伝説の悲話
「ミア、行くぞ!」
雅秋がミアの腕をつかんだ。
「雅秋、私、今は部活中なの。」
「部活中になんでこいつとこんな所にいんだよ?」
雅秋がのばらを睨んだ。
「うふふ、だって私‥‥‥ミアちゃんと同じ錦鯉研究部にはいったんですもの。」
のばらが勝ち誇ったように雅秋を見た。
「なんだと!お前‥‥‥‥まさかミア目当てで‥‥‥‥。」
雅秋の眉間に力が入った。
「あら?あなたがどう思おうがどうでもいいことだわ。行きましょう。ミアちゃん。」
のばらは雅秋にはつんとしてからミアに微笑むと、ミアを促した。
「雅秋、私は今からのばらさんと急ぎの課題があるのよ。文化祭の準備がいろいろあるし、当分一緒には帰れないかも。ごめんなさい。また連絡するわ。」
ミアはそう言うとのばらと一緒に図書室に向かった。
雅秋はミアとのばらの後ろ姿を見つめていた。途中、のばらがちらっと振り返りこれみよがしな笑みを雅秋におくり、ミアに何やら話しかけて楽しそうに笑った。
「あいつ完全俺に倍返しリベンジするつもりだぜ!くっそ。させるかっ。」
雅秋はイライラしながら二人が遠ざかっていくのを見ていた。
かつて雅秋は自分からのばらに交際を申し込んだにもかかわらず、わずか1ヶ月後にミアに心がわりしてのばらを振っていたのだった。
そして、のばらは雅秋の新しい彼女となったミアに雅秋の悪い素行を伝えようと近づいたところ、その時初めて会ったミアの美貌に引かれてしまったのだった。のばらにも新しい彼氏はいるが、それとは別に、ミアのような美しい子が美しい自分を慕っている尊い光景に憧れていた。ついでに雅秋と別れさせれば、のばらのプライドに傷をつけた雅秋に復讐もでき一石二鳥だ。
(詳しくはIn my mind 美少女周囲ではあれこれ起きてしまうものよ 第3章をご覧ください。)
図書室の入り口でのばらが言った。
「ミアちゃん、私、ここで参考にする演劇の台本をかりるわ。書き方の見本にするから一緒に探してくれる?そしたら、やっぱり生物室に戻りましょう。その方が落ち着いてできそうだわ。だって‥‥‥。」
のばらは自分とミアのすぐ後ろにいる雅秋を見て言った。
「雅秋!いつの間に?」
ミアが振り返り驚いた。
「ミア、俺帰り待ってるから終わったら教えて。」
「うん、いいけど‥‥‥。受験生の雅秋を待たせるなんて悪いわ‥‥‥。」
「気にすんな、絶対だぞ。じゃあ後で。」
そう言っている間にも雅秋とのばらの間では火花が散っていた。
「雅秋っ、でも‥‥‥‥‥。」
雅秋はのばらに目をすがめて見せ牽制してからきびすを返した。
「ごめんなさい、のばらさん。」
ミアは雅秋の刺々しい態度をのばらに謝った。
「いいのよ、ミアちゃん。気にしなくて。私はあんなお子様のすることなんて全然気にしていないわ。」
ミアの手伝いで目的の本を数冊借りたのばらとミアは生物室に戻ることにした。
のばらはミアと二人きりで作業したかったが、図書室ではミアとあまりおしゃべりできない上にまた雅秋がきて邪魔をされるかもしれない。せっかく錦鯉研究部に入部してまで得たミアに近づけるこのチャンスを台無しにしたくはなかった。
生物室に戻ると、のばらは全員に言った。
「すぐ終わるから聞いておいてもらえるかしら?劇の元となるこの土地に伝わる民話をお話しておくわ。」
ミチル、マナカ、中村が手を止めてのばらに注目した。
ミアもマナカの横に座ってのばらの話を聞く体勢をとった。
「昔、この学校の敷地には清瀬川里見の5万石ほどのお城が建っていたのよ。みんな知っていたかしら?」
「‥‥‥‥もちろん僕も知ってます。お城があったことだけならこの学校の人ならみんな知っている。だけど詳しいことは‥‥‥‥。」
ミチルは思うところもあり、その他の個人的に知っていることは口にしなかった。
ミアも学校七不思議の一つ、幻の生徒である名波索に関係があることだったので、一瞬ドキッとしたが平静を装った。
索はミアの心の中では雅秋よりだれよりも一番愛する人で、ミアと索は来世で結ばれることを誓いあっていた。
(くどくてすみません。未読の方はIn my mind 第3章をぜひご覧ください!)
