鯉占い
翌日、火曜日の1年1組の朝の教室ではいつも通りあちこちでおしゃべりの輪ができていた。
ルイマは教室に入る直前、廊下の向こうから雅秋がこちらにやって来るのに気づいた。
教室の中を見渡すと、ミアと柊也が立ち話をしているのが見えた。
ルイマはミア、リアス、ミチルと同じ駅から登校しているが、朝、特に待ち合わせなどはしていない。偶然会った時以外、特に一緒に登校することはなかった。その方がお互い楽だった。
ミアと柊也は教室の一番後ろの角の窓際で話をしていた。
柊也は珍しく朝から髪をいい感じにヘアピンでとめてイケメンモードになっている。柊也の髪のセット具合はその時の本気度に比例する。従って今朝は極めて気合いが入っていると言えた。
「‥‥‥‥‥ていうわけでさー、僕は家族の中で居場所がないんだ‥‥‥‥。だからあの部屋で過ごしているんだ‥‥‥‥。」
柊也は暗く沈んだ顔をミアを見せた。
「‥‥‥柊也、そうだったの。そんなに家で辛い思いを?」
柊也の顔を見ながらミアの目がわずかに潤んだ。
「うん‥‥‥‥だから、僕ちょっとだけ家族の温もり?っていうのかなー、そういうのに憧れていてー‥‥‥‥それで、真夏多に帰って欲しくなかったんだー‥‥‥。」
柊也は右手で顔を覆ってうつむいた。
「柊也‥‥‥‥。」
ミアは柊也の腕にそっと手を添えた。
「だから僕は‥‥‥急に抱きついたりしてごめんねー。真夏多ぁ。怒ってるー?」
柊也は叱られた子どものように上目遣いで指の間からミアをちらりと見た。
柊也の仕草を見たミアはクスリと笑い言った。
「わかったわ。寂しくてくっついてきただけだもの。いいのよ。弾みで私と床に倒れてしまっただけだったのね?」
「うん、真夏多は覚えてないの?」
「ええ、少しの間わからなくなっていたみたい。でもどうして柊也は青ざめた顔で私を見ていたの?」
「‥‥‥それはー、僕はその時、たぶん精神的にマックスになってしまってたんだー。僕のあわれな境遇は‥‥‥‥‥さっき話したでしょー、真夏多ぁ。」
「‥‥‥そうだったわね。‥‥‥‥。うん、わかったわ。柊也。辛い時は私に教えてね。いい?これからはひとりで耐えなくていいのよ?」
ミアは柊也に優しく微笑んだ。
「うん、ありがとう真夏多ぁ。ねぇ、これからは僕もミアって呼ぼうかなー?いい?」
柊也は遠慮がちに言った。
「いいわよ?」
「じゃあ、ミア。ずーっと仲良くしようねっ。僕、ミアが大好きだよー。」
柊也は嬉しそうに笑った。
「うふふ。ありがとう、柊也。」
ミアは少し照れたように可憐な微笑みを柊也に見せた。
ーーーはぁー。うまくいったよー!事後処理コンプリー!
