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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第3章
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第2幕

 上手(かみて)にはけたのばらが言った。


「もう、マナカの顔と声で笑っちゃうわ!これ、悲恋の物語なのに。2幕はどうなってしまうのかしら?」


「It will be alright! これはこれでいいじゃん。」


 リアスが言った。


「そうね、今さら引き返せないもの。この回はこれでいいわ。でも、これって笑いを取る要素は全くない脚本だったんだけど‥‥‥‥。マナカって謎のポテンシャルを持っているわよね‥‥‥‥ふふ。」



「おい、2幕始まるぜ。」


 雅秋が言った。


「BGM流すぜ。」


 スイッチを入れた。





 余韻の間を置いてから、中村が朗読を始めた。





「それから、蓮津のお忍びのお出掛け先は賑やかな町中から名波の屋敷へと

 かわった。小雪も異存はないらしく蓮津が数え13になるまで続いた。


 小雪は名波に嫁ぎ、蓮津の下から去っていった。もう蓮津を名波の屋敷に連れだしてくれるものはいなかった。


 蓮津が索と出会ったころ、城では殿と正妻の間にかわいらしい女の子が生まれた。那津なつと名付けられた姫は元気過ぎるほどお転婆に育っていった‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」



 中村は落ち着いて順調に進めて行った。



「ヒトミ、結構マジで練習していただけあるよね。ちょっとかっこく見えるじゃん?ねえ、ミアさん。」


 マナカが小声で言った。


「うふふ、そうね、確かに。だからマナカの目のなかにハートが見えるのね。」


 ミアがクスリとした。


「ち、違うよ!やだなぁー、もう!」


 マナカが熱血オヤジ風メイクで照れるので可笑しくなってしまう。ミアは笑いをこらえていたがどうも顔がニタついた。


「ミアさんたらー!」


 マナカがミアの顔を見て、ささやき声で抗議した。




「ほら、もうすぐ出番よ!がんばって!」


 ミアが真面目な顔に戻った。


 マナカは集中を取り戻し、再び鼓動を感じ始めた。



 次は蓮津のお付きの千蒔(ちまき)の手引きで秘密裏にお城の池の橋の上で蓮津姫と牧野様が再会するときめきのシーンだ。




 中村の朗読が続いていた。



「『蓮津姫様、今日はとてもいい日和ございますゆえ、庭を散策されてはいかがでしょう?』


 蓮津は千蒔の供で橋のかかる大きな池まで歩いた。


『姫様ご覧くださいませ。蓮の花があんなに美しく咲いておりますわ。』


『本当に美しいわ。』


『ええ、姫様のようでございます。わたくしはここでお待ちしておりますゆえどうかこの橋のを渡ってゆっくり散策なさってくださいませ。』


 千蒔はなぜか後ろを向いた。

 橋の上には一人の男が控えていた。」




 ここでのばらとマナカの出番だ。


 下手(しもて)からマナカが一歩出て控えた。



 一呼吸して落ち着いてから始めた。


「お久し振りでございます。蓮津姫様。」


 マナカは今度は少し低めの声で演じた。


 上手(かみて)の袖からのばらが一歩出た。


「!」


 のばらはマナカを見て驚きの仕草で固まって見せた。


「またお会いすることがかないました。」


 マナカは控えたままで顔を上げた。


 会場からはマナカのスペシャルメイクによるクスクス笑いがおきた。


「牧野様!」


 のばらはそれでも恋する乙女を演じた。



「蓮津!わたしは元服しお城にあがったんだ。」


 マナカは立ち上がった。


「‥‥索、もう1年近く経ってしまったわ。もう二度と会えないかと思ってわたくし‥‥」


 のばらは切ない思いを秘めた美しい姫を美しい容姿をフル活用して表現している。

 のばらはもちろん家で鏡を見ながら美しく見える角度と仕草は研究済みだ。人を美しく見せる要素は生まれながらの容姿だけではないことを知っていた。



 のばらとマナカは舞台中央に駆け寄った。


 ここで転びそうになるのばらをマナカが支えて抱き合うドキドキシーンだ。



「蓮津!」


「牧野様!」



 舞台中央でマナカはのばらを支えるはずだった‥‥‥‥‥のだが。


「きゃーっ!」


「うわっ!」


 舞台の真ん中でマナカはのばらを支えそびれてしりもちをついてしまい、のばらもマナカにかぶさって倒れてしまった。


 会場は爆笑になった。




「のばらさん、ごめんなさい‥‥‥どうしよう‥‥‥私‥‥‥」


 マナカがのばらに迫られているかのような体勢になってしまいおどおどしている。


「けがしなかった?痛いところないの?」


 のばらが小声で聞いた。


「私は全然大丈夫ですけど‥‥‥」


「いいわ、マナカ、私に任せなさい!私は牧野のばらなのよ!こんなことどうってことないのよ!」




 このような雰囲気になってしまった今、シリアスに蓮津姫を演じても、滑稽だと思ったのばらは、マナカから離れて立ち上がった。


「牧野様、私を支えられないなんてなんてひ弱な方なのです!これは姫としての命令ですわ。これから毎日腕立て伏せ100回とスクワット200回、腹筋100回を命じます!」


