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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第2章
30/102

エキストラ

 リアスが信号待ちでスマホを確認するとミアのメッセージが届いていた。


『待たせてしまってごめんね、リアス。』


『怒ってる?』


 深夜アニメのキャラの女の子が陰から、ちらっ、ちらっ、と半分だけ顔を覗かせているスタンプがついていた。



 ーーーなんだよ、ミア。これだけ見てたら、ミアは俺の彼女で、俺を待ちぼうけさせたこと謝ってるみたいに勘違いしそうだろ。ほんと‥‥‥‥ただの友達なのに。



 何かこういうのってきついし苦しいじゃん、俺。



 ミア。俺の気持ち、マジでほんの少しもわかってねーのかよ?好きでもない女とこんなに一緒に帰りたがるわけねーだろ。泣いてたからっていちいち優しく慰めてやるわけねーだろ!ばーか‥‥‥‥‥いいかげん気づけよ‥‥‥‥!





『気にすんな。』


 一言返事をしておいた。






 家に着くと、食事も風呂もさっさと済ませ、自分の部屋にこもった。


 今日は早く寝てしまおうと思った。ミアと雅秋のあの抱き合っていた美しいシルエットを思い出すと、金曜日の夜だというのにゲームもする気も、今週分のまだ見ずにたまっていたアニメも見る気がしなかった。


 寝る前にスマホを確認するとルイマからラインが来ていた。



 ルイマは1組の文化祭で上映するムービーの撮影を明日の土曜日に学校でするという。ミアの出演部分が撮影出来ていないため、その日にその部分も特別に撮るからリアスもエキストラ参加しないかという誘いだった。



