ミアを想う〈雅秋とリアス〉
雅秋は生徒会室の前の壁に寄りかかって立っていた。
先程は突然のことで平静を失い正常な判断ができなかった雅秋だったが、落ち着きを取り戻して来た今、本来の思考回路が働いてきた。
そして、ミアが先ほど渡り通路で雅秋に話したこと、煌が雅秋にここで話したこと、両手で顔を覆って煌と去っていったミアの姿を思い返していた。
ーーー雪村は、ミアが積極的に誘って来たなんて言ってやがったがあの真面目でおとなしいミアがそんなこと出来る訳がねぇだろ。
俺は雪村に初めて会った時に口げんかをした。あの時からあいつは意識過剰の妄想沼野郎だということわかっていたのに、雪村の言葉を真に受けちまった。
ミアは‥‥‥何らかの手であいつのいいなりにされた?
目の前の生徒会室には誰もいる気配はなかった。そして雅秋はずっと生徒会室の前にいたが誰も出てきてはいない。
ーーーということは‥‥‥‥
煌とミアの二人きりだった生徒会室。
まさか?
雅秋が走り出そうとした時、廊下の向こうから煌が一人戻って来た。
「あれ、甲斐先輩。まだここにいたんですか?」
煌はしらっと言った。
「‥‥‥‥雪村、ミアに何をした?」
「は?‥‥‥何を言っているんですか?」
煌が首をかしげた。
「生徒会室でミアに何かしたんだろう!」
雅秋が煌に詰め寄った。
「何かって?」
「ミアがお前のいいなりにならざるを得ない何かだ!」
「‥‥‥甲斐先輩、僕は生徒会室でミアとは話以外していませんよ。それも、ほんの数分の出来事です。甲斐先輩はここでミアを待っていたのならそんなこと知っているはずですよね。」
煌は下らない質問だ、とため息をついた。
「‥‥‥だいたいミアがお前を誘うはずなんかねぇんだ。ミアは俺に夢中だってのに。」
「‥‥‥おめでたい人ですね。誰にだって裏と表があるのに。」
煌は憐れみを持って雅秋を見た。
「ミアはマジで純真だ。たいそうな裏なんて持っちゃいねぇんだよ!」
雅秋が噛みついた。
「‥‥‥だからってあんなに直球しか知らない子は‥‥‥‥、ふっ。」
煌は嗤った。
「‥‥‥おい、ミアはどこに行った?お前どこに連れて行ったんだよ?」
雅秋はミアの姿がないことに今更ながら気がついた。
「僕はどこにも連れて行ってはいませんよ。階段の所まで送って行っただけですから。そのあとミアは‥‥‥‥‥」
煌は考えるように上を見た。
「なんだよ?早く言え!」
雅秋がイラついて言った。
「‥‥‥たしか、えっと何だったかな?エクストリームリーなデンジャラスなフォースを持った嵐の猛威の騎士で‥‥‥変化させる人のメーテルだったかな?僕も理解不能だが、そのメーテルと名乗った髪の長い女子と先ほど帰ったよ。」
煌が真顔で答えた。
「‥‥‥‥は?雪村‥‥‥お前‥‥‥俺をバカにしてんのか?おいっ!真面目に答えろよ!俺はミアをこんなに心配してるってのに!」
雅秋がキレた。
「だ、だから騎士メーテルと手をつないで帰って行ったって言っているだろう。」
煌のクールフェイスがわずかに乱れた。
「そんなばかばかしい嘘で俺を騙そうとしてんのか?ざけんなっ!一人で沼に浸かっていろ!お前の脳内妄想につきあってる暇はない!」
雅秋はミアを追うために駆け出した。
「‥‥‥甲斐雅秋の僕に対するイメージが思わぬ方向に向かって行くのは心外だな‥‥‥‥。屈辱だ‥‥‥。」
雅秋は意図せずして煌に1ダメージ与えた。
ミアとリアスは昇降口の隅で向き合っていた。
「帰りながら話そう。な?」
ミアの両肩に手をおき、顔を覗き込みながらリアスが言った。
「‥‥‥‥ありがとう、リアス。」
ミアは真正面に来たリアスの顔を見た。
リアスがあまりに心配そうな顔をしているのでミアは泣いていたはずなのに逆に可笑しくなってしまった。
「‥‥‥‥くすっ‥‥‥‥私、リアスの顔を見たら涙が止まってしまったわ。」
ミアがいたずらっぽい目でわずかに微笑んだ。
「‥‥‥‥ミア。」
リアスは自分の鼓動がいやに大きく響いてくるのを感じ始めた。
このシチュエーションはチャンスではないだろうか?とふいに気がついた。
今こそミアに俺の積年の気持ちを伝える時ではないか?
