第3幕 その1
説明が多く長くなってしまいました(>д<*)
中村の朗読部分は本編In my mind 美少女ーーーの内容とほとんど重複してますのでお読みになったことある方は読み飛ばしてもいいかも(´ε`;)ゞ
第2幕が無事終わった。
現在、舞台奥の壁隠しのための黒い無地の背景セットのついたてには優雅に泳ぐ黄金の鯉の絵が貼られていた。
このついたての後側で上手と、下手が行き来できるようになっている。
次の第3幕では雅秋が描いた大口を開けた迫力の大きな黄金の鯉の絵を公開する。
最初は教室上部に取り付けてある、引き落とし式のスクリーンを使用して出そうと思ったが、スクリーンの位置と背景セットの位置も合わないことがわかり、絵もシワになると思われたので断念していた。
ミチルの試行錯誤の末、最初からはってあるの鯉の絵の上部に、すだれのように巻き上げた大口の鯉の絵を吊るしておき、上に吊っているひもを引っ張ってほどけば下部に棒の重りを付けた絵が一気に下に展開する方式にした。
背景セット裏の通路からひもを引っ張る役目は、今日はミチルだ。
リアスは上手で手伝うこともないので、次の登場のためについたての後ろを通り下手に移動した。
ミアは第2幕の蓮津と索(牧野様)の別れのシーンを見て、複雑な心境でいた。
この場面は練習で何度も見てきたが、本番の今は緊張感と相まって心に迫るものがあった。
身分違いの恋に命を落とした索と蓮津にミアは深く憐憫の情を感じていたが、生きている頃の索に愛された蓮津を羨み、嫉妬してもやもやしていた。
「第3幕いくぜ?」
雅秋がのばらに確認した。
のばらがちらりと客席を舞台袖から覗いてから言った。
「ええ、いいわ。スタートして。」
雅秋がBGMをかけた。
音楽が流れ、間を取ってから中村は朗読を始めた。
「蓮津は清瀬川家の姫の一人としての役割は心得ていた。側室に入ったおりには蓮津の美貌で殿の心を掴み、影から操る影響力を持たねばならない。わかっているのだが、心の中は牧野様のことでいっぱいだった。気がつくと牧野様のことばかりを考えていた。」
もうすぐ那津姫役のミアの出番だ。
下手に移動してきたリアスがふっと後からミアの肩を片腕で抱いた。
ミアは驚いて隣のリアスを見た。
「落ち着いて行けよ、ミア。」
にかっとリアスが笑った。
「うん、リアス‥‥‥‥ありがとう。」
ミアは、突然現れたリアスに驚き、同時にもやもやした雑念が消え去った。
ミアとのばらはそれぞれ上下から舞台中央に静かに出た。
のばらは座布団を1枚持ち、ミアは3枚持っている。下手側にのばら、上手側ミアが向かい合い座布団の上に正座すると、歓談しているようにパントマイムした。
その間も中村の朗読は続く。
「 この縁談が持ち上がってからは蓮津のお付きの者が増やされ、もはや牧野様と会うことは不可能となっていた。
今、蓮津は那津の部屋に呼ばれ相手をしている最中にもかかわらず、心ここにあらずのありさまであった。」
ここからはミア扮する那津姫とのばら扮する蓮津姫の掛け合いだ。
「妾はつまらんぞ!なぜそんな湿気た顔をしておるのじゃ。」
ミアはわがままな子供のように言ってのばらに不満顔を見せた。
「ミア、かわいいよなぁ、何やってもさ‥‥‥」
下手に移動したリアスは袖からミアを見つめていた。
そんなリアスを上手袖から睨んでいる雅秋の視線にマナカは気づいた。
「うっ!こわっっ!嫉妬の視線。さっき、座家くんさりげなくミアさんにタッチしてたもんね。見てたんだー、きっと。また何か起きなきゃいいけど‥‥‥‥」
舞台上では役になりきったのばらがミアにぎこちなくほほえんでいる。
「あ‥‥‥‥、申し訳ございません。那津様、わたくしは牧野、いえ、まき、まき、撒き餌などいかがかと思いまして。那津様、池の鯉に餌をあげに行きませんこと?那津様に餌を貰えば鯉も喜びましょう。 」
「なんじゃ、まきまき言いおって。‥‥‥‥‥近ごろは何かおかしいぞ。そうじゃ、蓮津に何かいいものをあげよう!そうすれば元気がでようぞ!何か欲しいものはないか?」
ミアがぴょこんと立ち上がった。ミアは子どもっぽく振る舞うよう心がけていた。那津は蓮津を心配するものの、恋する蓮津の気持ちはわかってはいないのだ。
「欲しいもの‥‥。姫様、わたくしの欲しいものは決して手に入らぬものですわ。」
のばらが斜め後ろを向いて翳った笑みを見せた。
「そうなのか?妾は今のところ欲しいものは何でも手に入っておるが‥‥‥‥‥何であろうか?妾より、もっと高貴なる者らにしか手に出来ぬものなのか?」
ミアは無邪気に首をかしげた。
「いえ、那津様。反対でございます。わたくしの欲しいものは ‥‥‥‥わたくしが姫として生まれたゆえに手に入らないのですわ。」
のばらが憂いた瞳でミアを見た。
