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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第3章
70/102

第1幕

「どれくらい人、来てるの?」


 のばらが聞いた。


「もう、定員以上集まってる。立ち見でいいなら後、数人入れてもいいかもな。」


 雅秋が言った。


 ミア、リアス、のばらが入り口内側隅で、入場してくるゲストにグリーティングするために並んで待機した。



 ミチルが開場しゲストを椅子に誘導し始めた。


 顧問の地衣も現れた。


「あっ、ちー先生だ。うぇーいっ!先生の席はこっちでーす。」


 マナカが手を振って寄って行った。


 地衣がマナカを見てびっくりしている。


「な、なんだその顔は!一体何の役なんだよ?池中は。」


 地衣が笑いをかなりこらえているのがわかった。


「えへへ、私はのばらさん演じる蓮津姫の恋人役です。いいでしょー?ふっふーん。じゃ、先生私の熱演、お楽しみにね。」


 マナカは地衣にそう言うとグリーティングの列に加わった。



 一番先に登場する中村は舞台のそでで、朗読のウォーミングアップをしている。






 二人組の女子が入場してすぐにマナカに気づいて前に来た。


「うわお!マナカやるじゃん。その顔!おじさん役?さすが我が友!その珍妙珍奇奇抜なへんてこりんな君を誇りに思うよ。うん!」


「ねえねえ、後で私たちもこのメイクして、3人で撮ろうよ!」


 マナカの友だちのクロエとアレクが大笑いしてマナカと写真を撮ってから席に座った。


「類は友を呼ぶって本当なのね‥‥‥‥‥」


 のばらがつぶやいた。



 不意にリアスと中村の同じクラスの砂区愛とその友だち3人組も現れた。


「来たよー!座家くん!きゃー!座家くん、浴衣かっこいいじゃん!はい、みんなで撮るよ‥‥‥‥‥カシャッ。ヒトミも座家くんも二人とも出るんでしょ?だから来たの。がんばってね。」


 有無を言わせずリアスとご機嫌で写真におさまり席に向かった。


「‥‥‥‥来たのかよ。やりにくいな、あいつらいると。」


 リアスが額をおさえた。


「それ、わかりみー‥‥‥‥」


 マナカが同情した。




 美術部の星野塔子と辻ユリカがミアの前に来た。


「ミア、来たよー!‥‥‥‥あれっ?これあの時の浴衣ね。今日も似合ってるよ。うふふ。ねえ、こんどまたトリプルデートしようよ。夏休みの花火楽しかったし。今度は甲斐先輩と一緒にどう?」



「うん、ありがとう。でも雅秋はもうすぐ受験だから。」


「あー、そうだったねー。残念。今日はがんばってね。演技してるミアの写真とって後で送っとくからね。」


 二人はミアにかわいらしい笑みを残して空いている席に向かった。



リアスは話を聞いてしまい、気になってミアに聞いた。


「ミア、この浴衣で花火って‥‥‥‥‥甲斐先輩じゃない人って、一体誰と行ったんだよ?」


 

「あ‥‥‥うん。」


 ミアはそれは名波索、とは言えずに黙りこんでしまった。


「‥‥‥‥‥秘密か。」


 自分が気にすることではないとは知りつつも、まさかそれは柊也なのではないかと気になった。




「定員になったので‥‥‥‥すみません。次は2:00からです。先着30名です。」


 ミチルの声が廊下から聞こえて来た。



 後5分で開演時間だ。

 教室の戸が閉められた。



「さあ、私たちは舞台に。」


 のばらがが言った。


 緊張しつつ、4人は舞台の袖に入った。




「準備いいですか?」


 ミチルが確認に来た。


 皆、上手下手(かみてしもて)とも無言でうなずいた。



 まず、ミチルが舞台に上がり錦鯉研究部を代表し、客席に挨拶と来場の礼を述べた。そしてこの物語は史実に基づくことを説明して下がった。




 ついにのばら脚本監督による『鯉伝説~いにしえの恋』が始まる。



 中村が舞台の上手隅に立った。



「これは今、正にあなたがいるこの地この場所で生まれた物語。はるかはるか遠い昔から伝わる物語。そう、霊界の使者、黄金の鯉の現れる伝説の井戸は今もこの学校のどこかにひっそり眠っているのです‥‥‥‥‥」



