柊也VSリアス
「中村、座家はどこに行った?」
雅秋が中村に聞いた。
「えっと、あいつはとっくにもう帰りましたよ。用があるって言ってたから。先輩、まだ座家に何か用があるんですか?」
中村はリアスに知らせるべき甲斐先輩情報をさぐるため質問した。
「ありありのありだからわざわざ来たに決まってんだろ!くっそ、担任の帰りの話が長くて遅くなっちまった。せっかく戻って来たってのに!仕方ない、明日の放課後、迎えに来るから待ってるように座家に言っとけ。逃がすなよ。頼んだからなっ。」
雅秋の顔には見るからに機嫌悪さが漂っていた。
「先輩、いいけどさー、なんで座家にラインとかで直接メッセージ送らないんですかー?」
「‥‥‥なんで俺があいつとそんな仲良しごっこみたいなまねしなきゃなんねーんだ?座家となんかつながりたくねーよっ。」
雅秋が眉間にきつくしわを刻んで言った。
雅秋の怒り具合を目の当たりにして中村がまごついた。
「‥‥‥一体何したんだ?座家は‥‥‥?」
「‥‥‥さすがに中村にも言えねーんだな。あいつ‥‥‥。はんっ!」
中村を一瞥すると、すぐきびすを返し去って行った。
ーーーうわー‥‥‥‥。すげーヤバヤバモードじゃん。座家まだ学校にいるはずだしな。甲斐先輩に会っちまったらヤバイよな。教えといてやんなきゃ。
でも一体座家は何したんだよ?真夏多さんの気を引くために何かしたんだろうけど‥‥‥‥。
中村はすぐにリアスにメッセージを入れた。
『甲斐先輩がお前を探してるぞ。めっちゃ機嫌悪い。会わない内にさっさと帰った方がいいぜ。あー、明日の放課後も呼び出しだ。お前一体何があったんだよ?』
その頃リアスは柊也とともに西側の松の石垣にいた。
「ねー、僕に質問なんでしょー?いいけどー。その前にさー、真夏多は何で膝をケガしてたのか聞かせてよ。こんな学校の帰り道で転ぶなんて‥‥‥しかもあんなにひどく擦りむくなんておかしいよねー。」
柊也は言いながら前髪をベビーピンクのヘアピンで止めて顔をさらしてにっこりとリアスに笑った。
柊也のいかにも優しげな甘いフェイスからは、ミアを手に入れようと強行手段に出たとは想像もつかないとリアスは思った。
「‥‥‥あれは‥‥‥雨が急に降って来て‥‥‥俺が慌ててミアの手を取って引っ張ったからミアが転んだ。」
リアスは正直に柊也に答えた。
「ふーん。なにげに手をつなぐくらい真夏多と仲がいいんだ?」
柊也が困ったように言った。
「そんなこと磯部には関係ねーだろ?」
「そう思う?まあいいや。でさ、それって‥‥‥真夏多は座家くんのせいでケガしたって事だったんだ?ふーん。真夏多は雨が降って来て慌てて走ったら転んだとしか言ってなかったから。」
「‥‥‥‥‥。」
リアスは自分のことを他でも言っていなかったミアの優しさをいとおしく感じた。
「真夏多にかばってもらってうれしい?でね、その傷がね、僕と帰る途中ですごく出血しちゃってさー、真夏多も痛がってさー、大変だったんだよねー。」
「‥‥‥‥マジ‥‥‥‥?ミアはそんなこと一言も‥‥‥。」
リアスの心にぐさりと来た。
土曜日の午後に会った時もミアはリアスには大丈夫、としか言わなかった。
リアスはミアがずっと自分を気遣って何も言わなかったことを知り、今さらながら焦燥感につつまれた。
「やっぱりだねー。真夏多は言わなかったんだ。でねー、それで手当てするために僕の部屋に来ることになったんだー。僕の部屋に来たのは座家くんのせいだねー。あざー。おかげでさー‥‥‥‥。」
