リアスの決心
電車は落花生駅に着いた。
改札を出ると二人は学校へ向かって歩き出した。
「雨、降るかしら?私傘持ってこなかったわ。」
ミアがどんよりした空を見上げて言った。
「あー、俺もだ。なんとか持つんじゃね?」
「だといいけどね。」
ミアの斜めすぐ後ろを歩きながらリアスはミアの横顔を見た。
どのアングルから見てもミアはめちゃかわいい、とリアスはあらためて感じた。
ーーー昨日はあれからミアと甲斐先輩はどうしたんだろう?ミアを抱きしめた甲斐先輩は、そのあとは当然‥‥‥‥流れ的には‥‥‥‥。
リアスは斜め後ろからミアのふっくらしたくちびるを見つめた。
「‥‥‥なあ、ミアは甲斐先輩とどうしてつき合うようになったんだ?」
リアスはぶしつけに聞いた。
ミアはびっくりしてリアスに振り返った。
「えっ、どうしてって‥‥‥、えっと、告白されたの。一度は断ったんだけど‥‥‥。」
ミアはリアスのいきなりな質問にも真面目に答えた。
ミアはいつも人に対して真っ直ぐ対峙する傾向がある。なので単刀直入な質問で答えづらいことに対しても受け答えをはぐらかしたりごまかしを言うことが下手だった。
「コクられたって‥‥‥‥。ミアはそんなのよくあるんだろ?その中でなんで甲斐先輩になったんだよ?」
「え?私そんなにモテたことなんてないよ。‥‥‥初めてだったの。私のことを好きだと直接言って来たのは雅秋だけよ。今まで。」
ミアがあっさりと言った。
「マ?」
リアスが信じられないという顔でミアを見た。
「マ!」
ミアがちょっと恥ずかしそうに言って前を見た。
リアスは自分が3年半も、うだうだミアに憧れ続け、つい最近までミアに告ろうともしなかった自分が腹立たしく思えた。
‥‥‥‥ミアに告ろうなんて勇者はそうそういないんだろうけど、まさかこれほど皆無だったなんて。甲斐先輩は自分に自信があるから出来たんだろうけど、それでも一度は断られたんだ‥‥‥。
俺、決めた!今日の帰りにミアに告る。今日なら甲斐先輩に邪魔されることはありえない。ミアが俺とつきあうことはできなくても俺の気持ちはミアに伝えたい。知って欲しい。俺だって。
リアスの密かな決心とともに二人は学校に到着した。
1年1組の教室に向かうと既に人の気配がした。
ミアとリアスが教室に着くと、既にルイマと磯部柊也が撮影準備を始めていた。
「おはよう!ミア。」
ルイマが笑顔で言った。
「おはよう。真夏多。」
柊也が言った。
「おはよう!キリル、柊也。」
ミアの後ろからリアスが入っていった。
リアスを見てルイマはすぐに知らない同士を紹介した。
「柊也、彼は今日エキストラを頼んだザッカリーこと座家リアスよ。」
リアスは柊也を見た。
不潔ではないものの余り身なりに気を使う方ではないようだ。前髪が長くて目が隠れぎみだ。制服のネクタイも変に曲がっている。その他は平均的な体格をしていた。
「柊也、この人は今回私の助手を買って出てくれた磯部柊也よ。」
ルイマがリアスに紹介した。
「はじめまして。でも僕は時々座家くんを見て知っていたよ。キリルと真夏多の所に時々来ているよね。1組まで。」
口もとは笑顔で言ったが前髪で隠れて目の表情はわからなかった。
「座家です。よろしく。」
リアスが言った。
「ザッカリー、これ、読んですぐ覚えて。1時間あげる。男子生徒役よ。セリフなんて余りないし、まちがってもいいよ。雰囲気でやってくれれば。動きと表情重視でいくから。」
リアスに向かって一枚の紙を渡した後、ミアに向かって言った。
「ミアのセリフの彼の名前を呼ぶ箇所、空白のとこはリアスでお願い。あと、ザッカリーにストーリーのサマリーを教えてあげて。」
「わかったわ。それと、リアスはさっき台本を読んだから大丈夫。」
ミアが言った。
