

 あの時ミアは耳まで真っ赤になって後ろを向いたままだった。



 ーーーもし俺があの時点に戻れたら‥‥‥‥‥


 あの時、俺はミアを後ろから抱きしめて本心を言った。芝居のふりをした。


 俺があれは本当の気持ちだとちゃんと言えていたならば‥‥‥‥‥そしたらミアと俺の関係は今と変わってた?


 ‥‥‥‥‥いや、きっと何も変わっていない。ミアが甲斐先輩とつきあい始める前に告白していなければきっと何一つ変わってはいない‥‥‥‥‥俺は遅すぎた。





『‥‥‥ミアをおいて一人で戻れるわけねーだろ?』


 スクリーンの中のリアスが言う。


 ーーーこのムービーの中のあの時の俺はミアの友だちのひとりに過ぎなかった。

 今の俺も友だちのひとりに過ぎない。でも‥‥‥今の俺はそれだけじゃない。

 ミアは俺が好きだと言ったし、キスだってした。俺たちは両思いだ。


 だけど甲斐先輩がミアの『特別』でいるうちはそれでも俺に出番はない。でもさ、人の気持ちに永遠なんてない。俺は待つ。甲斐先輩とミアの気持ちが離れるまで。


 俺はミアの友だちのままで待つ。あの二人に何かが起こるまでは。





 スクリーンに一人づつ撮ったシーンが映し出された。


 潤んだ瞳のミアが大きく映った。


『‥‥‥‥でも‥‥私は戻らない。』


『なら、俺もここにいる。ミアがここにいる限り‥‥‥。』


 続いて左斜めから撮ったリアスの真剣な顔がスクリーンに映った。




 ‥‥‥うわぁ、この二人超ラブラブ設定じゃん。


 ‥‥‥こういうのちょっと憧れるぅー。


 ‥‥‥こいつら演技マジっぽいよなー。実はできてんじゃん?


 ‥‥‥この男子わりとかっこいいよねー。



 今、スクリーン上のミアとリアスは二人至近で見つめあっている。



『リアス‥‥‥。』


『ミア‥‥‥‥。』



 ーーー皮肉だよな。

 このムービーの中ではミアと俺は永遠の恋人同士だぜ?



 ムービーの結末ではミアとリアス以外はパラレルワールドを脱出して元の世界へ戻って行き、今までの普通に過ごしていた日常の幸せを知り、多少の不満を持ちつつもそれぞれ日々励んでいく。

 ミアとリアスはパラレルワールドのアダムとイブになったとナレーションで語られて片づけられていた。


 エンドロールの背景では撮影NGシーンやおちゃらけシーン、出演の無かったルイマと柊也の制作作業の様子もちらりと入っている。


 最後には二人並んで一言ずつメッセージが語られている。


 柊也はイケメンモードで『1年1組!みんな、大好きだよー』と指でハートをつくっている。ルイマは『1年1組、そして協力して出演してくれた他のクラスのみんな、ありがとう!みんなサイコーだよ!』と言ってから二人で『ウエーイ!』と手を振っておしまいになった。



 教室の電気がついて明るくなった。


 拍手がおさまるとすぐにアナウンスが入った。



「1年1組の制作ムービーはいかがでしたでしょうか?楽しんでいただけましたか?今後の改善のため教室前に用意しましたアンケートにぜひご協力をお願いします。では足元にお気をつけて退出してください。ありがとうございました。」





「ザッカリー、かっこよかったよ!」


 ミチルが早速リアスを褒めた。


「ああっ、もうっ!私だってミアちゃんと共演したかったわ!」


 のばらがリアスをにらんだ。


「えっ!さっきはそれで俺に怒ってたの?のばらさん。」


 リアスは小首を傾げた。


「何でミアとそんなに共演したいんだよ?」


 リアスはのばらと話すとたまに何か腑に落ちない『ん?』という、何かが違っている感覚には気づいていたが、それは何のせいなのかは未だ気づいてはいなかった。


 のばらのターゲットは雅秋ではなくミアだったということに。



「のばらさん。これ、1年1組のだし、2年生はさすがに無理です。」


 ミチルがのばらを宥めた。


「ミチル!いつだってしたいようになるよう仕向ける‥‥‥‥それが牧野のばらなのよ?」


 のばらが人差し指を立てながらミチルに訓示を述べた。




「ねー!どうだったー?土方くーん!」


 柊也が笑顔でやって来た。


「うん、すごく良くできていたよ!面白かった。ねえ、のばらさん?」


 ミチルが笑顔で言った。



「えっ!のばらさんってこの人()()のばらさん?」


 柊也が言った。



 ミアからよく聞く名前だった。先月起きたリアスの雅秋の呼び出し事変の時にもミアから聞いた名前だ。



「ちょっと、あなた!()()のばらさんって何よ?」


 のばらが機嫌悪く言った。


「うわー!こわっ!なんだよー、この派手派手しい人。いきなりさぁー、不機嫌丸出しでさー、初対面の僕にさー?やだなー、こーゆー人!」


 柊也が身を引きながら厭わしそうにのばらを見た。


「なっ!何ですって?あなたこそ‥‥‥‥‥」



 のばらが言い返そうとした時、ルイマが柊也を呼んだ。


「柊也!遊んでないで手伝いなさいよ!忙しいのよ。片付けてまた次の準備と当番の引き継ぎがあるんだからっ!」


「‥‥‥はーい、今行くー。じゃあね!土方くんっ!」


 柊也はミチルににこっと微笑んだ後、のばらをむすっと見てからルイマの所へ戻って行った。


「‥‥‥‥くっ!‥‥‥行くわよ!ミチル、座家くん!」


 のばらは柊也の後ろ姿に鋭い視線を向けた後きびすを返した。


 ミチルとリアスは顔を見合わせて一瞬含み笑いし合うと、揃ってのばらの後について教室を出た。








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