のばらとリアス
雅秋が中庭に走り去った後、現れたマナカに中村が走り寄ったところから。
無事生還した中村にマナカが言った。
「ねえ、どう?私の至宝の作は?」
「え?ナイトメーテルのこと?」
中村が言った。
マナカはミチルが女子生徒になった時にナイトメーテルを名乗っていたことを知らない。
「なにそれ?私が言ってるのは女子になった土方くんのことだってば。」
「じゃ、ナイトメーテルのことじゃん。ミチルはそう言ってたぞ。」
中村はてっきりナイトメーテルはマナカの創作キャラだと思っていた。
「?」
前方で話しこんで佇んだままだった中村とマナカにミチルとリアスが追い付いた。
再び4人で校舎へ向かって歩き始めた。
「ねえ、土方くん。ナイトメーテルって何?」
マナカが美少女化したミチルに歩きながら聞いた。
「あ、それ?そうだなぁ‥‥‥ええっと‥‥‥‥その‥‥‥ある日、少女の助けを求める声により強制召喚されし、かりそめのソルジャー?で、強くはないけど、厨病を見せつけて一般人を怯ませて、その隙に逃げるっていうのが戦略って設定の白バラの騎士かなー?」
ミチルは説明した。自分でも良くわかってはいない。
マナカはヒトミから部活中にサブカルを伝授されてゆくミチルを見てきたので特に気にすることはない。免疫力は充分備わっている。
「ふーん。よくわかんないけどまあいいよ。ありがとう。ヒトミと座家くんを助けてくれて。急に頼んでごめんね。」
不意に立ち止まり、リアスが言った。
「‥‥‥ありがとな。俺のために。池中さんもミッくんも中村もさ。こんなことに巻き込んじまってマジごめん!」
リアスが皆に頭を下げた。
中村がリアスの肩をぽんと叩いた。
「‥‥‥‥‥座家‥‥‥いいって。気にすんな!俺たち友だちじゃん。あの座家の持ってるあの色ちがいキャラにアイテム付きでトレードな、それだけでいいから。俺のアメちゃん5個やるからさ。」
「そうそう、いいのよ。私にはチョコがけのオールドファッションドーナッツ3個で。明日のお昼にお願いね。」
マナカがすかさず付け加えた。
「うんうん、僕は鯉の餌当番3回分代わってくれればいいから。」
ミチルもついでに言ってみた。
「‥‥‥‥‥お前らからは‥‥‥‥遠慮という言葉がデリートされてんだろ?」
リアスがはぁっと大きなため息をついてから言った。
「オーケー。わかった。おまえらの望みは叶える。まったくよー。」
お手上げポーズであざけた笑みを浮かべた。
「マジかよー!冗談だったのに。へっへーん!」
中村がリアスの背中に飛び付いた。
校舎手前でリアスが言った。
「じゃ、俺ちょっとごめん。今日はありがとな!また明日!」
雅秋が先ほど走り去った方に歩いて行った。
「座家‥‥‥あいつ?」
マナカ、中村、ミチルは校舎の前で曲がって昇降口へと向かった。
「なあ、座家は真夏多さんを探しに行ったのかなあ?」
中村が心配そうに二人に聞いた。
「‥‥‥‥‥そうかもね。」
「‥‥‥‥‥うん。」
マナカとミチルの顔が曇った。
「そしたら、また甲斐先輩に会ってしまうかもしれないのに‥‥‥。」
リアスはのばらからのメッセージが気になって仕方がなかった。
ミアとは友だちして過ごすことを約束したが、今、ミアと会っているのが誰なのか知りたかった。
ーーーまさか今度は中庭でそいつと甲斐先輩がやりあってたりして‥‥‥
リアスは中庭に向かおうとしていた。
中庭の手前の校舎の側面にさしかかったところで声をかけられた。
「座家くん。待ちなさい!」
リアスが振り向くとそこにはのばらが立っていた。
顔がなぜか怒っている。
「うわっ!のばらさん!」
