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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第3章
68/102

文化祭初日、朝

 ついに文化祭の日を迎えた。


 各クラスで出席をとった後、皆、それぞれの持ち場に移動し、空いている時間は校内を自由に回って楽しむ。


 各クラスや部活動、同好会によるスイーツ、軽食、茶店などの食べ物系出店。恒例の人気のお化け屋敷、演劇。有志によるバンド演奏とダンス、吹奏楽の演奏。部活動の成果を発表する文化系展示、書道や絵画、イラストにマンガ、文芸部部誌の販売など、アート系サブカル系と多彩だ。


 ミアのいる1年1組ではルイマの脚本演出監督によるムービーの上映が行われる。

 ルイマは大変苦労して編集作業をした。

 出演はクラスの全員だが、ほぼルイマひとりが制作だったため、変に意見が割れたり文句が出たりすることもなく進んだ。編集や音声、エフェクトを入れたりの技術面ではわからないことも多く苦労し妥協した面も多々あったが、なんとか仕上げることが出来た。

 きっと、このムービーはクラス全員の楽しい思い出の作品となるだろうと思ってがんばった。

 エンドロールの最後にはルイマと柊也も一言ずつクラスへのメッセージを述べて The end となる。

 クラス内では既に鑑賞済みで、自分たちの作品だけにその時は拍手喝采だった。




 いつもとは全く違う様相の教室の中で出席をとった後、皆それぞれ散って行った。


 上映は午前3回午後2回の5回の予定だ。


 ルイマと柊也は午前中は上映担当で、後2名の町田と白玉は呼び込みとゲスコン担当だ。後はクラスの当番で持ち回りになっている。

 ルイマはこの後、広報の仕事も控えていて大忙しだ。文化祭の様子を写真に撮ってまわらなければならない。



「キリル、すごく良くできてたよね。このムービー。たくさんの人に楽しんでもらえたらいいね。」


 ミアはがんばったルイマに向けて心からそう思っていた。


「うん、私本当に寝不足になりながら編集したんだもん。クラス全員で作ったこの苦労の末のこの作品は、私にとっては、かっぱとかツチノコを生け捕り出来たと同じくらいの価値があるのよ!」


 ルイマが胸に手をあてながら感慨無量の様子で言った。


「そうだねー。キリルはこんな短時間でよくここまで仕上げたよ。みんなの演技は草だったけど、あっ、でもミアのところだけはよかったよー。」


 柊也が言った。


「おい、磯部!何ディスってんだよ?白玉の棒読みセリフは確かに笑えたけど、俺の井戸に飛び込むアクションシーンはいけてたと思うぜ?なぁ、真夏多さん。」


 町田が言った。


「うん、そうね。さすがダンス同好会メンバーだけあって切れがあったわよ。でも白玉さんも初々しくてすごくかわいかったわ。」


 ミアはすかさずフォローした。

 このような場合、その都度対処しておかなければ後々ミア自身に悪意がはねかえって来ることを、さすがに今では学んでいた。



「今の聞いた?町田!そうよね。さすが真夏多さんだわ。見る目があるしー。」


 白玉がにこやかに笑いながら目だけは冷たく町田を見た。



 不穏になって来たところでミアは退出態勢をとった。


「じゃ、じゃあ私、錦鯉研究部の劇があるから行くね。ごめんなさい。」


「おう!俺、午後の部を絶対見に行くから!」


 町田が言った。


「ありがとう、待ってるわ。午後の部は2時からよ。定員30名。そんなに集まるかわからないけど。」


 ミアは教室を出て旧校舎4Fの理科講義室に向かった。




 そこでは既にのばらが役の身支度も終え、ミチルと打ち合わせしていた。


 部員とリアス、雅秋の全員が集まると、ミチルは確認のミーティングを始めた。


「上映は本日は9:00、午後は2:00の2回です。上映終了後は写真撮影会です。希望するゲストと記念写真タイムとります。時間無いので出演者は午後の回まで衣装そのままでいてください。午後は1時までにはここに戻って来てください。では、今‥‥えっと、7:40だから、今から30分以内で着替えとメイク御願いします。その後、のばらさんに従ってリハしといてください。終わったら廊下に出て呼び込み手伝ってください。8:40からゲスト入場させます。今日出演なしの甲斐先輩と僕は効果音のCD、小物確認と、ゲスコンです。事故、けがなどないように気をつけて下さい。質問ありますか?」


