のばらの勘違い
11月に入った。
1日は日曜日だったが、文化祭の準備のため登校日となっていた。
そして11月2日は内部公開、3日は外部公開となる。
各教クラスで朝のSHRが終わった後は、各自担当の場所の準備へと向かう。
ミアとルイマのいる1年1組は今、SHRが終わった。
「では、各自、机と椅子は教室の後ろに運んでから移動してください!」
担任の指示で皆立ち上がった。
クラス委員男子の町田が手を上げて大きな声で言った。
「運び終わった人で部活の方いかない人は教室デコるぞ!こっち集まって!」
教室内は机と椅子を運ぶ音でガチャガチャと一気に騒がしくなった。
「ねえ、ミア、ミアは錦鯉研究部の方にいっちゃうのー?」
柊也が机を運ぶミアを捕まえて大声で言った。
「あ、うん。ごめんね。クラスの方はあまり参加出来なくて。私、錦鯉研究部の方があって。人数が少ないから大変なの。」
ミアが運んでいた机を一時、下に下ろして言った。
「僕、ミアがいないとつまんないなー。ねぇ、錦鯉研究部には土方くんもいるんでしょ?他には誰がいるの?」
「えっと、正式には2組の土方ミチルと、3組の池中マナカさん、8組の中村一深くんと私。仮入部は2年の牧野のばらさん。文化祭の今だけリアスと雅秋が手伝ってくれてるの。でも、私は名前だけで普段は餌当番しかしてないのよ。」
「ふうん。なるほどねー‥‥‥‥わかったー。ありがとう、ミア。そっち、頑張ってね。」
「ええ、ありがとう。」
ミアが机を再び運ぼうとしたら、神宮寺がささっと来て運んでくれた。
「真夏多さんのは俺が‥‥‥。磯部はさっさと運べよ!」
「なんだよー、神宮寺ぃ。ミアには親切なのにー。」
柊也がむくれているとルイマが来た。
「柊也、さっさとしなさいよ!みんな忙しいのよ!」
「私、広報委員の準備があるからそっちにいくわ。ムービーの機材、準備頼むわよ!終わったらすぐもどるから。」
「はーい。わかってるって!」
柊也は調子良く言って手をヒラヒラさせた。
旧校舎4Fの理科講義室。
ここで錦鯉研究部の演劇は行われる。
集まった部員たちはさっそく会場作りの準備を始めた。
「甲斐先輩はクラスで黒板アートの制作があるから来られないんだ。」
ミチルが言った。
「後、座家も広報委員の仕事があるから遅れるって。」
中村がつけ足した。
「では、ミチル、ミアちゃんマナカ&ヒトミと私でがんばりましょう!」
のばらが全員を見回した。
「はーい!」
マナカが一番大きな声で返事をした。
「じゃ、マナカとヒトミは生徒会室横の倉庫室で暗幕とライトを借りて来て。生徒会の人たちが管理しているから私とミチルとミアちゃんはいかない方がいいの。煌には恨まれてるし。雪村煌は倉庫室にはいないと思うけど‥‥‥‥‥くれぐれも揚げ足を取られないように気を付けてね。」
「わかった。のばらさん。行こうぜ、マナカ!」
中村が嬉しそうにマナカを見た。
「うん!」
マナカとヒトミはいつものように騒がしくおしゃべりで出て行った。
「ねぇ、『あんまく』っておいしそうな響きだよねー?」
「おう、レッドビーンペーストロールだな。」
「じゃあ、『レッドビーンペーストロール貸してください』って言ってみようか?通じるかなー?私通じる方におやつに持ってきた今川焼をかけちゃおっかな。ふっふっふ。」
ヒトミとマナカのおしゃべりが理科講義室まで響いて来た。
「まったく!あの子たちったら。」
のばらがあわてて廊下に出て二人に言った。
「マナカ!私の言ったこときいてたの?普通に行動することをお願いするわ。いいわね?」
「えー、くだらないギャグに対する生徒会優等生たちのリアクション見たいよー。私たち一般人との違いをレポートするから。」
「マナカ、そういうのは他のとこで実験してちょうだい!ヒトミ、頼んだわよ!」
「うーっす!」
中村が片手を上げた。
のばらは初っぱなからふと、混迷を予感したが気ぜわしさに紛れてすぐに忘れた。
「さあ、私たちはテーブルを片付けて床の掃除よ!」
講義室には折り畳み式の細長いテーブルと椅子が並んでいる。
まずテーブルと椅子を折り畳んですみに寄せ床掃除だ。
のばらとミチルとミアはてきぱきと動き回った。
3人で、広い空間になった床を掃除していると手ぶらでヒトミとマナカが戻って来た。
「のばらさーん!ひどいんですぅ。私、普通にちゃんと言ったのにぃー。錦鯉研究部からは事前申し込みがなかったって言って貸してもらえなかったんですぅ。」
マナカが半泣きで言った。
「もう、予備もないって言われてさ‥‥‥‥。俺らレッドビーンペーストロールは封印して普通に言ったのに。」
中村が困惑しながらのばらに言った。
「何ですって!私、ちゃんと予約しておいたわよ‥‥‥‥‥?」
のばらはスマホを取り出し操作した後、皆に生物室に置いてある劇のために用意したものをこちらまで運ぶことを指示した。
「できることはどんどん進めていね。ミチル、後お願いね。私、ちょっと行ってくるから。」
「うん、わかったけど‥‥‥‥‥」
ミチルは心配そうにのばらを見た。
「大丈夫よ、もし無かったとしても何とでもなるわ。」
のばらの副腎髄質からはアドレナリンがかなり分泌されていたが平静を装った。ミチルには余裕の笑みを見せると理科講義室を出た。
廊下に出たとたん、のばらの表情は怒りに変わっていた。
ーーー煌の仕業に違いない!私に嫌がらせするつもりだわ!