リアスが突如現れたのばらに驚いた。
「うわっ!じゃないわよ!まったくっ!あんたとあいつのせいで私の劇が台無しになるところだったじゃない!騒ぎになったら雪村煌に中止の口実を与えてしまう所だったのよ!」
仁王立ちでのばらはリアスを指差した。
「えっ!俺は甲斐先輩からケンカふっかけられただけだし。騒ぎにもなってないじゃん。なんで俺に怒る?」
そういいながらもリアスはのばらの勢いにたじろいだ。
「今、中庭に行こうとしていたんでしょう?‥‥‥わかっているのよ!」
のばらがリアスをむむっと目を細めて見た。
「そうですけど‥‥‥‥?」
「今行ったら、やっと座家くんと引き離した甲斐雅秋とまた会ってしまうでしょ!私がこの危機を回避するために今日どれだけ働いたと思っているのよ?」
リアスの考えなしの行動にのばらはうんざりした。
「え?のばらさん、あのメッセージ送ったのって‥‥‥‥‥もしかして‥‥‥そのため?」
リアスはやっと気がついた。
「そうよ!さあ、もうこのまま私と帰るのよ!座家くんが電車に乗るまで私は離れないからっ。」
のばらはリアスの腕を引っ張ると、校門に向かって歩き出した。
「うわっ!わかったって。でも俺、駅前の店でドーナッツ買って帰らねーと。明日のために。」
「わかったわ。私もつきあうから。」
某ドーナッツ駅前店に入るとのばらが言った。
「あー、私誰かさんのせいであちこち走り回って喉がからからだわ。ちょっとお腹も空いたかも‥‥‥‥。」
ちらりとリアスを見た。
「‥‥‥わかった。何にする?」
リアスもちらりとのばらを見た。
「うふふ、じゃ遠慮なく。ホットロイヤルミルクティとフレンチクルーラーでいいわ。」
「俺はアイスコーヒー。」
リアスとのばらは比較的周りに人がいない店正面の外がガラス越しに見えるカウンター席に座った。
日暮れも早まり既に外は暗くなっていた。
のばらは上品にドーナッツを食べ終わるとリアスに今日のいきさつを聞いてきた。
「のばらさん、本当はそれを聞くのが目的だったんだろ?でも、俺は言わねーからな。」
リアスが頬杖をつきながら隣に座るのばらの顔を見た。
「あら?それは勘繰りすぎよ?私レベルになると聞かなくたってわかってるから。」
のばらはすました顔で言った。それからガラス越しの外を見て言った。
「あら?あれ見て。ミアちゃんと甲斐雅秋だわ!店の入り口に来る。」
「はーん。俺ら、かくれるとこねーじゃん。」
リアスがニヤニヤして言った。
「大丈夫よ、私たちに気づくかわからないし、気づいた所でまさかこんなところで何かしてくるわけないもの。」
「まあ、そうだよな。でものばらさんの赤い髪目立つからなー。」
リアスが言った。
「あら、座家くんの他よりひとつ突き出ている頭の方が目立ってるわよ?」
ミアと雅秋が入って来た。
雅秋が注文している間にミアが店を見回して席をさがしている。
リアスは見つけて欲しいような欲しくないような気持ちでガラスに映ったミアを見ていた。
のばらはいつのまにか長い髪をサイドでみつ編みにして隠していた。
ミアと雅秋はリアスたちの後ろの、ついたてと観葉植物に遮られたテーブル席に座った。
二人の声が聞こえる。
「今日は俺たちの新たな記念日だな。ミア、もう絶対に俺から離れんなよ。」
「うん。雅秋は特別。他の人とは違うって今日はっきり気づいたの。」
「ふっ。だろうな。‥‥‥‥俺、受験終わったらミアに‥‥‥‥。」
「なあに?」
「‥‥‥‥‥受かってから言う。」
のばらがリアスにそっと言った。
「行きましょう。」
リアスは無言のまま席を立った。