「そのお城の井戸の一つに数年に一度くらいに『黄金の鯉』が現れることがあったのよ。」
その鯉はあの世とこちら側を自由に行き来できるとされていて、霊界からの使いだと人々は敬っていた。だから、その鯉に危害を加えたら恐ろしい天罰が下ると言われていた。
その黄金の鯉に関する噂の中にはこの鯉を食すれば不死になれるとか、この鯉の一枚のうろこにを得て、これに願いをかけて祈れば願いが叶うというものがあった。
清瀬川家の姫、蓮津姫は、そのたぐいまれな美しさを見初められ、ある中央政権の有力な家柄の大名の大目付の嫡男の側室にと望まれた。大目付は大名や高家、朝廷を監視する役職。これを断ればこの落花生藩にどんな災いが来ることか目に見えていた。
しかし、当の蓮津姫にはすでに秘密の想い人がいた。それは、かつてお忍びで出掛けた先で偶然知り合った男子だった。しかし、蓮津は大名家の側室から生まれた姫ぎみ、対して蓮津の想い人はただのとるに足らない藩士の次男に過ぎなかった。あまりの身分差に結ばれることはないとわかっていながらも蓮津姫は彼を忘れることはできなかった。
日に日に沈み込んで行く蓮津を見ていたのは藩主の里見と正妻の間に生まれた姫、那津姫だった。那津姫は幼いながら驚くほど利発で大人をも出し抜くことさえあった。那津姫は蓮津の抱える事情は知らなかったものの、蓮津姫の言動から、蓮津があの願いを叶えてくれる『黄金の鯉』のうろこを欲しがっていると察した。
それが悲劇の始まりだった。
そんな時に限って、お城の井戸に黄金の鯉が現れてしまった。
お転婆な那津姫は井戸に飛び込み、黄金の鯉のうろこを得ようとした。
那津姫は、そのまま黄金の鯉にひと飲みされて亡くなってしまった。
幼いながら利発で活発で蓮津を慕ってくれていた那津姫を失い、さらに秘密の恋をあきらめきれないまま嫁ぐことに決まった蓮津姫は病んでしまった。
悪いことは続き、蓮津の想い人までもが何者かによって殺されてしまった。
これは大目付の仕業だと蓮津は考えていたが後にこれは蓮津の母の手の者による仕業だと知り、蓮津は誰にも言うことなく苦しんだ。
この事実により蓮津は生きる力を無くしてしまった。
那津が亡くなってから約一年後に蓮津まで亡くなってしまった。
蓮津を輿入れさせることが出来なかった落花生藩は大目付から睨まれてしまった。美しく可憐な蓮津姫を手に入れることが叶わなかった落胆は恨みへと変貌したのだった。
やがて藩主は後継ぎがいないとされて清瀬川家は断絶させられてしまった。
人々は言った。
那津姫様が黄金の鯉に手を出したばかりに天罰が下ってしまったと。
「っていう、悲劇のストーリーなのよ。どうかしら?」
のばらは話終えた。
「うーん、何か救いようのない暗い話だなぁー。どう思う」
中村がマナカを見た。
「そうだね。全滅だよねぇ‥‥‥。土方くんは?」
「そうだなぁ、鯉にもっと焦点を当てたストーリーに脚本で変えればどうかな?ミアは‥‥‥‥‥どうしたの?ぼんやりして‥‥‥‥。」
「‥‥‥‥あ、あのごめんなさい。この悲恋ストーリーに思う所があって‥‥‥悲しくなってしまったの。」
ミアは索と蓮津姫の物語の表面をなぞったこの民話を初めて耳にした。
ミアは索の悲恋物語を、索から索視点で見せられて一部分はすでに知っていたが全体像は知らなかった。
「あ‥‥‥悲しすぎるストーリーだったわね?でも脚本で改善してもいいのよ。これではバッドエンドすぎるものね。」
のばらはなぜか切なげな表情になってしまったミアに気を使って言った。




