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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第2章
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雅秋の推考

 明くる週の月曜日の朝。日良豆(ひよず)駅の下りホームにリアスは立っていた。


 リアスは遅刻ギリギリの時刻までミアが来るのを待ったがミアは現れなかった。

 この待ち合わせについて何回かメッセージを送ったが何の返信すらないばかりか既読にさえならなかった。


 ーーーこれって俺に会いたくなくて他の車両に乗って行っちまった?


 俺、やり過ぎた?ミアに俺の気持ちをわかってもらいたくて‥‥‥‥。

 怒ってる?いきなりキスしたこと。

 でも俺に後悔はないぜ。ミアと二人きりであんな体勢になってなんもしないなんて無理じゃん。

 学校で会ったら俺の気持ちをもう一度話す。ミアだって俺のこと好きなんだ。わかってくれる、きっと。



 リアスは余裕なく学校に着いた。


 リアスはミアの靴があるかまず確かめようと思った。靴箱の扉は番号だけ記され個人名は識別出来ないが、リアスはミアの靴箱の位置は知っていた。


 ミアの靴箱の扉を開いてみた。


 ーーー休み?この時間にまだ来ていないとなると。


 中は真夏多とかかとに記名された室内用のシューズが置かれたままだった。


 上履きの中に二つ折りのメモが入っている。リアスは悪いとは思ったが気になって手に取った。


 雅秋からだった。


『ミアへ  来たら必ず俺に言え。絶対。』



 リアスはメモを元に戻し、既に誰もいない昇降口を後にした。


 リアスが教室につくと中村があわてて寄ってきた。


「おい。ザッカリー、待ってたぜ。おっせーよ!」


「おう、中村。」


 リアスは中村の肩に腕をまわした。


「何だよ?」


「お前、甲斐先輩から呼び出しだ。昼休みに中庭のでっかい樹のとこに来いってさ。すげーイライラオーラ放ってたぜ?朝、直々にここまで来て待ってたんだ。ザッカリー来んの遅っせーから戻って行ったけどな。一体何があったんだよ?」


「マジ?呼び出しって。ふーん。望む所だって。」


 リアスが目をすがめた。


「おいおい、なんか不穏だなぁー。なんかやばいのか?」


「‥‥‥‥まあな。」



 担任が現れた。


「席につけよー。SHR始めるぞ。」






 雅秋は教室で真面目そうな表情で席に座り前を向いてはいたが、担任の朝の連絡事項を伝える声など全く耳には入っていなかった。



 雅秋は一昨日夜、土曜日の夜、ミアにメッセージを送った。特に意味のないいつもの何気ないものだった。会えない日もミアとのつながりを感じるための。



『ミア、今日はどうだった?俺は家で勉強してたぜ。一応受験生だしな。』


『月曜日の帰りは部活ないし、二人で過ごそうぜ。おやすみ、ミア。』



 それに対するミアの返信はこうだった。



 『ごめんなさい、雅秋。いままでありがとう。』



 雅秋は意味がわからず困惑した。


 ーーーなんだよこれ?なんで謝る?いままでありがとうって?

 これってまるで別れのセリフみたいじゃねーか。まるで意味不。

 ミアが突然別れ話をしてくるなんてそれはありえねーし。



 俺はもう一度メッセージを送った。



『ミア、さっきのどういう意味?月曜日は用があるってことか?』



 夜12時を過ぎても既読にならなかった。


 寝ちまったのかもしれない。



 そして引き続き日曜日も音沙汰なし。俺のメッセージを見た形跡もなしのままだった。




 今日の朝、家を出る前もう一度送った。



『ミア、どうした?なんかあったのか?』



 やはり何の返事もない。おかしい‥‥‥。学校で直接つかまえて話すしかない。


 あれから何回確認しても既読にはなっていない。


 また、何かむくれて機嫌を悪くしているのか?


 俺は朝ミアの靴箱を確認したがミアはその時はまだ登校していなかった。




 俺は今、困惑の中だ。




 俺は最後にミアに会った時の事を思い返してみた。




 最後に会ったのは三日前の金曜日の帰り。


 邪魔な座家を追い出して外で待たせた。


 そしてミアとふたりきりのほの暗い生物室。


 あの不吉な名前、索ってのがミアの中にちらちらと見えて。俺は心が乱れていた。

 俺はその索という俺の記憶から消えかかっていた名前のことを確かめずにはいられなかった。


 そして俺は思い出した。そいつのことを。あいつはミアの心に巣くっている男。


 だから俺はミアを抱きしめた。ミアの心を確かめるために。


 俺はミアを愛している。俺はミアとつきあってから4度目のキスをした。

 ミアもそれに答えてくれた。


 俺はあの日のミアを忘れない。

 暗い教室の中で俺を見つめるミアの濡れて艶を帯びた大きな瞳。

 仄かな光で照らされた、あどけなさを残した女神のような可憐で美しいミアの顔。


 俺はミアから目をそらすことはできない。



 そして、その心も美しい。真面目で純情で控えめな穏やかな性格。優しくて裏などほとんどない。ミアは俺がミアを想えばその分俺を想ってくれる女の子だ。


 俺は18にして最高の彼女に出会った。この先もほぼ絶対的に、俺はミアを手放す気など1ミリも、いや1ヨクトだってない。たぶん俺が結婚するのはミアになるはずだ。


 俺はあの時、生物室でミアとふたり永遠にここにいられたらと思ったくらいだ。


 だが、ミアは‥‥‥‥‥



「‥‥‥雅秋、リアスが待ってるわ。」


 座家なんかどうだっていいのに。


「‥‥‥もう少し‥‥このままでいたい。」


 俺はミアをひきとめた。それなのにミアは急かした。


「雅秋、もう放して。リアスが待っているのよ。」


 待ちくたびれたら勝手に帰るだろう。あいつだって少しは察することくらい出来るはず。


「‥‥‥‥いいから、座家のことは気にすんな。」


 


 ミアのスマホに座家からメッセージが来た。


『遅せーから先に帰る!』


 ミアは急いで追いかけようとした。だが俺は許さなかった。


 座家のせいで俺たちのひとときのユートピアが台無しだ。



「座家は脚なげーからな、ミアじゃ追いつけっこないだろ。今日は二人で帰ろうぜ。」


 俺は座家のことをえらく気にかけているミアは気に入らない。


 あいつは毎日俺たちにくっついてきて邪魔だ。個人的にはいいやつだが、あいつはミアを狙ってる。


 座家はマジで俺に勝とうとでも思ってんのか?

 あいつが勝ってんのは身長4センチだけだっつーの。


 それなのに、ふたりでの帰り道でもミアはリアス、リアスと連発して。だから俺は不機嫌だった。



 ‥‥‥‥‥そのことが何か関係あんのか?


 きっとミアのことだ。その後座家に謝るために連絡をとったのは間違いない。

 座家は何か知っているかも知れない。



 次の日の土曜日、ミアは確かクラスの文化祭の映画製作の手伝いで学校に行くと言っていた。そこでは座家は関係はないはずだ。クラスが違う。


 クラスのことで何かトラブルが?でもクラスの中の出来事と俺とのことは関係ない。



 やはり座家が何か知っているに違いない。金曜日に座家を待たせた事が原因の可能性が高い。


 俺は今朝、座家のクラスまでわざわざ行ったがあいつはいなかった。

 仕方なく中村に伝言してきた。


 昼休み、座家に聞いてみよう。何かわかるだろう。





 雅秋はミアのクラスの映画撮影にリアスが参加したことも、ミアが柊也に襲われかけたこともリアスがミアについに告白したことも知るよしもなかった。


 




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