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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第3章
74/102

第4幕 その1

 第3幕までは好評を得て終わった。次はついにのばら創作部分の結末の第4幕だ。



 しょっぱなからマナカのメイクのしくじりがあり、予定外のことも起きたがそれなりにカバーしつつここまで来られた。


 のばらは第3幕では思いもよらずに拍手をもらい、感無量だった。


 最初はただ、ミアと自分の絡みシーンさえあれば後はどうでもいい感じで書き上げた劇であったが、部員たちと劇を作り上げていく内に、考えも変わってきた。

 だんだんと、みんなで作り上げるこのお芝居がいとおしくなっていった。だから、雪村煌の邪魔が入った時には何としても守ろうと思った。

 生徒会の余計なお世話も受けたが、皆で力を合わせ、この劇は完成した。


 憎き甲斐雅秋についても、いけ好かないやつだが、今回はそれなりに役に立ったのでまあ、この劇が無事千秋楽を迎えたあかつきにはそろそろ許してやってもいいかと思っている。



 ーーーこいつのお陰でミアちゃんともお友だちになれたし。



 以前雅秋とつき合ったと言ってもただ、雅秋がのばらの評判を聞いて特に好きでもないくせに告白してきただけだったし、のばらにしてみても、ただ人気の高い雅秋が寄って来たので利用してやろうと思っただけだった。どっちもどっちだった。


 話をしてみても雅秋とは絶対に相性が合わないのは明白だった。

 特につきあっているらしいことも全くなかった。ただ、メアドを交換しただけだった。


 そのうち1ヶ月もたたない内にのばらを一方的に振って来た。

 これにはのばらは憤慨した。

 そんなすぐに一方的に振られたなんて噂が立ったらのばらのプライドが許さない。


 のばらは雅秋に抗議のメールを大量に送りつけた。


 別に嫌がらせのつもりではなく、雅秋の刹那的行動に対する正当な抗議だったのだが雅秋は妄執地雷女の嫌がらせだと思っていたようだ。




 のばらは拍手による感慨から醒め、第4幕に集中した。

 創作部分だけに観客にどう取られるか気になる所だった。




「おい、第4幕音楽始めるぜ?」


 雅秋がのばらに言った。


「ええ、いいわよ。」


 静かなピアノのBGMが流され、ほどよい所で中村の朗読が始まった。



「幼いながら利発で活発で蓮津を慕ってくれていた那津姫を失い、さらに秘密の恋をあきらめきれないまま嫁ぐことに決まった蓮津姫は病んでしまった。


 悪いことは続き、蓮津の想い人、牧野までもが何者かによって殺されてしまった。


 これは大目付の仕業だと蓮津は考えていたが後にこれは蓮津の母の手の者による仕業だと知り、蓮津は誰にも言うことなく苦しんだ。


 この事実により蓮津は生きる力を無くしてしまった。


 那津が亡くなってから約一年後に蓮津まで亡くなってしまった。



 蓮津を輿入れさせることが出来なかった落花生藩は大目付から睨まれてしまった。美しく可憐な蓮津姫を手に入れることが叶わなかった落胆は恨みへと変貌したのだった。


 やがて藩主は後継ぎがいないとされて清瀬川家は断絶させられてしまった。


 人々は言った。


 那津姫様が黄金の鯉に手を出したばかりに天罰が下ってしまったと。」



 中村は顔を上げ、観客の方を見た。


 客席は聞くに忍びない悲惨な結末に陰鬱な雰囲気になっている。




 ()を置いてから再び続きの朗読を始めた。



「黄金の鯉に飲み込まれた那津姫は胸に入れていた護符に護られ、意識のないまま10年間もの間、黄金の鯉の腹の中で漂っていた。


 姫は霊魚の霊力を吸収し、成長しながら眠っていたのだ。


 那津姫は16才になっていた。



 その日、三途の川にて、あの那津姫をのみこんだ黄金の鯉は川底に住む大サンショウウオと対決していた。


 大サンショウウオは、美しい姿をひけらかし霊界の使いとして川を支配する黄金の鯉族をずっと疎ましく思っていたのだ。


 大サンショウウオはひとり川底にいた黄金の鯉を見かけた。これはふだん我が物顔で振る舞っている金鯉族に腹いせする好機だ。


 大サンショウウオはちょうどそこにいた毒岩ガニをそっと口に入れた。



 霊力の強い黄金の鯉にとって、大サンショウウオなど敵ではない。彼らにとって大サンショウウオは、ただのぬめった醜い川底に張りついているのがお似合いの与太に過ぎなかった。