「下々の者らに手に入れられるのなら蓮津には容易く手に入るであろうに。父上にお願いすればいいではないか。おかしな奴じゃ。」
ミアは雑念がふと、よみがえりそうになる。
「‥‥‥‥‥那津様もそのうちにおわかりになる日がまいりましょう。それより、さあ、池の鯉に撒き餌をいたしましょう。お天気もこんなによろしいことですもの。」
のばらがミアに優しくほほえんだ。
ーーー蓮津姫様、私、索が好きなんです。誰よりも‥‥‥‥‥
ミアは心の中で蓮津となったのばらに言った。
中村の朗読が入った。
「供を引き連れ城の庭に出てた二人は池の鯉を眺めた。そこには見事な色とりどりの鯉が広い池の中で憩いでいた。」
のばらはそこに鯉たちが泳いでいるかのように目線を泳がせながら言った。
「色々な色の鯉がいますわね、皆それぞれ違って、美しいこと‥‥那津様の一番好きなのはどれかしら?」
「うーん、妾は、あの薄い金の鯉が好みじゃ。」
ミアは泳いでいる鯉を指しているかのように床を指す指を動かした。
「金色の鯉‥‥黄金の鯉の鱗‥‥」
のばらがつぶやいた。
「何じゃ、それは?」
ミアが不思議そうにのばらを見た。
このあと、中村が黄金の鯉の伝説を語る長い朗読が入る。
その間、ミアとのばらは仲良く池を眺めているパントマイムを地味に続ける。
中村の見せ場である朗読が始まった。
「蓮津は、以前にお付きの千蒔から黄金の鯉の一枚の鱗の関するいにしえから伝わる伝説を聞いていた。
黄金の鯉の鱗一枚でどんな願いもかなうと言う言い伝えを‥‥‥‥
冥土に行く途中で通る三途の川に、見事な金色の鯉の一族が住んでいるいるという。
彼らは、あの世とこの世を自由に往来できる。代償を支払えば、伝言、時には品物、人間でさえ彼岸と此岸を超え運んでくれる。その代償は‥‥高くつくが。
その昔、周囲が諌めたにも関わらず井戸に現れし、その黄金の鯉を捕らえ食した壮年の強者がいたという。
その者は不死となった。
その結果、年を取り肉体が滅び、腐りはじめても死ぬことはかなわなかった。肉体にハエがたかりウジが湧く。肉体の全てがチリとなるまで痛みと苦しみは続くのだ。耐えかねた男は死を願った。そして霊界の住者に手を出したことを心から懺悔した。
すると、美しい若者が彼の前に現れた。若者は言った。
『お前の死の願いをききいれようぞ。しかし、お前の魂は永遠に消え去り転生も叶わぬ。このまま肉体がすべて無に帰るまで耐えれば霊としてこの世にとどまることはできよう。良いのか?お前は無を選ぶのだな?』
若者は一枚の金色の鱗を男の腐った手に乗せた。
『さあ、死を願うがよい。』
男は死を願う気持ちは本物であったが、その前に、周りの諌めにも応じず黄金の鯉を捕らえてしまったあの日あの時に戻りやり直せたらという思念がちらりと頭を掠めた。
ーーー男は井戸の前に立っていた。井戸の中には黄金に輝く鯉がいる。周りの者たちが男を止めていた。これに手をだせばどんな厄があることかと。
男は自分の手を見た。たくましい肉厚の掌。顔を触る。肉がついている。筋骨の脚。
男は金色の鱗によって願いが叶えられたのだと知った。
千蒔は言った。
『姫様、このような荒唐無稽な昔話なのでございます。下じもの者はみな困った時には、口癖のように金の鱗があればなどと言ってしまうのですがこのようなことを本当に信じているわけではないのです。』
蓮津はこの城の井戸にも数年に一度、黄金の鯉が現れることを知っていた。
城の誰かが黄金の鯉を捕まえようとしたことがないのか問うた。
千蒔は答えた。
『霊界の使いとされている神聖な生き物ゆえ、手を出す者などおりませんわ。』」
中村は、よどみなく語り終えた。
ちらりとマナカの方を見た。
マナカと目が合った。マナカが親指を立てて笑った。
ーーーあのメイク‥‥‥‥やばい。
中村は笑いをこらえた。
まだ、那津姫と蓮津姫のセリフを一言挟んでまたすぐ朗読が入るのに横隔膜に響くじゃん、まったく、マナカのやつ。うはっ!
「いえ‥‥何でもないのです。それより、鯉が餌を待っておりますよ。ほら、お腹がすいた顔ですわ。」
パントマイムを終え、のばらがセリフを言った。
「あの顔のどこを見ればわかるのじゃ?蓮津はおもしろいの。」
ミアははきゃっきゃと笑って楽しそうに餌を撒くように演技した。
そんなミアを見て切なそうにのばらがつぶやいた。
「わたくしが嫁いだらもう、那津様とこのように過ごすこともできなくなってしまうのだわ‥‥‥‥‥‥」
さあ、中村の朗読だ。
「これっ、これ、が、蓮津が、生きている那津と会った最期となった。それから七日後、那津は井戸の中に消えた。」
中村が初めてミスった。
ーーーちっ!今までパーフェクトだったのにさ。マナカのせいだぜ!後でマナカのデザート半分もらうからな!




