波乱の月曜日 その3
「‥‥‥‥ミアはお前に何て言った?」
雅秋が無表情でリアスを見た。
「えっ?」
「お前 告ったんだろ?ミアはお前に何て言ったんだ?」
雅秋の目からは先程の怒りの炎は消えていた。
「何てって‥‥‥‥まだ返事は聞いてないけど‥‥‥‥‥。でも、俺の事好きだって言ってくれたからな!」
リアスはさっきまで雅秋におされぎみだった分、いきがって言った。
雅秋が一時固まった。
リアスは雅秋が思いの外衝撃を受けたらしいことに驚いた。
「‥‥‥‥座家、ミアはお前に渡さない。俺はミアと絶対別れねーからな。」
低い声で静かに言った。
雅秋はそう言うとすぐにきびすを返し戻って行った。
ーーー今、甲斐先輩の目。光るものが‥‥‥‥?まさかな。気のせいだ。
そろそろ中庭にちらほらと他の生徒も姿を現し始めていた。
中村は渡り通路の柱の陰から出てリアスに手を上げた。
ーーーそれにしても、あの甲斐先輩に挑むなんて座家ってすごくね?かっけぇぞ!座家。
リアスが渡り通路の中村の元に歩いてきた。
「‥‥‥‥中村ぁ~。甲斐先輩怖ぇ~!」
リアスのテンションが途切れ半泣きで中村の肩に抱きついた。
「おいおい、To be continued だろー。しっかりしろよ。」
ーーーさっきかっけーって思ったの消去する。
雅秋は自分の教室に戻ると荷物をまとめ始めた。
「あれ?甲斐、何してんだよ?」
雅秋のクラスの友人の桃山が急いでリュックに教科書を詰め込んでいる雅秋を訝しんで寄ってきた。
「桃山、わりぃ、俺、えっと、ふ、腹痛が痛いから帰るわ。先生に言っといて。」
慌ててノートをバサバサと落とした。ノートを拾いあげたとたん今度はペンケースを落とした。
「‥‥‥トートロジーになってるぞ。どうしたんだよ?何か甲斐キョドってんぞ?」
「んなことねーよ!じゃあ、後、頼むぜ!」
雅秋は桃山の肩をぽんと叩くとさっさと出て行った。
「全く。腹、痛がる振り忘れてるって‥‥‥‥。」
桃山は機敏な動きで去っていった自称腹痛の男の後ろ姿に苦笑いを浮かべた。
雅秋はミアに電話してみたがやはりだめだった。
ーーー直接ミアに聞くしかない。
雅秋はミアの家に向かった。
電車に乗り、車窓から意味もなく景色を目で追う雅秋の心のざわめきはどんどん大きくなっていった。
ーーーミアは‥‥‥‥まさかミアが。嘘だ!
俺から去っていこうとしていたなんて!あんなひと言のメッセージだけ残して。
俺から座家に乗り換えようとしていたなんて!
あのミサンガはなんだったんだよ?ミアは切れる前に自ら外してしまったのか?
いや、落ち着け。今なら間に合う。
座家はまだ返事をもらっていない。ミアが俺に別れを告げたことを座家は知らない。ミアが座家を選んだことはまだ知らないんだ。
ミアが座家の手を取る前に俺はミアを取り戻す。必ず。
雅秋は今まで振ったことは数知れずだったが振られたことはなかった。
初めての苦痛を味わっていた。
ーーー息苦しい。この俺にこんなに好きにさせといてからあんなラインの一行で別れようだなんて。俺は認めない。絶対。
その頃ミアは家でひとり、テスト勉強をしていた。
「えっと、スペイン北西部にみられるギザギザの海岸線‥‥‥リアス式海岸‥‥‥リアス‥‥‥リアス、リアスに何て言えば?‥‥‥あー、地理はやめっ!考えるのは後で。えっと、数学、数学先にやろ。」
「あーん!この問題どうしてこんな式に転換されるの?全然わからないわ!こんな時、雅秋がいてくれたらいいのに。い、いえ、違うでしょ!もうっ。」
ミアは余計なことを考えないように敢えて難問に挑んでみたが、結局は雅秋とリアスのことに戻ってしまう、を繰り返していた。
「そうだわ!図書館に行こう。もう午後だし、外に出たって平気だわ。」
ミアは気分転換に図書館で勉強しようと思い立った。
「ちょっと気分転換!おしゃれしちゃおう。うんうん。」
ミアは完全に現実逃避していた。
お気に入りの赤いロングスカートをはいてみた。
「これなら膝も隠せるわ。そろそろショートブーツ履いてもいいころよね。あと、ちょっとカラーリップ塗っちゃおうかな‥‥‥‥これ、索と花火して以来だね、使うのは‥‥‥。」
姿見で身支度をチェックした。
そこには美しい黒髪の絵から抜け出たような女の子がいた。
「あー、これで索とデートだったらよかったね。そうだ!一緒に行きましょう。」