 無謀にも向かって来た大サンショウウオを黄金の鯉はただ丸飲みにしてやった。これは鯉にとって一番手っ取り早く楽に敵を消去する方法であった。


 しかし、これは大サンショウウオの術策であった。


 大サンショウウオは口の中に隠し持ってきた毒岩ガニを吐き出した。毒岩ガニは驚き、鯉の腹の中を毒のはさみで刺した。

 大サンショウウオは防御技、濃縮エグ苦味粘液を皮膚から分泌させながらここぞとばかりに鯉の腹の中で大暴れしてやった。これにはさすがの黄金の鯉も吐き気をもよおした。

 黄金の鯉は一気に腹の中のものすべてを吐き戻した。」




 中村が朗読を続ける中、ミアは水に漂うかのようにしなやかに舞いながら舞台に出た。そして舞台中央に頭を上手(かみて)側にして、ふわりふわりしながら横たわり目を瞑った。


 朗読は続いている。


「黄金の鯉から吐き出された大サンショウウオは、普段は気取っている鯉が醜くえづく姿を見て溜飲(りゅういん)を下げ、格上の黄金の鯉に一矢報いて満足し、そそくさと泳ぎ去っていった。」




 一呼吸おき中村は続けた。




「黄金の鯉はその時、大サンショウウオとともに鯉の腹の中で護符に護られ眠っていた那津姫も吐き出していた。そして黄金の鯉は水に漂う那津姫を見つけた。まさかそれは自分が10年前に飲み込んだ小さな姫ぎみだとも気づかずに‥‥‥‥。


 鯉は人の姿に変化(へんげ)すると、見つけたその人間の娘を河原に寝かせた。目覚めた人間は透き通るような肌の美しい娘だった。」



 ここでようやくリアスの出番だ。


 リアスは上手(かみて)から登場する。


 リアスは上手(かみて)の袖に戻った時に雅秋にしこたま睨まれたが、出番直前のリアスには特に何も言っては来なかった。



 のばらに励まされリアスは舞台に踏み出した。


 リアスは舞台中央客席側を向き、横たわるミアを前に膝立ちした。


 そしてリアスはそっと横たわるミアに両手を伸ばした。


 床に倒れたミアに告白してキスをした時の事がよみがえった。


 目の前に目を瞑ったミアが横たわっている。


 ーーーあのくちびるに俺は触れた‥‥‥‥‥



 リアスが横たわるミアの背中を抱上げ、立てた左膝と左腕で上半身を支えた。

 ミアは力を抜いている。



「大丈夫か!娘よ!‥‥‥‥‥おいっ、目を覚ませっ!」



 リアスが右手親指でそっとミアのくちびるを撫でた。

 本当はリハーサルではただ軽くミアの肩を揺するだけだったのだが。


 ミアはびくっとしてからそっと目を開きリアスの顔を見た。


 リアスと目が合ったミアのほほが急に赤らんできた。



「お前はいったいどこから来たのだ?なんて美しい‥‥‥‥名はなんと申す?」



 リアスは本心からそう言った。

 横たわり乱れた髪まで美しく思えた。


 ーーーこのままこの世界に溶け込んで俺は鯉の化身でミアは那津姫だったらいいのに‥‥‥‥‥



「わらわは‥‥‥‥那津じゃ。他のことは‥‥‥よくわからぬ‥‥‥。」


 ミアが答えた。


「そなたは‥‥‥誰じゃ?‥‥‥妾は何をしておったのか?何もわからぬ‥‥‥。」


 ミアは虚ろに言った。


「おお‥‥‥私の名はリアス。安心しなさい、私がそなたが良くなるまでたすけてしんぜよう。」


 リアスがミアのほほをやさしく撫でながら言った。




「そして、二人は出会ったその時から急速に恋に落ちていった。」



 中村の朗読が入った所でミアとリアスは立ち上がった。



 ミアの合わせた両手をリアスが大きな両手のひらで包み込んだ。


 ミアとリアスはそのまま舞台中央で見つめ合って5つ数えた。



 客席から見た二人は影絵のように美しくお似合いで、ミアとリアスは本当に誓いをたてている恋人どうしに見えた。



 その後、二人は手をつないで下手にはけて行く予定だった。



 だが手を放したリアスは、ミアをいきなりお姫様抱っこした。


「リ、リアス?」


ミアが小さな声で言った。


「どうした?俺の那津姫様。」


リアスは事も無げに言った。


リアスは客席にペコリと頭を下げるとミアを抱いたまま下手(しもて)にはけて行った。



 客席はキャァーキャァーヒューヒューしばしの間盛り上がった。



 リアスは思い切り至福の時を演じた。



 ーーーこれは、劇の中のことだから。現実じゃない。

ただ那津姫と恋に落ちた鯉の化身のしたこと。

だから、これでもいいじゃん?


なぁ?甲斐先輩。





In my mind 美少女周囲ーーー本編第2部は那津姫、蓮津姫のストーリーです。霊界生物と織り成すファンタジーラブ。 ちょっと流血あり。


のばら作とはまた別の結末です。よかったら、読んでみて(o^-')b !

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