索の影
雅秋はミアの右側に斜めにミアの方を向いて座った。
「なんで、こんな所で神谷と二人っきりで語らってんだよ?ミア。」
ミアを見つめる雅秋の表情は怒りではなく、傷心の表情に変わった。
「なあ、ミア‥‥‥‥なんなんだよ?‥‥‥座家とキスしたと思えば次は同じクラスのガチ素敵なイケメンだの、あの取り澄ました神谷だの‥‥‥‥‥次々と。ミア、お前どうなってんだよ?」
ミアを責めるように言った。
雅秋の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
ミアははっと息を飲んだ。
ーーー雅秋が泣いている?
あんなにいつも自信過剰な強気の雅秋が?
私のせいで?
そんなに苦しめていたの?そんなに傷つけてしまったの?この私が?
そう‥‥‥今日の朝だってわざわざ私に会いに来てくれた雅秋に対して冷たい態度になってしまった。雅秋は私のことをこんなに思ってくれているのに。
「雅秋‥‥‥‥‥。」
ミアはおろおろしながら雅秋の左手に自分の右手を重ねた。
「ごめんなさい‥‥‥‥雅秋。」
「‥‥‥‥それ、どういう意味だよ?」
雅秋が自分の左手を握ったミアの手を見ながら言った。
「‥‥‥‥それは‥‥‥。」
ミアは雅秋の左手を大事そうに両手で包み込んだ。
「‥‥‥それは、雅秋はそんならしくない顔をする必要はないってことなの‥‥‥。」
雅秋の見せた初めての表情に戸惑いつつ言った。
「‥‥‥‥俺、ここんとこ何度も心臓をえぐられてたんだ‥‥‥‥‥ミアのせいで。」
雅秋が恨めしそうにミアを見た。
ミアは慈愛に満ちた目で雅秋を見つめ返した。
雅秋の潤んだ瞳を見てしまったミアはそれにより、雅秋における自分の価値を知ってしまった。
自分ををこんなにも認めてくれていたと気づいたミアの雅秋ポイントは急激な右上がりへとベクトルを変化させた。
「雅秋をそんなにも苦しめていただなんて気づかなかったの、ごめんね。雅秋。でも‥‥‥‥リアス以外のことは全くの誤解よ。」
ミアが余計なひとことを言った。
「リアス‥‥‥‥‥座家。」
ミアからリアスの名前が出て、雅秋にまためらめら感が甦ってきた。
「‥‥‥そうだった、途中だった!あいつにまだお見舞いしてなかった!」
「が、雅秋!やめて、お願い。リアスはずっと友だちなの。昨日リアスにはそう話したの。だからもう怒らないで。私を困らせないで‥‥‥‥。」
今度は、ミアが涙目になった。
ミアの潤んだ目を見て雅秋のめらめらに油が注がれた。
「なんで、ミアは座家をそんなにかばうんだ?」
「そうじゃないのよ、雅秋。」
ミアが言った。
「そうじゃなくねーよ!そうだろ?俺はわかってんだ。」
ミアが雅秋の言葉にびくっとし、潤んだ瞳で雅秋を見た。
「‥‥‥‥だって、しょうがないじゃない‥‥‥私‥‥‥索が好きなの。リアスだって。‥‥‥‥雅秋も好き。でも、私は考えて、このまま雅秋とつきあうって決めたのよ。リアスはこれからは友達なの。リアスにもそう言ってあるって言ったでしょう?」
ミアもこの事では苦悩していた。ミアはストレートに心の内をそのまま雅秋にさらした。
「あいつもこいつも好きだらけじゃねーか。消えちまった名波ならともかく座家は目の前にいるんだぜ?友達宣言したからって密かに想い合っているんだろ?そんなの許せねーよ!」
雅秋の気持ちを聞いてミアは最終手段に出た。
「それでも雅秋がリアスを許せないのなら仕方がないわ!私はもう雅秋とはさようならするしかないの。」