柊也は自分のスマホを出した。
「これ聞いてー。これなーんだ?」
リアスは、磯部のあざとさとはかけ離れた、やさしげな造りにできている柊也の顔を見た。
『‥‥‥お願い、そっとね。‥‥あんっ‥そっと柊也‥柊也、優しくね‥‥あっ‥‥‥‥あんっ、そっと‥そっとだってば‥‥‥‥‥』
『わかったよー、真夏多ー‥‥‥‥‥‥ねぇ、こんな感じでいい?‥‥これでも痛いの?』
『うん。‥‥‥‥‥あっ‥‥‥‥うん。いいわ。‥‥‥‥‥いっ‥‥‥いっ‥‥‥いいからそのまま続けて早く終わらせて。‥‥‥‥はあっ‥‥‥‥‥‥ありがとう、柊也。ふぅー。』
「‥‥‥‥ミアの声?‥‥これ‥‥‥。ミアと磯部の?」
リアスは耳を疑った。
「そうだよ。僕と真夏多の声。どうー?真夏多のあの時の声。座家くんにだけ特別にー。」
柊也が嗤いながら言った。
「‥‥‥‥まさか、そんなこと!ミアはそんなことあるわけない‥‥‥‥。お前となんて。」
リアスは青ざめた。
「わかっただろー?これは本当のことさー。真夏多が座家君にいつだって本当の事を言うとは限らないよー?これ、僕は無理やり真夏多にしてないでしょー。わかってくれたかなぁ?座家くん。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥嘘だ。」
柊也は半信半疑で戸惑っているリアスを嗤った。
「この事、誰にも言わないでねー。まあこれで恥ずかしいのは真夏多だけだけど。」
「‥‥‥‥‥‥ミアは記憶がないって‥‥‥ほんの少しの間意識が無くなたっただけだって‥‥‥‥。」
「これも全部座家くんのせいだねー。座家くんが真夏多をケガさせたり、真夏多を残して帰らなかったら起こらなかったことだもんねっ?」
リアスは茫然として立ちつくした。
「ねえ、僕に聞きたい事ってなーに?座家くん。」
「‥‥‥‥‥‥‥。」
リアスは言葉を無くしていた。
「なーんだ。別にないのかぁ。何だよー。僕をこんなとこに連れ出しておいてさー。じゃあ、僕は戻るよー。じゃあねー。二度目はないからねー。ばいばーい!」
柊也は予定通り、リアスの相手をさっさと済ませ戻って行った。
「これで座家くんが真夏多から手を引いてくれないかなー。‥‥‥‥‥うーん、これじゃ座家くんはまたすぐ気がついちゃうかな?あはははっ。」
柊也はリアスに何一つ偽りは言っていなかった。
ただ、ミアの膝に軟膏を塗ってあげた時の声をリアスに聞かせただけだった。
それをリアスがどう受け取ったかは柊也の知った事ではない。
リアスはしばらくそのまま石垣に寄りかかり今、柊也が言ったことを反芻していた。
「まさか‥‥‥‥あのミアが?信じらんねぇ‥‥‥‥。」
リアスに何かひっかかるものがあった。
「それに‥‥‥‥あれ、あっという間すぎない?」
リアスは考え込んだ。
「それに‥‥‥‥なんかへんだよな‥‥‥‥?俺、俺も聞いたよな、あんな感じのミアの声‥‥‥‥どっかでさ、ちょっとだけ‥‥‥‥‥えっと?‥‥‥‥‥ああ、そうそう、あの時だ、こんな声聞いてちょっとドキッてした‥‥‥ミアが膝のテープはがしてる時‥‥‥‥‥!」
リアスはハッと気がついた。
「そうだよっ!磯部の部屋でミアは傷の手当てしたっ!‥‥‥‥‥じゃああれは‥‥‥!」
リアスは地団駄を踏んだ。
「くっそー!俺、磯部に遊ばれたー!!」
あっかんべーしている柊也の顔が思い浮かんだ。




