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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第2章
29/102

ざわめく心

「さあ、今日はもう片付けて終わりにしましょう。」


 のばらが言った。


「まず、着替えなくては。男子はひとまず教室から出て。ミアちゃんとマナカは先に着替えて。」


 ミチル、雅秋、リアス、中村の4人は生物室を出た。


 3人で生物室の壁に一列に寄りかかって待っていると、声が聞こえてきた。


 どうやらこの壁一枚のすぐ横にミアたちがいるようだ。





「あら?ミアちゃん。首の後ろに何かついてるわ。いえ、小さな傷痕?」


「いえ、これは私を護ってくれているおまじないみたいなものです。」




 雅秋はハッとした。


 ーーー確かそれは‥‥‥えっと‥‥知っていたのに‥‥思い出せない。良いものではなかった気がする。



 不意にまた聞こえてきた。


「きゃー、ミアさん!足首のミサンガ、甲斐先輩とお揃いなんだね。」


「そうよ。私が作ったのよ。」



 物思いから我に戻った雅秋が自分の左足首についた赤いミサンガを見た。

 リアスは不機嫌だだもれの顔ででちらりと見た。




「ミアさーん、こんなところにほくろがあるんだ。うひひー。甲斐先輩はこれ知ってるんですかぁ?」


「もう!池中さんたら。」



 リアスと中村が雅秋をばっと見た。


「な、なんだよ!お前ら‥‥‥‥‥。」


「し、知ってんのか?」


 リアスが雅秋に緊迫感を漂わせ聞いた。


「‥‥‥僕知ってるよ。たぶんここにあるほくろのことだと思うけど‥‥‥。」


 ミチルが自分の体の一部を指して言った。


「な、な、な、な、何で知ってんだよ!」


 3人揃ってミチルを見た。


「幼稚園の時見た。」




「ミアさん、黒って意外だなー。白い肌に黒ってセクシーすぎるよぉ。いひひー。」


「もう、さっきから!あら、池中さんのピンクのレースがかわいいね。うふふ。」




「‥‥‥‥‥」


 リアスがゴクリとつばを飲んだ。


 雅秋が手でリアスの両耳を押さえた。


「お、お前ら聞くんじゃない!乙女の園の会話だ!」


 中村が壁をどんどん叩いた。


「お前ら早く着替えろよ!遅せーんだよ!」




「ごめーん!」


 マナカの大きな声がした。





 それから数分でミアが引戸から顔を覗かせた。


「お待たせ、ごめんね。遅くって。交代よ。」


 ミアの顔を見た男子4人は、なぜかぎこちなくミアを見た。


「‥‥‥‥どうしたの?何かあったの?」


 ミアがきょとんとした。


「い、いや。おい、中村。早く着替えちまおうぜ。」


 雅秋がさっさと生物室に入っていった。








「疲れたわね。みんなお疲れ。今日のクローズはミアちゃんよ。お願いね。」


 のばらが言った。


「はい、みんなお疲れ様です。また明日。」


 のばらとミチル、中村とマナカがそれぞれ先に出て行った。



「何でまた座家が残ってんだよ?」


 雅秋が嫌な顔をした。


「いいじゃん。俺とミアの家は近いんだから一緒に帰るのが自然だぜ。」


「ちっ、しょうがねーやつだな。俺、ちょっとミアに話すことあるから、先に昇降口に行ってろ。」


「‥‥‥‥‥わかった。待ってる。」


 雅秋はなんだかんだ言ってもリアスを完全排除することはない。


 ーーー甲斐先輩、自分に自信があんだろうな‥‥‥‥。でも、俺だって可能性はある。それに3年生はあと半年で卒業だ。


 リアスは廊下を一人歩きながら思った。




 ミアは窓の戸締まりを確認し、生物室の電気を消した。

 外はもう暗くなっていたので夜の教室のようになった。



「話ってなあに?」


 ミアは引戸に手をかけながら雅秋に聞いた。


「‥‥‥索って言ったよな、ミア。」


 ミアの戸を開けようとした手が止まった。振り返って雅秋に言った。


「‥‥‥‥私と索のこと、雅秋はわかってくれていたわよね?私の気持ちをわかってくれているはずよ。お願い、いまさら怒らないで。」


 廊下からのほのかな灯りを受け、ほの暗い生物室の中でミアの瞳が艶を帯びて光っている。


「‥‥‥‥‥ああ、そうだったな。」


 雅秋はミアの瞳を見つめながらぼんやりと思い出してきた。



 ーーー俺はなんで忘れかかっていたんだ!俺に取り憑いたやつのことを。名波索を。ミアのうなじに呪を授けたやつのことを‥‥‥‥



 ミアは、遠くを見るような目で自分の方を見つつ、物思いでぼんやりしている雅秋を不安げに見ていた。


「雅秋?」


ミアに呼ばれて我に返った雅秋が言った。雅秋の目の焦点がミアに戻った。


「‥‥‥‥でも、ミアは俺と生きて行く。そうだろ?」


「そうよ。私は雅秋と‥‥‥‥‥」