ミアは立ち上がった。自分のせいでリアスが傷つけられるのであればこれ以上雅秋とはつきあうことはできない。自分は雅秋を選んだと言っているのに。
突然、ミアに別れを告げられた雅秋は、まさに心臓をミアに握り潰されたような感覚に襲われた。
不意討ちをくらい、雅秋の頭の中の平衡感覚が波打っている。
きっとミアはこのままリアスのもとに行くのだろう。
そんな、一時的に精神が弱った雅秋の体に何かが入り込んだ。
座ってうつ向いていた雅秋の左手が目の前に立っているミアの右手首をガッとつかんだ。
「‥‥‥‥ミア。」
「雅秋?」
雅秋がゆっくりと顔を上げた。そしてミアの顔を見上げた。
「‥‥‥‥ミア、好きだよ。」
雅秋が首をかしげた。
「‥‥‥‥‥え?」
ミアは固まった。この首のかしげ方‥‥‥‥。
「‥‥‥‥僕の愛しいミア。」
「‥‥‥‥‥‥さ‥‥‥さ、索?」
ミアが茫然とした。
「‥‥‥‥‥甲斐くんはミアにも、僕にとっても特別なんだ。出来れば‥‥‥」
そう言うとミアの手首をつかんでいた手からフッと力が抜けて離れて落ちた。
「あ‥‥‥索?」
ミアは雅秋の前にしゃがんで、池の縁に座ってうつ向いた状態の雅秋の顔を覗きこんだ。
「‥‥‥‥‥俺‥‥‥今‥‥‥何で?」
雅秋が虚ろな表情で下から雅秋を見上げているミアの顔を見た。
ミアが心配そうに雅秋を見ている。
「大丈夫?雅秋?」
「‥‥‥‥ミア。」
雅秋はこの感覚は2度目であったが、今回は脆弱な感覚だった。
「ごめんなさい‥‥‥雅秋。雅秋を苦しめてしまって。私はどこにも行かないわ。雅秋が私を嫌いにならない限り。だから雅秋はいつもの自信に溢れた雅秋でいて。そんな雅秋はもうリアスを気にする必要などないでしょう?」
雅秋+索 > リアス
ミアの答えは明確だった。
ミアが自分の元に留まった。
雅秋はそれ以上のことは今は考えたくはなかった。
「雅秋、もうリアスのことは許して。ね?」
ミアが愛おしそうに雅秋のほほに触れた。
「‥‥‥‥ミアはずっと俺だけのミアでいてくれるのか?」
「うん。」
ミアがうっとりした目で雅秋を見ている。
「もう絶対に座家になびいたりしねーと命をかけて誓えんのか?」
雅秋が切ない目をしてミアに聞いた。
「誓うわ。」
ミアは躊躇なく雅秋の目を見て答えた。
ミア自らが好きになった索と、告白されて意識して好きになったリアスとは最初からステージが違っていた。
雅秋に索の影を感じたミアはもう他に迷うことなどありえない。
ミアの目には雅秋がさらに魅力的に愛おしく映っていた。
雅秋は先程の変異がミアを引き寄せたことはわかっていたが、それでもミアがハートマーク入りの瞳で自分を見つめていることに満足した。ミアが自分を見ていることに変わりはない。
ここでミアを抱きしめキスしたいところだったが、前回の教訓もありセーブした。
四階渡り通路から中庭を見下ろしていた柊也は期待外れの展開にがっかりしていた。
ーーーなーんだ。何も起きなかったなー。
ミアと見知らぬ男子が話してた。ハーレム先輩が走ってき来てそいつと入れ替わった。その後は‥‥‥ミアとハーレム先輩ふたりでいちゃついてるようにしか見えなかったなー。ここでは声も聞こえないし。
中庭に座家くんも、のばらさんって人も来なかったじゃん。
なんだったんだよー。せっかくこんな所で待ってたのにぃ。
柊也はマナカとのばらの奔走など知るよしもなかった。
まして、学校七不思議の一つ、幻の生徒、名波索の存在など。




