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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第2章
33/102

雨に降られて

 

「ただいまー。ごめーん。キリル、待ってた?ジュース買いに行ってたー。」


「ごめんなさい。遅くなって。」


 柊也がミアと戻って来た。


「あんたねぇ、助手のくせに監督の私をおいてさっさと戻るってどういうことよ?途中で消えちゃったりとか。」


 ルイマが柊也に詰め寄った。


「あんまり怒ると綺麗な顔が台無しだよー、キリルぅ。」


 ミアの後ろで屈んで半分隠れながら柊也が言った。


「‥‥‥ふーん、じゃあ私の綺麗な顔を台無しにしたのは柊也ってことね。どうやって償ってもらおうかしら?ふふん。」


 ルイマが不敵な顔で言い返した。


「うわー!真夏多ぁ。助けて!僕はキリルの奴隷(スレイブ)にされる。」


 柊也は後ろからみあの右肩にすがってちょこんと顔をのぞかせた。


「大袈裟ね。あんた今日はほとんど何にもしてないでしょうが!今から働いてもらうわよ。さあ、始めましょう。ミアとザッカリー、リハーサルしよう。」


 ルイマはてきぱきと進めた。


 ミアは肩の背後霊と化した柊也に言った。


「柊也、私のせいで余計な仕事が増えてごめんね。私、すぐ終わらせられるようにがんばるから。」


 柊也はミアの前に回った。


「真夏多のためならいいに決まってんじゃーん。僕も仕事モードになんないとなー。ちょっと待ってて。髪をちゃんとしてくるから。」


 柊也はそう言うとミアのほっぺを人差し指でそっとツンとタッチし、教室を出て言った。


「さあ、ミア、ザッカリー。リハ、ここで演じてみて。」


 ルイマが教室後ろの黒板の前を指定して言った。



 ミアとリアスは先ほど練習したものをルイマの前で再現して見せた。


「‥‥‥ミア!素敵だったわ!やっぱりミアは最高。リアスもそのままの役だから素のままでいけてるね。いい感じよ。このままでオーケーよ。柊也が戻ったら早速撮るわよ。」


 ルイマが言った時、ちょうど柊也が戻って来た。



 リアスは戻って来た柊也を見て別人かと思った。


 柊也は左サイドの髪をヘアピンでバッテンを作りとめていた。うざく目にかかっていた前髪もヘアピンで上部に上げられ一部はほどよく下ろされていた。

 隠れていた目が見えた。見た目はとても優しそうなソフトな雰囲気だ。



 戻って来た柊也は甘いフェイスのイケメンに変身していた。



「おまたせー!真夏多ぁ。」


 柊也はミアに言った。


「柊也はいつもちゃんとできないなら短くカットした方がいいわよ。あれでは前がよく見えないんじゃない?」


「あれはあれでいいんだって。僕は基本、真夏多やキリルみたいなキレイな子にしか顔を見せたくないしー。顔をさらしてどうでもいい女子に言い寄られたりしても迷惑だし時間の無駄だしー。さあ、早く始めようよ。キリル!」



「早くって‥‥‥?私はあんたを待っていたのよ!柊也はライトそっちでお願い。ミアとザッカリーは後ろの黒板の前でスタンバイよ。」



 撮影が始まった。



 ミアとリアスのシーンは、ほんの短いシーンだったが、アングルを変えたりミアのアップを撮ってみたり、ルイマが様々なパターンを撮ったため、1時間半ほどかかった。


 ミアとリアスが終わったのは正午頃だった。


「私たちはまだ校内の撮影をするから。ミアとザッカリーはお疲れ様。今日はありがとう。出来上がり楽しみにしていて!」


 ルイマは言った。




「雨が降りそうね。降る前に外の部分は撮ってしまわないと。柊也行くわよ!」


 ルイマは急いで教室を出た。


「真夏多。座家くんと帰るの?」


 柊也が聞いた。


「ええ、私たち家が近いのよ。駅も一緒なの。」


 ミアが言った。


「ふーん。よかったね、座家くん。中学が一緒っていうだけで真夏多やキリルとこんなに仲良しになれて。じゃあ、ミア。くれぐれも気をつけて帰ってね。ほんとは僕も真夏多と帰りたいんだけどー。何かすっごく心配だなー。」


