表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第3章
75/102

第4幕 その2

 ミアを抱え、にんまりして下手にはけたリアスだったがここで余韻に浸る時間はない。

 リアスはここで衣装の早替えだ。救いの神に変身しなければならない。


 リアスはミアを下に下ろした。


「リアスったら、もう!」


 ミアのほほを染めたかわいらしい顔が恥じらいでちょっと怒っている。


 だがそれが本気の怒でないことは明白だった。


「でもさ、盛り上がったじゃん。」


 リアスがニカっとわらった。




「さあ、ザッカリー、早くしゃがんで!」


 ミチルが白い布で出来た衣装を持ってリアスに着せるべく待機している。

 ミアもそれ以上は何も言わずにすぐ、神様役に用意してあるかつらとひげを手に取った。



 マナカはこのあとすぐの出番なので舞台上を見ながら待機している。


 先ほどのミアとリアスの演技中、マナカは上手(かみて)にて、ガチ(おこ)スイッチが入るまでの雅秋の顔をこちら側からずっと見ていた。


 座家くんがミアさんを抱っこした時の甲斐先輩の様子ときたら‥‥‥‥


 舞台を見ているよりもずっとおもしろいっちゃ失礼だが‥‥‥‥おもしろかった。離れて見ている分には。


 座家くん‥‥‥はけてきたのが下手(しもて)でよかったね‥‥‥


 マナカは心底そう思った。




 リアスがしゃがむとミチルに浴衣の上から白い布で出来た衣装ををすっぽり被せられた。


 ミアには丸い帽子に白いフェイクファーの布を貼り付けて作った手作りのかつらと白いひげをつけられた。


 リアスが立ち上がり、体裁を整えられたら早替え完了。あっという間だ。



 ミアとリアスが退場した直後から既に中村の朗読は始まっていた。


「鯉の腹の中で霊力を得た那津姫は霊界で黄金の鯉の妻となった。二人は仲むつまじく霊界で暮らした。


 自分の名以外の記憶を無くした那津姫は、黄金の鯉が自分を襲い飲み込んだことを覚えていない。

 黄金の鯉は那津姫が自分が10年前に飲み込んだ小さな姫だったとは最初は気づかずにいた。だが 那津姫が自分と全く同じ霊力を持っていることにやがて気づき、悟った。だがそれは心に秘めたままだ。愛する那津姫の記憶がいつ、ふと戻りはしないかと恐れながら‥‥‥‥‥」



 中村がここまで読み終わると、マナカは下手(しもて)から、のばらは上手(かみて)から同時に舞台に出た。



 さて、いよいよエンディングだ。



「私は殺されてから、成仏出来ずにいた。そのせいで蓮津を再び抱きしめることができるとは‥‥‥‥‥」


 舞台中央にて、マナカがのばらの手を取って言った。


「お会いしとうございました。わたくしは牧野様を亡くしたとて、想わぬ日は1日とてありませんでしたわ。さあ、今こそ神の審判の時。共に成仏の道へと進みましょうぞ。」


 のばらの計算された角度の美しい切なげな表情は見る者を惹きつけた。

 のばらはだんだんマナカのおもしろいメイクも見慣れて来ていて、もうにやけることはなかった。


 神に変身したリアスがゆったりとした歩きで進み出た。舞台中央の奥で止まり客席の方にくるりと向きをかえた。


 マナカとのばらはリアスの前でひざまづいた。



 リアスが低い声で言った。


「生前は随分と辛い目にあったようじゃな‥‥‥‥哀れな短い生涯を終えたお前たちにに特別に情けをかけようぞ。来世こそは必ず結ばれるように、転生する前にこれを食すがよい。」



 リアスは手のひらより大きい一粒のピーナッツの作り物の小道具を掲げて見せた。



「この愛の神の祝福を受けし一粒の落花生を半分に割りそれぞれ食せば、おまえたちはここで転生しても来世でまためぐり会い、次こそは必ずや結ばれるであろう。さあ、受けとるがよい。」



「いえ、神よ。わたくしたちにそのようなものは必要ありません。」


 リアスの前にひざまずくのばらが言った。


「ああ、そうだね。私と蓮津はそのようなものはなくとも来世では必ずやまた巡りあい引かれ合う。神よ、その貴重な落花生は他の誰かのためにお役立てください。」


 マナカが片膝立ちのままのばらの手を取り微笑みをかわした。


 ーーー後残り少ししかないよ!のばらさんのエッセンス、今の内にうんと吸収しておかなきゃ!