 雅秋はミアを抱きしめた。


「俺、劇の最中からずっとこうしたかった。」







 リアスは昇降口から出た所でうろうろしていた。


「‥‥‥おっせーな。何話してんのか気になるじゃん‥‥‥。」




 ルイマが数人の生徒たちと昇降口から出て来た。

 気づいたルイマがひとり寄ってきてリアスに声をかけた。


「あれ、ザッカリー。何してるの?こんなところでうろうろして。帰んないの?」


「おう、キリル。お前も今終わったのか?お疲れ。」


 リアスはそう言うと昇降口に目をやった。


「誰か待ってるの?」


 ルイマが聞いた。


「ああ‥‥‥じゃあな。」


 上の空の返事が返ってきた。


「‥‥‥うん、またね。」


 ルイマはもとの生徒たちの中に戻った。


「あれ、キリル。あの人彼氏じゃなかったの?一緒に帰らないの?」


 その中のひとりが言った。


「‥‥‥違うわよ。中学が同じだった友達だってば。」


 ルイマは言った。


「ふーん。けっこういけてるよね?あの人。」


「そお?」


 リアスの態度を心外に思いながらルイマは言った。





「何だよ、甲斐先輩、ちょっとって言ったくせに。」


 リアスは様子を見に戻ることにした。


 靴をまた変えるのは面倒なので中庭に回り、生物室を覗いてみることにした。


 リアスは中庭に走った。


 ーーーすれ違いになんなきゃいいけど。



「生物室の窓は‥‥‥ここだ。」


 既に電気は消えていて誰もいないようだった。


 ーーーもう、出たようだな。



 そう思った時、リアスの心臓がどきりと大きく鳴った。


 生物室の戸の前で雅秋がミアを抱きしめているシルエットが目に入ってきた。

 ミアの顔は見えなかったが、廊下からもれている灯りの逆光に浮かび上がった雅秋の整った美しい横顔が見えた。



 ‥‥‥‥‥そうだよな。ミアと甲斐先輩はつきあってんだ‥‥‥。これくらいのことは当然‥‥‥‥だよな。あの拡散された二人のキス動画だって本物だったとしてもおかしくはない‥‥‥。

 ‥‥‥それにミアと甲斐先輩の足首に結ばれたおそろいのミサンガ。




 わかっている。こんなこと。でも‥‥‥目の当たりにするのは痛すぎる。




 リアスはそっと窓から離れた。



『遅せーから先に帰る!』



 ミアにそっけないメッセージを入れるとそのまま駅に向かって走りだした。


 途中、数人で歩いていたルイマをシカトして追い越した。

 他のことを気にする心の余裕はなかった。





 数分待っていたら電車が来た。


 リアスは乗った。


 リアスの家から学校へは、都心に向かう通勤客とは逆方向にあるので電車の中は行きも帰りも混んではいない。

 座席は空いていたがドアの脇の角に立って外を見ていた。



 ふいに車両のドアが開き隣の車両からルイマが現れた。


 ルイマは同じ扉の横の反対側の角に立って黙ったまま外を見た。




 日良豆(ひよず)駅で二人は降りた。


「ザッカリー、どうかしたの?」


 スタスタ歩くリアスの後ろからルイマは声をかけた。


「‥‥‥別に。」


「わかってるわ。ミアのことでしょう?いつものことね。」


「‥‥‥‥‥‥。」


「ザッカリー、最近がんばってるみたいじゃない?」


「嫌みかよ?」


 リアスは珍しく不機嫌をさらしていた。


「何ひがんでんのよ?」


 リアスに続き改札を出ながらルイマは皮肉な笑みを浮かべた。


「‥‥‥‥俺はやっぱ諦めないって決めたんだ。今ミアに甲斐先輩がいたとしてもそれがずっと続く訳じゃない。ここまで来たんだ。俺だって‥‥‥‥。」


 リアスは振り返ってルイマに言った。


「‥‥‥まあ、何事も後悔はしたくはないもんね。私はザッカリーに協力も邪魔もしないから。私は自分の力でミアの親友という座を手に入れた。ここにいる限り私はずっとミアと一緒にいられるの。ザッカリーはどうなるのかしらね。」



「なんだよ?キリル。お前もミアに憧れてた口だったのかよ。」


「そうよ。私の態度で既にばれてると思ってたけど‥‥‥。」


「そうか‥‥‥。ま、そういうことならそんなこと言わないで昔なじみってことで多少は協力してくれよな。じゃあな!」


 リアスはそう言うと急ぎ足で帰っていった。



「私、なんでザッカリーが気になるのかしら‥‥‥?なんか気が重いのよね。」


 ルイマは去って行くリアスの後ろ姿を見ながらつぶやいた。


 ーーーリアスが走って私を追い越して行ってから、私も走って追いかけた。

 ホームに入ってきた電車に飛び乗ってリアスがいつも乗っている車両まで移動した。

 ザッカリーがミアのことで悩んでいたのは明白だったもの。

 私は二人の友達として気になっているだけ。 



 きっとそれだけだわ。 

 






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