『誰もいない教室と廊下の場面がいるの。それを明日撮影する。ついでにミアの部分も撮るから一緒にどう?』


『俺、クラス違うのにいいの?』


『他のクラスの子も面白がってもう何人も撮影済みだよ。明日は私と助手の磯部(いそべ)くんとミアだけだし、どう?』


『じゃあ、明日1年1組に集合、よろ。』


『了解。』




 ‥‥‥‥明日、何すんのかよくわかんねーけど、いいか。明日行けばミアに会える‥‥‥‥甲斐先輩はいない。

 キリルのやつ、なんだかんだ言っても良いやつだな。多少は俺に協力してくれるらしい。



 リアスは先ほどまでの最低な気分がいくぶんか救われた状態で眠りにつくことができた。




 土曜日の朝。その日は曇りがちな空だった。



 反対側のホームは人が多いが、こちら側は土曜日ということでさらに空いていた。

 リアスはホームに上がると、いつもミアが乗る辺りに立った。運が良ければミアに会える。来ればすぐわかるだろう。




「リアス!おはよう。」


 リアスは振り返った。


 ミアだった。


「‥‥あ、おはよう、ミア。」


 昨日、生物室で雅秋に抱きしめられていたミアの姿が頭から離れないリアスはぎこちない言い方になった。


「あ‥‥‥あの‥‥まだ怒っているのね。昨日はごめんなさい。」


 おどおどしながらミアはリアスを見た。


 リアスもミアを見た。


 リアスに許しを乞うミアのいじらしい顔が自分に向けられている。


 リアスの心はくすぐられた。


「怒ってねーよ。」


 わざとミアの方を見ないでぶっきらぼうに言った。


「ほら、怒ってる‥‥‥。」


 ミアがリアスの左肘の辺りの袖を軽くつまんでつんつん引っ張りながら、背の高いリアスを切なそうな面持ちで覗き込んだ。



「ちっ、なんだよ、あいつら朝からいちゃついてら‥‥‥‥‥。」


「うらやましいがんなよー、お前!あははっ。」


 部活に行くのだろう。リアスたちとは違う高校のおそろいのウインドブレイカーを羽織った生徒が通り過ぎた。




 ミアにも当然聞こえたのだろう。そちらをちらっと見てからリアスの顔を見てほほを染めた。


 他から見るとリアスとミアはカップルに見えるらしい。気を良くしたリアスはミアと雅秋の幻影が頭の中から一時的に消えていた。



「だから、怒ってねーって。」


 リアスがニカっと笑って見せた。


 リアスはミアがほっとしたのがわかった。



「ところで、リアスも学校に用なの?」


 ミアが聞いた。


「あれ?キリルに聞いてないんだ。俺、今日の撮影のエキストラだぜ。」


 リアスが言った。


「そうだったのね!キリルがリアスを誘ったのね、うふふ。」


 ミアが意味深ないたずらっぽい顔になった。


「‥‥‥‥ミア、この間もだけど、勘違いすんなよ。俺、キリルとはただの友達だからな。絶対的に。」


 リアスはミアに真顔で言った。


「‥‥‥‥そうなの。」


 リアスの強い否定にミアは驚いて言った。




 電車がホームに滑り込んで来た。


 リアスとミアは座席の隅に二人で並んで座った。


「ねえ、リアス。キリルの台本は見たの?」


「いや。」


「じゃ、これを読んでおくといいわ。」


 ミアはリュックの中から表紙が黒い画用紙で綴じられた薄い台本を取り出した。


「‥‥‥これ、もしかしてホラー?」


 表紙に手書きの金釘流の白い文字で『古井戸』とタイトルが書かれている。


「あっ、うん。そうかも。」


 ミアが言った。


 実はリアスはホラーが苦手であった。しかし、ミアにそんな弱っちい所を見せるわけにはいかなかった。

 リアスは全く気が進まなかったが何でもないように振る舞い、読み始めた。



 舞台はとある高校。


 1年1組の生徒による脱出ゲームのようなストーリーだった。


 1組のある男子生徒が、ある日の昼休みに、学校の横にある立ち入り禁止の雑木林に立ち入り、古井戸を見つけた。その井戸は祠の中に隠されるように存在していた。


 彼は祠の扉をこじ開けた。そして古井戸を発見し、厳重に閉じられていたふたとお札をはがしてしまった。


 実はそれは、学校のどこかにあるという、かつて黄金の鯉が現れたという伝説を持つ古井戸だった。彼は現世と霊界をつなぐ封印を解いてしまったのだ。

 その男子生徒はそのことにより一時的に呪いを受けてしまっていた。何百年かの間に井戸の上部にたまっていた大量の邪気を一身に浴びてしまったのだ。


 彼はそれが伝説の井戸だということは知らなかった。

 まして、自分が封印を解いたとも、自分が呪いを受けたとなどと思ってもいなかった。


 そして、それはそのあと彼が教室に戻った時に起こった。


 彼は、5時間目に予定されていた体育館で行われる全校集会をかったるくおもっていた。そのような時間があれば教室で授業を受けていた方がましだと思った。


 彼のその思いは彼のまとった邪気と融合した。


 その時、それは昼休みの終了間近の時間だった。1年1組の教室にいた生徒以外の人が、突然学校から消えてしまったのだ。


 後に、消えたのは1年1組以外の生徒たちではなく、1組にいた生徒たちの方で、彼らはパラレルワールドに来てしまったと気づくのだ。


 そこから自分たち以外いなくなってしまった学校という異世界に飛ばされた生徒たちが、元の次元空間に戻るまでの軌跡が描かれていた。


 彼らはグループ、カップル、個人に分裂し、ここから脱出すべく、それぞれあがき奮闘するというストーリーだ。


 結局は隠された伝説の古井戸を見つけられた者は、そこから元の世界に戻ることができるのだが‥‥‥‥。





「悪霊とか、シリアルキラーが出る訳じゃないんだな。」


 リアスは台本を閉じた。


「高校で上映するのにそこまでホラーとかスプラッターのわけないでしょ?リアスったら。それにこれはキリル脚本なのよ。」


 ミアが台本を受け取って言った。


「私の役はこれよ。私は錦鯉研究部の準備で、クラスの撮影にはあまり参加出来なかったからキリルが特別に作ってくれた役なの。今日で撮影は終えて編集に入るって言ってたわ。」


 ミアはそう言って最後のページにセロテープでペタリと貼り付けてある紙を指差した。



「私は現実世界が息苦しくて、元の世界には戻りたくない女子生徒の役なの。だから、井戸から元の世界に帰れると判明してもそこに残ることを選択するの。彼氏と共に。」


 リュックに台本をしまいながらリアスに説明した。


「すぐ撮影が終わるようにキリルが考えてくれたの。」




 隣に座るリアスの顔を見て今、ひらめいたように言った。


「あっ、だったら今日はリアスは私の彼氏役なのかしら?」








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