 中村の朗読により、順調に始まった。


 観客はこの土地に本当に伝わる伝説に興味を持って見てくれているようだ。




 蓮津姫がお忍びで町に出たのがきっかけで二人は出会う。


 牧野の屋敷で蓮津と牧野が初めて出会ったシーンをマナカとのばらが演じる。


「ねぇ、こっちにおいでよ。池に魚もいるよ。」


 マナカがのばらに言った。


 部屋で座っているのばら扮する蓮津姫のもとにマナカ演じる牧野様が縁側から現れたというシチュエーションだ。


 観客は、最初のグリーティングでマナカの顔は見ていたものの、舞台に現れるとまたおかしくなってクスクスと笑い声があちこちから聞こえて来た。

 のばらでさえにやけてしまう。


「ほんと?見せて!」


 のばらが立ち上がって言った。


 ぶかぶかの浴衣にコントの様相のメイクの小柄なマナカと、モデルのようなスラリとしたのばらとのアンバランスさに会場は笑いが起きた。


「こっちだよ。」


 マナカがのばらの手を引いた。



「見て、これ、きれいな魚だよ。この真っ赤のが椿ちゃんで、あの人面魚が桜ちゃんだよ。あっ、僕は牧野(のぶ)。」


 マナカが床を指差し言った。メイクはお笑いだが演技は真剣だ。


 池セットなどはないが、まるでそこに鯉が泳いでいるかのように演じた。

 セリフと仕草で観客に風景を感じさせなければならない。


「わたしは蓮津。ここには少ししか鯉がいないのね。お城の庭にはもっとたくさんいるわよ。」


 エレガントな仕草ののばらは気品があってお姫様役がよく似合う。


「君、お城の庭知ってるの?」


 マナカの声は目をつぶれば少年のように聞こえる。

 練習の成果だった。


「うん。私の住んでいる所よ。」


「そうなの?だったら僕、元服したら絶対お城で仕えるよ!」


「それがいいわ!そしたらわたしといっぱい遊べるもの。」


 のばらは、マナカのセリフに反応して、ぱぁっと嬉しそうに顔を輝かせてマナカに返した。


「ねえ、あっちで的当てしようよ!」


マナカがおじさんメイクで少年声で言った。


マナカの顔をまともに見たのばらは、ついついにやけてしまいながら言った。


「なあに?それ。」




 中村の朗読が入った。


「ふたりが駆け出した時、小雪の声がした。


『姫様、もう戻らなければなりませぬ。』


 あわてて兄が信をたしなめた。


『わたしの弟が失礼いたしました。蓮津姫様。』


 牧野信の兄が平伏していた。」




 不本意だが、この劇はカーテンも、ライトもなく、暗転もできない。

 

 そのため急きょ、演技を変更した。場の終わりははけなくてはいけない。


 マナカはがっかりしたように歩きながら下手にはけ、のばらは後ろ髪を引かれて一度マナカの後ろ姿を振り返っったものの、行儀よく振る舞いながら上手にはけた。




 主にシチュエーション説明の内容の第1幕はなんとか無事終わった。



 下手の袖に控えていたミアにマナカが言った。


「ミアさーん!やっぱこのメイク失敗だったぁ!」


「‥‥‥‥うん。索はほんとは素敵な人だもの。」


 ミアがつぶやいた。


「え?さくって?」


「‥‥‥‥ううん、何でもないわ。この回はしかたないわ。でも、これはこれで皆を引きつけられたんだからいいじゃない。コメディ調でみんな楽しそうだったし。監督ののばらさんが許可しているんだもの。午後はイケメンメイクでシリアスに変えればそのギャップでまた面白いわよ、きっと。」


 ミアはマナカを励ました。


「うん、そうする。」



 次の第2幕は蓮津姫と牧野様(本当は名波索だが名前が伝説に残っていなかったため、のばらが自分の苗字にしておいた)が、秘密の恋を育むシーンと別れのシーンに入る。


 のばらが最も力を入れたシーンだ。







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