 ミチルが皆を見回した。


「地衣先生以外に客来んのかよ?」


 中村が言った。


「ミアも出るし、少しは来るんじゃね?」


 リアスが言った。


「ここ4Fだし、錦鯉研究部の劇だけで、他のイベントなんもない階だからなー‥‥‥‥」


中村が憂いた。






 今日の午前、午後の2回の公演ではミアは那津姫役で、那津を飲み込んだ黄金の鯉の化身の男の相手役はリアスで行われる。

 朗読は中村、蓮津姫はのばら、相手役の牧野様はマナカだ。



 女子用に、下手(しもて)側のついたての一番奥の隅に、着替え用にブルーシートで囲まれた空間が作られている。いわゆる楽屋だ。

 テーブルが一つ置かれ、そこにはメイク道具や台本、小道具を用意してある。

 ついたての内側には衣装の浴衣がハンガーにかけて吊るしてある。


 全て昨日皆で用意したものだ。


 上手(かみて)側も同様で男子用になっている。



「では、各自準備お願いします。くれぐれも時間守ってください。」



 男女別れて身支度が始まった。


 のばらは既に鮮やかな赤い大きな花模様の浴衣に着替えを済ませていた。



「ミアちゃん私が浴衣の着付けをしてあげるわ。こちらに来て。次マナカ着付けするから先にヘアメイクしてて。」


「はーい!」


 マナカは張り切ってメイクを始めた。


 ミアは着替えスペースに入った。

 既に家で制服の下にタンクトップとスパッツを身につけていたので、さっさと制服を脱いだ。


「のばらさん、お願いします。」


 ミアが言った。


「はい!任せて。ミアちゃん。‥‥‥‥‥でも、残念‥‥‥‥既に下に着て用意してたんだ‥‥‥‥。」


 のばらが後半はつぶやきで言った。


「え?‥‥‥どうかしましたか?のばらさん。」


 ミアがきょとんとした。


「う、ううん。何でもないわ。うふっ。ミアちゃんはウエストが細いからタオルをもっと巻いて補正しましょうね。」


 ミアのお腹に顔を張りつかせ、腰ひもをミアに巻きながらのばらは至福の時を感じながらもてきぱきとミアに着付けをした。


「紐は苦しくないかしら?」


「大丈夫です。のばらさんのお陰で自分で着るより早く出来てしかもキレイにきられますね。ありがとうございます。」


「髪は左右にこのピンクの紐を結んでおいてね。那津姫は子どもだから、メイクも薄くしてリップは自然に薄いピンクよ。次、早くマナカ来て!」


 のばらはミアの着付けを終えマナカを呼んだ。



「あら、マナカ。牧野様は侍なのよ!髪はいいけど、そのメイクじゃかわいい女の子のままじゃない。着付けした後直してちょうだい。」


「はーい。男っぽくかぁー‥‥‥。わかりました。」


 いつものツインテールをポニーテールにしたマナカが言った。



 のばらが兄から借りてきた浴衣をマナカに着せつけようとした。


「うっ!でかい‥‥‥‥。」


 のばらの兄の浴衣はマナカにはあまりにでか過ぎた。


「そうよね‥‥‥‥マナカは160もないくらいだもの。ううっ、でももう仕方がないわ!なんとかこれを着せなきゃ!」


 丈の長さは無理やり上げて着せたものの裄丈(ゆきたけ)は仕方がない。

 何とも浴衣に着られてる感につつまれてしまった。


「ま、仕方がないわ。これが限界よ、うん。もう時間がないし。」


 のばらは大いに妥協した。


「大丈夫ですよー。のばらさん!私の演技でカバーしますから!」


 マナカは全く気にもしていなかった。


 そう、マナカの目的はのばらかミアにくっついてナチュラルビューティーエキスをたくさん浴びることだったのだから。


 ミアやのばらはマナカの憧れで、こんな風になれたらなーといつも思っていた。


 マナカはマナカでキュートな女の子なのだが、やはり皆、自分とは違う美しさに憧れるようだ。



「さて、メイクを直さなきゃ。うーん?女の子メイクは極めて来てたけど、男っぽくってどうすればいいのかな?サムライって?」


 マナカは鏡を見た。


「えっと、眉を太くしてー、上げぎみがいいかな?アニメの熱血キャラみたく眉尻を割ってみようかな‥‥‥‥‥後は‥‥‥‥‥‥」






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