ついでにさりげなく告ったけど、気づいてはいなかったなー。
ミアはこういうの鈍いんだよなー。
ミア‥‥‥僕の優しく美しい聖女様。僕の部屋に閉じ込めておきたいよー。
後は‥‥‥ハーレム先輩。攻略はむずいよなー。まあ、3年はどうせ学校に来るのは後数ヶ月しかないし‥‥‥それまでの辛抱かなー。
「って、えっ?うわっ!いるっ!」
教室の前の廊下に雅秋の姿が見えた。
ルイマがミアと柊也のところに来た。
「ミア、おはよう!もう大丈夫、?‥‥‥ねえ、廊下で甲斐先輩を見たわ。」
「おはよう、キリル。もう平気よ、ありがとう。あら、本当に雅秋が。どうしたのかな?」
ミアは教室から出て行った。
柊也は冷えた目で雅秋の元へ向かうミアを目で追った。
「おはよう、柊也?どうしたの?」
ルイマが声をかけた。
「‥‥‥えっ?ううん、おはよ。なんでもないよー?」
柊也はにこりとルイマに笑って見せた。
「柊也、昨日はありがとう。でも‥‥‥‥‥。」
ルイマが普段とは違い、もそもそしている。
「どういたしましてー。でも、でもって?」
「でも‥‥‥‥あれからまた考えて‥‥‥。」
ルイマは廊下にいるミアをちらりと見てから言った。
「‥‥‥ザッカリーが好きなのはミアなのよ。それなのに私が告白したって振られるだけよ。そしたらその後は気まずいわ‥‥‥。」
「バカだなー。キリル。ミアにはあの人がいるじゃん。今のところは。座家君がいくらミアを好きになったって無理だって。座家君だってわかってるはずだよー。いいよ、気になるなら僕が探りを入れてあげる。」
「柊也‥‥‥。ありがとう。」
ルイマは柊也の優しさに感動していた。
ーーー全くぅー。キリルったらー。普段はあんなに強気なくせにー。急に乙女になっちゃって。
いいさー。どうせ僕だって座家くんとミアの今の状況は知りたいところだったし。
あー、ハーレム先輩とミアは今、何話してるんだろ?
予鈴が鳴った。
生徒たちはわらわらとそれぞれの場所に戻っていった。
柊也が見ると、教室に戻って来たミアは何か憂いた顔をしていた。
8組の教室は朝から騒がしかった。
リアスの席の横で中村が曇った顔で言った。
「なー、座家。お前一体何したんだよ?あんなに甲斐先輩を怒らせてさー。」
リアスの放課後の雅秋からの呼び出しを憂いていた。
リアスはミアとのことは後悔する要素などありんこ程もなく、雅秋の怒りはそのまま受け取るつもりでいた。
「‥‥‥‥まあ、怒っても仕方がないかもな。一応あいつはミアの彼氏だしな。確かに反対の立場だったら俺は絶対に許さないし。」
「おいおい、このままただやられる気なのか?何か対策はないのかよ?めっちゃミラクルな都合のいいチートな技とかさー。」
リアスより中村の方が焦っている。
「あー、そういうのいいよなー。努力要らんでチート。憧れるぜー。異世界転生に転移!自然発生ハーレム。でも、異世界にミアいねーし。」
リアスが大きなため息をついた。
「だめだっ!あきらめるなっ!危機回避の方法は何かあるはずだ!」
中村がググり始めた。
「おう、これだっ!座家。」
中村がリアスにスマホを見せた。
「まさかまじで何かチート技あんのか?」
「困った時にはなー、神様にお願いするしかないっ!この質問に答えるんだ!ほら、早く。時間が無え。」
自分のスマホを渡した。
「何だよ?この『鯉の神様占い』って。『恋の神様』じゃねーぞ。まあいいか。えーっと誕生日‥‥‥、生まれ変わるなら‥‥‥えー、大鷲かな‥‥‥やご派かメダカ派かって‥‥‥どっちでもよくね?‥‥‥カニ派かエビ派かって‥‥どっちでもよくね?‥‥‥‥最近キスしたのって‥‥‥昨日‥‥‥‥えっと、今の気分の色‥‥‥グレー‥‥‥‥最初の一歩は‥‥‥右から、えっと‥‥‥‥」
リアスは15問の質問に答えた。
「ほら、答えたぜ。」
「‥‥‥‥‥座家、お前‥‥‥昨日‥‥昨日誰としたんだよ?」
「え?何を?」
「しらばっくれんじゃねーぞ!」
「うわっ!‥‥‥‥結果が出たぜ。えっとあなたの今日のラッキーアイテムは、赤いバラ。今月はサイコパスがラッキー?何だこれ。全っ然役にたたねーじゃん。15問も答えたのに!」
リアスがスマホを中村に返した。
「‥‥‥‥もう、そんなのはどうでもいい‥‥‥。座家、お前まさか‥‥‥?だから甲斐先輩があんなに怒ってんのか?」
中村がおろおろしている。
「‥‥‥まーな。」
リアスが言った。
予鈴が鳴った。
生徒たちは自分の席に戻り始めた。