ベッドの上の索からもらった扇子に向かって言った。
ミアはリュックに勉強道具と睡蓮の扇子を入れると玄関に向かった。
ミアがブーツを履いているとインターカムが鳴った。
ーーーあん、もうブーツを履いてしまったわ。誰かしら?部屋にあがってディスプレイを確認するのも‥‥‥。いいや、このまま出てしまえ。
ミアは玄関のドアを開けた。
「はい?どちら様で‥‥す‥‥‥‥‥‥‥雅秋!」
ミアは玄関の扉を半分開けたままフリーズした。
突然ドアを開け現れたミアの姿に雅秋は、はっと息を飲んだ。
学校で会うときとはまた違うキュートさだった。くちびるがピンクパールに光っている。
「‥‥‥‥出かける所だったのか?具合が悪いんじゃなかったのか?ミア。」
雅秋が冷たい声で言った。
「あ‥‥‥‥‥あの‥‥その、発熱して熱が‥‥‥出て。でもげっ、解熱して下がって‥‥。」
ミアはおどおどした。
「おいおい、トートロジーになってるぞ?何キョドってんの?」
雅秋はわざと大きなため息をついた。
「そんなカッコして、どこ行くんだ?誰かと待ち合わせ?」
「いえ、‥‥‥‥‥その‥‥‥。」
「座家と?」
雅秋が首をかしげてミアを見た。
「ど、どうして‥‥‥リアスだって言うの‥‥‥‥?」
ミアがビクッとして雅秋を見た。
「ひとり?ちょっと話したいんだけど。」
ミアは玄関の中に雅秋を入れた。
「‥‥‥‥聞いたのね?リアスから。全てを。」
「ああ、聞いた。告られたんだろ?ミア。」
「‥‥‥‥ごめんなさい。雅秋、私‥‥‥。」
ミアの目が潤んだ。
「ミア、マジで座家とつきあう気なのか?俺にあんな別れのメッセージを送りつけて!あんなの俺は認めねーからな!」
「だって、雅秋は私のことが嫌いになるの。わかるの、私。リアスに好きだって言われてうれしかったの。どきどきしてときめいているの。私は雅秋とつきあっているのに。」
ミアは目に涙をためながら言った。
「‥‥‥‥それは、ミアが俺より座家が好きだって言いたいのか?」
雅秋が苦痛の表情で言った。
「違う‥‥‥。私の雅秋への気持ちは何も変わっていないの。‥‥‥‥‥でも雅秋は私を嫌いになったよね?リアスに告白されてときめいているふしだらな私を。いいのよ。私は雅秋に嫌われて当然だもの。」
ミアはにじんだ涙を人差し指で拭いながら言った。
雅秋の自信はよみがえった。今、ミアは雅秋への気持ちは変わっていないと言った。
「ふっ。何言ってんだ?俺はそんなことひと言も言ってない。そんなことで俺がミアを嫌いになるわけないだろ!告白されてそん時どきどきときめきを感じるのとそいつが好きなのかは別問題だろ。」
「雅秋‥‥‥。」
「それに座家にだったらコクられた女子はみんなそうなるだろ?ふつーだぜ?」
「そ、そうなの?私、告白されたことなんてほとんどなくてわからなかったの‥‥‥‥。そういうものなの?この感情は当たり前なの?」
ミアは意外そうに言った。
「なんだよ?少なくともミアは俺とゼツガにはコクられたじゃねーか。そん時、ときめいただろ?」
「‥‥‥‥‥‥ううん、全くそのようなことは。」
ミアは雅秋の言うことが理解出来ず首を横にふった。
「くっ‥‥‥‥‥‥ひでー。マジかよ。ゼツガには言えねー。」
雅秋は広げた右手で顔を覆った。
「でも、いいか?ミアはずっと俺の彼女だ。いいな?それはずっと変わらない。」
ミアの目をじっと見つめた。
「‥‥‥‥雅秋。」
「座家には俺から言っといてやるから。ミアは気にすんな。」
ミアの肩をぽんと叩いて雅秋が言った。
「だ、だめよ!やめて!勝手なことしないで。」
ミアが気色ばんで言った。
「何言ってんだ!座家にははっきり言ってやれ!俺とつきあってんの知ってんのに告白してくるなんて図々しいだろ。」
雅秋も熱り立った。
「そ、そうかもだけど‥‥‥私はリアスの彼女にはなれないけれど‥‥‥‥リアスのことは好きなの。無下なことは言いたくないの。」
「‥‥‥そういうの、座家が苦しいと思う。俺もな。良くないぜ?ミアに思わせぶりなこと言われたままずっとミアが俺と別れんのを待ってろっていうのか?そんなことありえないってのに。」
雅秋が苦々しい顔をした。
「‥‥‥違う!そんなんじゃない。私は自分の言葉でリアスに言わなければいけないの。だってリアスだって私にそうしたんだもの。私、自分でちゃんと言うから‥‥‥‥。もう、逃げないから‥‥‥‥。」