 柊也がリアスを見ながら言った。



 ルイマがまた廊下の果てから大声で柊也を呼ぶ声が響いた。



「バイバイ、真夏多。またね。」


「うん、手伝うことがあったら言ってね。錦鯉研究部の方は今は落ち着いてるから。」


「わかったー。」


 柊也はミアに微笑んでから急いで出て行った。




「‥‥‥ミア、帰ろうぜ。」


 リアスが言った。


「うん。」


 ミアはリュックを持った。


「リアス、錦鯉研究部も、こっちまで手伝ってくれて本当にありがとう。」


「いいよ、俺も楽しいし。」


 二人は教室を出た。


 昇降口を出ると外の空気は じめっと重たく今にも雨が降りだしそうだった。


「早いとこ帰ろうぜ。俺もミアも傘持ってねぇし。駅まで着いちまえば何とかなる。」


「そうね‥‥‥、あの‥‥‥やっぱり、リアスは走って先に帰って。私といたら遅くなってしまうから。」


 ミアが言った。


「ミアをおいて一人で行けるわけねーだろ。」


 リアスが言った。


「‥‥‥何か聞いたことがあるようなセリフね?」


 ミアがうふふと笑ってリアスの顔を見た。


「あはは、そうだな。ついさっきな。」


 二人は歩き出した。



 松の石垣の横の通路を校門に向かって歩いているとポツポツと小雨が降りだした。


「やべー、もう降ってきた。」


 そのまま歩いていると急に大粒の雨が強く降りだした。雨でまだらに染まった地面が瞬く間に一様(いちよう)になって行く。



「うわっ!すげっ!‥‥‥ミア、あそこの用具入れの倉庫のひさしに行こう!」


 校門の脇の奥には校庭で使う用具の収納倉庫がある。ここから倉庫まで20メートルくらいだ。


 リアスはミアの手をとると走り出した。



「あっ、ちょっと待って、リアス!」


 リアスの足とミアの足では歩幅が違いすぎた。


「きゃっ!」


 リアスはミアの手を引っ張りすぎ、ミアは転びそうになって両膝を地面に着いてしまった。


 リアスはつないでいた左手を引っ張られ振り返った。


「ミアっ!」


「ご、ごめんね、リアス。」


 強く雨が二人を打ちつけている。


 リアスはミアを抱えあげた。


「首につかまれ。」




 リアスはひさしの下までミアを運ぶと降ろした。


「ごめん、ミア。俺が引っ張り過ぎて。」


「ううん。私こそごめんね。リアスまで転んでしまうところだったわ。」


 リアスはミアの膝のケガの具合を見た。右膝から出血していた。


「ミア‥‥‥膝痛いだろ?すぐ洗ったほうがいい。」


「大丈夫よ、リアス。ちょっとだし。」


「ミア、さっき磯部とドリンク買いに行ったとき緑茶買ってきてたろ?あれ出せよ。」


「あ‥‥‥うん。」



 リアスはミアからペットボトルの緑茶を受けとると、しゃがんでミアの膝を見た。


 左膝は大したことはなかったが、右膝は砂と小さな砂利がいくつも食い込み血がにじみ出ていた。


「ミア、ほんとにごめんな。」


 リアスはしゃがんだままミアを見上げて言った。


「リアスのせいじゃないわ。それに大したことないから。」


 ミアは微笑みをうかべた。リアスが気にしないように。



「ミア、右膝まげられる?俺の肩につかまれ。‥‥‥洗うぞ。」


 リアスはペットボトルのお茶で砂利と砂を洗い流した。しみるらしくミアの膝がびくっと何度も反射的に動いた。


 ミアのしなやかな脚とスカートの裾からのぞく脚の続きが奥の方まで目に入ったが今はそれどころではなかった。



 リアスは今日はまだ使っていなかったタオルハンカチでミアの膝を拭くと血がついた。



「俺、絆創膏もってる。そういえば。」


 リアスは自分のリュックから絆創膏を取り出すと、ミアの右膝にぺたりと横に3枚貼った。


 絆創膏のゴミをポケットに入れながら立ち上がった。


「ありがとう、リアス。もう大丈夫。それよりちょと後ろを向いて。」


 ミアが言った。


「おう?」


 リアスが後ろを向くとミアは持っていたタオルでリアスの後ろを拭きはじめた。


「しゃがんでいたから跳ねた泥が。それに余計にびしょびしょになってしまったわ。私のためにごめんね。」


 リアスは振り返ってミアのほうに向いた。


「そんなこと‥‥‥‥。俺がミアにケガさせたってのに。」


 リアスは自分の迂闊さを今さらながら悔やんだ。


「だから、リアスのせいじゃないわ。私が勝手に転んだの。こんな事でリアスが自分を責めたりしたら私の方が苦しくなってしまうのよ。ね?」


 ミアがリアスを見上げてにこっと笑った。



「‥‥‥‥ミア、俺は。」



 リアスの理想にまさしくどんぴしゃなフェイスとスタイルを持ち、その上純真で心優しいミアを目の前にした。



 リアスは3年半の想いを今こそ吐き出す時だった。


 この二人きりのステージで。






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