でも、ミアがこんなメンタル状態の時に言うのは間違っている?
いや、こんなチャンスを逃したらダメだ!
俺の心臓やばい‥‥‥‥。
俺は‥‥‥‥告る!今。
「ミア、俺のことどう見えてる?」
ミアの肩に手をおいて顔を合わせたまま、リアスが聞いた。
「どう見えるって‥‥‥?私のことをすごく心配してくれているようにみえるけど‥‥‥。」
「いや、今じゃなくて、普段はどう思ってる?」
「え?どうって‥‥‥、リアスはいつもやさしくてスラッとしててカッコいいと思うわ。明るくて面白いし、みんなにすごく気も使っているの。きっと他の人もそう思っていると思う。」
ミアは急な質問に戸惑いながらも真面目に答えた。
リアスは心の中でガッツをした。
「そ、そういう男ってミアはどう思う?」
「ええと、そういう人は人気者で、きっとモテてるんじゃないの?お友達もたくさんいるでしょうね。私と違って。」
ミアが一般論を言った。
リアスはミア自身がどう思うか聞きたかったのだが、とりあえず自分はまずまずの印象を持たれているようだ。
今こそ決める時だ。
「ミア‥‥‥こんな時にごめん。でも俺、ずっと前からミアが好‥‥‥‥」
「ミアっ!探し‥‥‥‥‥おいっ!座家‥‥‥何してんだよ!」
リアスの告白に雅秋の声がかぶさった。
「座家‥‥‥何ミアに触ってんだよ?その手は何だ?そんなにくっついて!」
雅秋がリアスとミアの間に入った。
「雅秋、リアスは私を気遣ってくれていただけなのよ。リアスに言いがかりを言わないで。」
ミアが雅秋を止めた。
「ミアもミアだぜ?もうちょっとでキスでもしそうな格好だったじゃなねぇか!」
雅秋がミアを責めた。
「そんな風に見えてたの?」
ミアはリアスを見た。リアスと目が合ったミアは顔を赤らめて目をそらした。
「‥‥‥‥帰るぞ、ミア。」
雅秋が不機嫌に言った。
「うん、リアス帰りましょ。」
ミアは言った。
「なっ!」
雅秋はリアスを見た。
「俺たち今二人で帰るとこだったんだぜ?ミアの悩みを聞きながらな。ミアは泣いてたんだ。あんたのせいじゃなかったのかよ?」
リアスが雅秋に言った。
リアスはまたもや雅秋にミアへの告白を邪魔された。
だが、今回はミアがリアスを意識して顔を赤らめた。これは少しずつ前進している証拠だ。
最後まで言えなかったのは非常に無念だったが、この分なら近い内に‥‥‥‥。
リアスはミアの横顔を見つめながら思った。
すでに暗くなった松の石垣の横の通路を校門に向かい3人で歩きながら雅秋がミアに聞いた。
「ミア、生徒会室でいったい何があったんだ?」
「‥‥‥‥雅秋、ごめんなさい。私が一人で短慮なことをしたばかりに‥‥‥‥雪村先輩にいいように言いくるめられてしまったの‥‥‥‥。」
ミアが苦々しい顔になった。
「何の話だよ?ミア。生徒会室に行ったのか?生徒会長と何かあったのか?」
リアスはまだミアに起こったことは何も知らなかった。