 のばらは言った。


「ははっ!」


 マナカはのばらに平伏した。


 それから二人は立ち上がりまた上下(かみしも)に別れはけていった。


 はける直前にのばらが振り向いてマナカに言った。


「あと、トレーニング後45分以内にプロテインとるのよ!」


「うっす!」


 マナカがガッツポーズで答えた。



 マナカのポーズが観客に受けて笑いが起きた。


「トレーニング後45分以内って何?」


 クロエがアレクに聞いた。


「その時間にたんぱく質を摂取すると筋肉作るのに効果的だと言われているのよ。」


「ふーん、蓮津姫ってマッチョが好みだったんだー?」


「うん、筋肉は裏切らないらしいよ。昔、誰かが言ってたの聞いたしー。」





 中村はマナカがのばらと一緒に倒れた時はうわっと思ったが、すぐにのばらがアドリブを始めたので、そのまま様子を見守ったのだった。


 会場の笑いが収まってから中村は朗読を始めた。



「それから蓮津と索は城内で密会を重ねた。それぞれが自分の身分を恨んでいた。二人は千蒔を通し文を交換し思いを伝えあい‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


 蓮津姫と牧野様が密かに愛を育む様子と、そんなある日、城で開かれた桜を見る会で蓮津姫はお偉いさんに見初められて縁談が進められ、索と別れを余儀なくされてしまった所まで朗読された。


 朗読のストーリーにより、先ほどの笑いの雰囲気はすっかり消えていた。



 そして、のばらの一番大切なシーンに突入する。

 泣く泣く蓮津と牧野様が別れるドラマチックシーンだ。


 さすがにこの場面だけはお笑いするわけにはいかなかった。


 のばらは上手(かみて)舞台袖から、紙に『マナカ、次顔なるべく隠せ!』と書いて下手(しもて)の袖に控えているマナカに見せた。

 マナカは腕で大きく丸をして返事をした。




 上手(かみて)からのばらが静かに出た。下手(しもて)ではマナカが出るタイミングをはかっていた。



 のばらが舞台中央に静かに歩きながら言った。


「今日が牧野様にお会い出来る最後の日になることでしょう。」


 蓮津の心の内を会場に向けての語りだ。



「‥‥‥‥‥ああ、僕はこの日が来ることを恐れていた。ずっと‥‥‥再会したあの日から‥‥‥‥」


 マナカは苦悩するように頭を抱え、なるべく顔が見えないように語りながらステージに出て行った。



 二人は舞台中央で向かい合った。



「牧野様‥‥‥‥私は、お家のため、領民のため嫁がなくてはなりません。」


 のばらが悲しげにうつ向いて行った。


「これが最後のお願いですわ。」


 のばらは顔を上げマナカを見て言った。


「牧野様、わたくしを強く抱きしめてくだいませ!」


「蓮津‥‥‥‥‥!」


 本当はここで5つ数える分見つめ合ってからの予定だったのだが、すぐにのばらを抱きしめ、自分の顔をなるべく客席に見せないようにのばらの右肩にはりつけて隠した。



「愛しております‥‥‥牧野さま‥‥‥」


 のばらが切なげにささやいた。


「私もだ‥‥‥‥‥、蓮津!本当はお前の肌に何者も触れさせたくはないのだ。だが‥‥‥‥‥私の身分では!」


 マナカは狂おしい気持ちを叫ぶとのばらを突き放すように離した。


 それから右腕で顔を覆って下手に走り去った。



「牧野様‥‥‥‥‥」


 のばらはマナカが走り去った方を見つめながらしばし呆然とたたずんだあと、両手で顔を覆いながらとぼとぼと上手に戻って行った。




「はぁー、ちゃんと悲しい別れの場面になったわね?笑いは起きなかったわ!」


 のばらがミチルに聞いた。


「うん、客席もしんみりしてるよ。ついでに僕も。」


 ミチルが言った。


「池中さんもうまいこと顔隠してたよな。」


 リアスが言った。



 そして、次は第3幕。


 ここでは那津姫が蓮津の異変にづき、蓮津のために黄金の鯉の鱗を得るため井戸に飛び込み鯉に丸のみされてしまうのだ。







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