のばらは新校舎4Fの生徒会室に急いだ。
のばらが4F渡り通路に出ると通路の中程で柵に寄りかかってこちらを見ている男子がいた。
「のばら、急にどうしたの?僕は今、すごく忙しいのに急用なんてメッセージよこして。」
煌がそう言いながらものばらに微笑んだ。
「どういうつもりなの?」
のばらは怒りをそのままぶつけて言った。
「何の事?」
煌は不思議そうにのばらを見た。
「ふーん。そう来るのね?私はあれを持っているのよ?私にこんな嫌がらせしていいのかしら?」
のばらは煌に軽く嗤いを見せた。
のばらは煌の描いた『セクシーのばら』のイラストを持っていた。
「嫌がらせって?‥‥‥‥それに、のばらはまだそんなものの事でこの僕を落とし入れようとしてるのか?まだそんなこと出来るとでも思ってるのか?」
煌が嘲笑した。
「のばら、君もわかってるんだろう?それって本当に僕の描いた物だったのかなぁ?僕のサインでも入ってたっけ?‥‥‥‥ねぇ?」
煌は余裕だった。
「‥‥‥‥‥‥‥」
のばらは痛いところを突かれた。
あれが煌の物だという客観的証拠などないのはわかっていた。のばらのみが真実を知るにすぎない。煌がしらばっくれればそれまでだ。
「‥‥‥‥そう来るのね。でも、真実はいつかは露見するものよ。で、煌は嫌がらせで私を困らせて楽しんでいるようね。」
のばらは煌の表情を観察するように見た。
「僕が?そんなことをしていると?」
煌はのばらの目を見た。
「私を恨んでいるんでしょう?イラストのことで脅されて。」
「まさか。僕はのばらのことが大好きなのに。」
「しらばっくれても無駄よ!あなた、好きな子に意地悪をしてますます嫌われてしまうっていう未だ男子小学生レベルってわけね。雪村煌!見損なったわ!」
煌のショボい嫌がらせにのばらの感情は爆発した。
「おいおい、のばら。僕は何の事やらさっぱりだ。」
煌が呆れたように言った。
「そう出るの?いいわ。これから私の実力を見せてさしあげるから。」
のばらはいうだけ言うときびすを返した。
「一体どうしたっていうんだ?」
煌は首を傾げた。
「もしかして、何か言い訳を作って僕に会いにきたんだろうか?」
煌は思った。
ーーーどうやら、僕に未練があるらしい。
煌はのばらにイラストの件で脅されてからさすがに落ち込んだ。
しかし、落ち着いて考えてみれば、それは煌の描いた物だという証拠などない。のばらがそう言っているにすぎない。まさか鑑定に出すわけではあるまいし。
煌はのばらの脅しからすぐに解放されたがやはり、真実を知る自分はごまかせはしない。
しばらくは傍観するしかないと思っていた。
それなのに思いがけずのばらの方から接触してきた。このような形であれのばらと言葉を交わせるのはうれしい。
煌はやはり、のばらが好きなままだった。
この暗幕の件、実際のところは、のばらが誰よりも一番早くに予約した分が抜け落ちてしまった故の手違いが起きたためで、この件について煌は全く関係がなかった。
ーーーのばらのツンデレには参ったな。僕に素直に謝って戻って来ればいいのに‥‥‥‥。
まあ、それが出来ないところがのばららしくてかわいい所、ふふ。
のばらは早とちりから、寝ている子を起こしてしまったようだ。




