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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第2章
62/102

マナカとヒトミ

 店を出た二人は無言で歩いた。



 リアスは自分がミアの『特別』な人にはなっていないことを思い知らされた。



 ミアの特別な人は雅秋。



 雅秋がミアを離さない限りずっと。


 そしてその雅秋は受験が終わったら、ミアと更にに高いステージへと二人で登る気でいる。


 ーーーミアと、友だちでって言ったってさ、頭ではわかっていても心ん中はそう簡単にはいかねーってのに。


 隣を見るとなぜかのばらまで沈んだ風情になっている。



 ーーーそういえば、甲斐先輩の元カノだったって噂を聞いたことがある。

 部活では妙にお互い張り合ってるけど‥‥‥‥それって意識しちゃってるから?

 もしかしてのばらさん、ミッくんとつきあいながらも甲斐先輩のことまだ好きだったのか?それで沈んでんのか?



「‥‥‥ねぇ、もしかしてのばらさんも今ので傷心しちゃった?」


 リアスは聞いてみた。

 のばらははっと驚いたようにリアスを見た。


「わかっていたの?そう‥‥‥‥。お互いに辛いところね‥‥‥‥‥」


 のばらはミアの気持ちが雅秋にすっかり向かってしまっていたことにショックを受けていた。


 ーーーはぁ、ミアちゃんのことはもう鑑賞するだけにしようと思っていたのだけれど‥‥‥‥‥。



「いいのよ、私はとうに諦めていたの。ただ眺めているだけで満足よ‥‥‥‥。思い出は私の心の中で消えはしないわ。」


 のばらはミアと初めて渡り廊下で話した時のミアの戸惑うかわいらしい姿を思い出していた。あの時の胸きゅんは忘れはしない‥‥‥



「のばらさん‥‥‥‥、俺も‥‥‥‥そのうちそんな風に思えるのかな‥‥‥?」


 リアスはこの美人で切れ者で負けん気の強いのばらでさえ恋は思い通りにならないことを知って、のばらには悪いが救われた気持ちになった。



「時間が必要よ。それまでは耐えるしかないのよ‥‥‥」



 のばらは憂いをたたえた切れ長の目をちらりとリアスに向けた。


 リアスはつい数日前、逢魔が時ミアを抱きしめたことを思い出した。


 リアスが口づけした後、自分の腕の中でミアの恥じらいうつ向く長いまつげ、指に絡み付くミアの長い髪、やわらかい首筋のライン、きつく抱きしめたら折れてしまいそうな華奢な肩。ミアの言葉と涙。