 マナカの右手に乗せられたのばらの左手の上に、マナカは更に左手を乗せ包み込んだ。



「牧野様‥‥‥わたくし、生まれ変わっても‥‥‥きっとあなたをお慕いするのですわ。」


 のばらがそう言ってうるうると見つめてくるのでマナカはメイクの下の顔はマジでてれてれになっていた。


 ーーーのばらさん、これなら日替わり彼氏を作ることも不可能じゃないよ。マジで。

 日替わり定食のごとく日々違った魅力の和洋中濃いの薄いのイケメンが入れ替わりたちかわり‥‥‥‥うっわ!ハーレム作れちゃうよ?うっ、!だめだ!今は煩悩封印!!集中よ!


「蓮津‥‥‥‥私もだ。」


 早々で煩悩を封じ込めたマナカは、のばらと手を取り合ったまま見つめ合った。


 そんなマナカの心中など知るよしもなくリアスは重々しくうなずくと、二人を温かい目で見つめた。




『これは、この地に伝わるいにしえの物語。さあ、この伝説に思いを馳せて見てください。あなたのすぐそばに生まれ変わった蓮津姫と牧野様がいるかもしれません。いえ、‥‥‥‥もしかしたらあなた自身が。思い当たることありませんか?』



 中村が締めくくった。



 一呼吸おいて台本を閉じ手を下ろした。




 地衣が真っ先にパンパンと拍手すると、瞬く間に客席に拍手の波が広がった。



「きゃー、マナカ!ファイアー!ウエーイ!」


 クロエとアレクが手を上げて振っている。


「きゃー、ラッキー!スクープ写真がたくさんとれたわ!」


 砂区が隣の友だちの女子と興奮してハイタッチしている。



 ステージに上に下手(しもて)からミアとミチル、上手(かみて)から雅秋が出てきた。



 皆で横一列に並んだ。ミチルの号令で揃っておじぎをした。


 拍手の音が更に大きくなった。



 ミチル以外は袖に下がった。


「‥‥‥えー、本日は錦鯉研究部の『鯉伝説~いにしえの恋』にお越しいただきありがとうがざいました。部員5人と協力臨時部員2名の7人でこの郷土伝説をベースにした劇を作り上げました。いかがだったでしょうか?‥‥‥できましたら、教室前に用意してありますアンケートに感想をいただけたら嬉しく思います。

 なお、ここで撮影された写真、動画はネットにあげることはお控えください。

 ありがとうがざいました!」


 ミチルが挨拶している間に出口の前でミア、リアス、マナカ、中村、のばらが一列にならび見送りの態勢をとっている。


 雅秋は戸口を開放し、ミチルの挨拶が終わると後ろの席の人から順に退出させるべく案内を始めた。


 出演者に声を一言かけたり一緒に写真を撮ったりする者が多くいて、退出には意外と時間がかかった。


 顧問の地衣は良くできていたとみんなを褒めたたえた。そして、マナカのおねだりもあり、明日は何か差し入れすることを約束して帰って行った。




 理科講義室は部員プラス雅秋とリアスだけになった。



「はぁー、みんなお疲れ様!これから自由時間です。それまで、文化祭を楽しんで下さい。午後の開始時間は2:00で、ゲスト入場は1:40だから、えっと、1:00くらいには戻って来てください。あんまり時間がないけど。」


 ミチルが言った。


「私はメイク落として来まーす!」


 マナカは早速クレンジングに向かった。


 中村がすかさず声をかけた。


「落としたら、一緒に回ろうぜ!」


「うん!じゃあ待ってて。」


 マナカが振り向かずに手を上げて答えた。



「ミア、俺たちも行こうぜ。」


 雅秋が言った。


「うん、じゃ、お財布取ってくるから。」


 ミアが下手(しもて)の奥に取りに行った。


 その隙に雅秋は小さいながらも怒りに充ちた声でリアスに言った。


「おい、座家。午後もミアに同じことすんなよ!ふざけんな!ミアに必要以上にべたべた触りやがって!」


「甲斐せんぱーい、あれは演技じゃん。俺が触ったってのとはちょっと違うぜ?触ったのは鯉の化身だから。」


 リアスは涼しい顔で答えた。


「‥‥‥俺は警告したぜ?いいな。」


 雅秋がリアスを威嚇した時、ミアが戻って来た。


「お待たせ、雅秋‥‥‥‥どうしたの?」


 不穏な雰囲気を察してミアが言った。


「何でもねーよ!行こうぜ。」


 雅秋はミアの背中を押して理科講義室を出て行った。



 ミアは雅秋の彼女。



 ミアと雅秋の後ろ姿を見ながらリアルに戻ったリアスの心は‥‥‥‥‥









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