「私たち、リアスとミアがセリフを合わせている間に校舎の中の他の箇所を1時間くらい撮影してくるわ。二人で、ある程度打合せして練習しておいてね。‥‥‥‥柊也、行くわよ。」
ルイマは荷物を抱え、さっさと教室を出て行った。
「真夏多、僕今日は大丈夫かな?」
柊也がミアの前に来た。
「大丈夫じゃないよ。ほら、ネクタイが曲がってるわよ。襟もここ折れているじゃない。ちゃんと朝、鏡を見ないとだめよ。」
ミアは手早く襟を直し、ネクタイを正した。
「もう、いい加減自分でちゃんとしなさいね!」
人差し指を振りながらミアが言った。
「サンキュー、真夏多!じゃ行ってくる。」
柊也がミアに言った直後、廊下で柊也を呼ぶルイマの大きな声が響いた。
「今行くー!」
柊也はミアに手を振り、あわててルイマを追った。
「柊也はいつも着方がだらしないの。」
まるで小学生の男の子みたいよね、とミアは笑った。
「‥‥‥‥小賢しいやつだな。どう見てもわざとだろ。」
リアスは後ろを向いてつぶやいた。そしてミアの方に向き直り言った。
「ミア、早速練習しようぜ。時間もないし。俺もう読んだ。」
「そう?じゃ、やってみよっか?」
「えっと、まず私たちは教室の隅っこの床に壁に寄りかかって座り込んでいるのよ。」
「じゃ、とりあえずここでいいか。」
そのまま教卓の後ろの黒板の下に二人で座ってみた。
『私‥‥‥本当は知っているの。』
ミアは突然隣に座るリアスに向かって憂いをにじませて言った。
リアスはドキッとした。
ーーー演技を始めたのか‥‥‥びびったー。俺の気持ちを知ってる‥‥‥ってわけねーか。
リアスは今覚えたてのセリフを言った。
『何のこと言ってんだ?』
『元の世界に戻る方法。』
ミアは抱えた膝頭を見ながら言った。
『黙っててごめんね。リアスに側にいて欲しくて‥‥‥ずっと黙っていたの。』
リアスの左側に座ったミアがこてんとリアスの肩ににもたれかかった
数秒の沈黙のあと起き上がり、ミアはリアスに紙切れを渡した。
『‥‥‥行って。リアス。今まで一緒にいてくれてありがとう。』
ミアは立ち上がった。
リアスも立ち上がりミアに向かい合った。
ミアに渡された帰還方法の記されたメモをチラリと見るとそのまま下に落とした。
『ミア‥‥‥‥一緒に帰ろう。』
ミアの演技につられて、リアスは、ミアは自分の彼女だと思えてきた。
『‥‥‥‥私は無理。ここに残るわ。あの世界は私には苦しすぎるの。ごめんね。リアス、大好き‥‥‥でも、さようなら‥‥‥。』
ミアは後ろを向いた。
リアスはおもわず後ろからミアを抱きしめた。
昨日は雅秋が抱きしめていたミア。だけど‥‥‥。
今だけは‥‥‥俺の彼女だろ。
リアスの突然の演技にミアがびくっとした。
『‥‥‥ミア、好きだ‥‥‥ずっと前から。俺は』
リアスは用意されたセリフとは違う本心を言った。役と自分を融合させてしまっていた。
長くも短くも感じる沈黙が続いた。
「‥‥‥あ、あのね、リアス、ここでは『俺も残る。』って言ってくれないと私は次のセリフが続かないわ。」
ミアが言った。
「‥‥‥‥ごめん。キリルがセリフより雰囲気と動きって言ったからつい。」
リアスはミアを後ろから抱きしめたままだった。
ふと見るとミアの耳が真っ赤になっている。
「ごめん、ミア。これはやりすぎだな。」
リアスはミアを放した。
「そ、そうね。熱演だったけど、これでは生徒会にカットを指示されるのは間違いないわね。」
ミアが後ろを向いたまま言った。
ミアはリアスの方を見ることが出来なかった。
ーーーリアスはお芝居で言っているだけなのに‥‥‥‥‥。リアスの体に包まれて‥‥‥本当に好きって言われたように感じてしまったの。
私、まだドキドキが止まらない。
雅秋以外にこんなことされたことないんだもの。
こんなにリアスのことを意識してしまうなんて。