 あの時の切なさを一日に何回も思い出してしまう。その度に胸を重苦しい痛みがズキンと突き抜ける。


 ーーーこの痛みが消えるまで‥‥‥‥時間が過ぎるのをただ耐えるしかないんだ。




 リアスは影絵のようにきれいなラインを描く、大人っぽいのばらの横顔を見た。


 さきほどからすれ違いざまにのばらをちらっと見ていく何人かの人の存在に気づいていた。

 あからさまにリアスに嫉妬の視線を投げかけてきたおやじまでいた。


 リアスはのばらをちょっと意識して照れながら言った。



「俺‥‥‥‥今日、のばらさんと話せて良かったよ。」


「そう、それは幸いだわ。」


 のばらは前を向いて歩いたまま言った。




 のばらとリアスは駅に着いた。


 のばらはリアスとは反対方面だ。

 一緒に改札を通り、構内の左右にある階段の真ん中で向かい合った。


「今日はごちそうさま。座家くん、あなた、なかなかいいわよ。私、結構楽しかったし。」


「俺も。のばらさん、ありがとう。今度は俺の話を聞いてくれよ。」


 リアスがさりげなく言った。


「もちろんよ。‥‥‥‥‥これからは私たちは秘密の同志よ!二人でミアちゃんのすばらしさについてとことん語り合いましょうね。」



 のばらはそう言うと優美な微笑みで手を振りエスカレーターに乗って行った。



「‥‥‥‥‥‥‥え?‥‥‥‥‥‥‥‥今のどういうこと?」


 もやもやと謎に囚われたリアスはその場に佇んだまま、のばらが消えた方向を見ていた。





 生物室でミチルはウイッグを外し、制服をマナカに返し、顔を洗った。


「はぁー。戻ったー、僕に。」


 ミチルはタオルで顔を拭いてからホッとして大きく息を吐いた。


「おつかれさん。」


 そう言いながら中村はミチルの肩に腕を回して引き寄せてそっと言った。


「ミチル、俺とマナカ二人にしてくんね?」


 ミチルは驚いて中村を見た。それから真剣な顔でうなずいた。


「がんばって、ヒトミ!」


 口パクで言った。


「サンキュー!」


 中村も口の動きだけで言った。



 その後ろ姿をマナカが見ていた。


「あれあれ、またこの人たちは密着して。‥‥‥‥あっ!廊下に砂区さんだっ!」


 マナカが言った。


「えっ!」


 中村がギクッとして戸口の小窓を見た。誰もいない。


「なーんてねー。てへへっ!」


 マナカがにかっと笑った。


「マナカ、砂区のこと知ってんのか?」


 中村はまさか、マナカが8組の砂区愛を知っているとは思わなかった。確かに砂区は顔が広いようだったが。


「え?‥‥‥‥‥まあ、知ってるってほどでもないけど。」


 マナカは先ほど、突然話かけられて知っただけだった。


 なぜかリアスとヒトミとミチルにとても興味があるらしく3人についてあれこれ聞いてきた。そして挙げ句の果てにはヒトミとマナカの仲について聞いてきた。これにはびっくりした。突然知らない子から究極プライベートなことを聞かれたのだから。


 砂区はマナカと同じくかなりの元気なおしゃべり女子のようだったがマナカとは気は合いそうになかった。




 ミチルが急にマナカにに言った。


「僕、さっき母さんからえっと、召喚要請が来たんだ。その‥‥‥家にGが出現したって‥‥‥‥。」


「うわぉ!あの小さい体一つで人々を恐怖に陥れるという異能を持つあれが!」


 マナカが思い浮かべて両腕をさすった。


「だからぼく、急いで帰るよ。僕しか討伐出来ないんだ。それじゃ、お先にごめん。」


「うん、でもさ、家の人、土方くんが家につくまでGを見張ってるの?それも辛いよね。気をつけて急いで帰ってね。バイバイ!」


 マナカが手を振った。


「ミチル、サンキューな!また明日。」


 中村がミチルの肩を叩いた。


 ミチルはニコッとしてからふたりに手を振って生物室を出て行った。




「もう、片付けもできたし、戸締まりして私たちも帰ろうよ。」


 マナカが中村の顔を見た。


「おう‥‥‥‥わかった。でも、ちょっと待って。俺、マナカに言いたいことがあって。」


 中村がマナカをぎこちなく見た。






 私、ヒトミが私に言いたいことがあるって言ってきたから内心すっごく動揺した。



 ど、どうしよう!まさかこのシチュエーションって‥‥‥‥!私、ヒトミから告白されるの?ドキドキしちゃう。


 砂区さんが言っていた言葉がよみがえる。



『だって、ヒトミは、池中さんのことまるで自分の彼女みたく言ってたよ?』



 こういうの初めてだし、どうしたらいいのよ?私。

 とにかく、こういう時、つい笑ってしまったり、にやけてしまわないように真面目な顔をしなければ‥‥‥‥。



 私はなにげなく何も気づいていないようにふるまうことを心がけた。


「何?ヒトミ、どうしたの?」


「あのさ、マナカって好きな人っている?」


 ヒトミは私に言いたいことがあるって言っときながらまず聞いてきた。



「それは厳密にいうとどういう好きのこと?好きって一言でいっても人間の愛には色んな種類があるよね。私はクラスの友だちも家族も部活の仲間だってみんな好きだけど?だから答えはいるってことになるけど。」


 うっ?いけない!私の悪い癖が‥‥‥‥。

 定義が曖昧だとつい‥‥‥‥。


「あ‥‥‥‥その、俺が言いたいのはえっと‥‥‥。」


 ああ、私のせいでヒトミが困っている‥‥‥。

 そうだよね、こういうシチュエーションで聞かれてるんだもの、んなこと聞いてるバカはいないよ!私のばかばかっ!


「その‥‥‥‥何て言うかなー、こいつならキスしてもいいかなー、何て思うやつ?っていうのかな、そんな感じのやつ。」


 ‥‥‥‥ヒトミってばかばかっ!そんな言い方されたらいてもいるとか言えるわけないじゃん。いるなんて恥ずかしくて言えないよ!


「‥‥‥‥‥‥」


「あれ?何か怒ってる?」


「‥‥‥‥‥別に。ちょと引いてるだけ。」


「ごっ、ごめん。ちょっと聞いてみただけだからさっ。えっと‥‥‥さあ、帰ろうぜ。」


 おいおい、私に言いたいことがあったんじゃなかったんですかー?


「うん、戸締まりしよう。」


 私は言った。




 私とヒトミは当分友だちのままだね。


 でも、いいんだ。このままでもヒトミがいればすごく楽しいから。







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