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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第1章
22/102

術中のミア

 

 ミアは生徒会室の扉を閉め振り返った。


 雅秋と目が合った。


 廊下に雅秋がいた。 


 ミアはびくっと固まった。


 生徒会室扉の斜め前の壁に寄りかかってこちらを見て立っていた。


 ミアは雅秋の体全体から黒い炎がゆらゆら立ち上ってゆくのが見えるような気がした。


 これはかなりやばい状況だ。


 瞬間、生徒会室の目の前のここで大声を出されるのはまずいと思い、ミアは4階の渡り通路まで走った。


 雅秋が追ってきた。


 ミアは渡り通路の中ほどまで行くと立ち止まって振り向いた。


「どういうことだよ?あそこで何してたんだ?あー?お萩ミッションはどうなったんだよ?くだらねぇ嘘つきやがって!」


 雅秋が殺気だった。


「まさか‥‥‥‥雪村にハニートラップ仕掛けてたのか?ミチルのために。」


「‥‥‥‥そんなわけないでしょう?私は普通にお話してきたのよ。会長も副会長も劇を中止にするつもりはないと言ってくれたわ。金曜日はただ私たちの表現方法が適切か確認するだけで、不適切な部分は改善すれば良いだけだって言ってくれたの。」


「それは、信用出来るのかわかんねぇだろ。」


「私は信じてるわ。あの人たちは公正を心がけていたもの。ちゃんと話してみたらわかったの。さっき話していたような狡猾でも腹黒な人でもなかったわ。」


「‥‥‥‥どうだろうな?俺は直接聞いてたわけではないから判断はできない。」


「それより、問題なのは雅秋よ。時田さんに近づいても無駄よ。私、同じクラスで彼女を知っているからわかるの。」


 ミアは雅秋のやり方に反感ありありだった。


「雅秋こそおかしなハニートラップはやめることね。どんな女の子もみんな雅秋のことを好きになるとでも思っているの?思い上がってるわ。もし、そんなことを本当に時田さんにしたら私‥‥‥‥‥‥雅秋とのことは考え直さざるをえないから。」


 ミアは雅秋に冷たい顔できっぱりと言った。


 ミアはもしかしたら雅秋の逆鱗に触れるかも知れないと思ったが言わずにはいられなかった。雅秋はうぬぼれすぎだ。


 ミアは雅秋がどんな反応をするか内心では怯えていたが、白刃(はくじん)を突きつけるかのような冷たい顔をして見せた。



 だが、いつになくめちゃ怒のミアの顔を見た雅秋は、にまにましながら近付いて来てミアの顔を覗きこんだ。



「ミア‥‥‥‥ふふっ。ミアがそこまで焼きもちを焼くとはな‥‥‥。そんなに怒って。俺のことどんだけ好きなんだよ?‥‥‥‥わかったよ。ミアがそんなに言うならやめるって。俺が好きなのはミアだけだ。安心しろよ。」



「‥‥‥‥雅秋はやっぱり雅秋ね。なんて自信家なの‥‥‥‥。」


 ミアは釈然としないものを感じつつもこの場はうまく収まったことにほっとした。





「雅秋、私まだ生徒会室で話の続きがあるの。私は事をうまく運ぶためにがんばるの。もう少しで、なんとかなるわ、だから邪魔しないで。先に帰っていて。」


 ミアはそろそろ生徒会室に行かなければならない。そして煌がいまだにのばらに執着しているのが本当だとしたら、あきらめるよう心を込めて真摯に説得するのだ。ミチルのために。



「‥‥‥‥雪村の気を引こうとしてるんじゃないだろうな?ミチルのために。」


 疑いのまなざしをミアに向けた。


「雅秋、私は率直に話し合うだけよ。こちらが真摯に話せば向こうだってわかってくれるものよ。おかしな策はいらないわ。」


 ミアは真面目に言った。


「‥‥‥‥ミアを信じてる。」


 雅秋がミアの瞳を見つめた。


「ありがとう、雅秋。私、全てうまくいくようにがんばる。」






「そろそろ来るかな。」


 煌は、神露も戻って来たりりかも他のメンバーも先に帰した。


 神露はミアと話がしたいようだったが、煌がのばらとのプライベートの話だったので帰るように促した。



 ノックが聞こえた。


「どうぞ。」


「失礼します。」



 煌はミアのその一言で彼女がとても緊張しているのがわかった。


 ーーー外見と同じく中身も清純ってわけか。神露の言っていた通りだな。


「ここに座って。」


 煌はミアに言った。


 生徒用の小さな机のあちらとこちらで向かい合って座った。


「で、時間も余りないし、早速聞こう。僕にのばらのことで相談て?」


 煌はミアの目を見て聞いた。


 煌は椅子に座ればひざとひざが触れあうほどわざと小さい机をセッティングしておいた。当然ながら顔もすぐそこにあり、目が合えばかなりの圧がかかる。



 ミアは煌と合った目をそらして煌の肩の辺りを見た。



「あ‥‥‥率直にいいます。あの、のばらさんは劇の公演の可否にかこつけて雪村先輩がのばらさんを取り戻そうとしていると思っているんです。でも、先ほどの話ではそういうことではなかったってわかりましたが‥‥‥、でも雪村先輩の気持ちを確認したくて。」


 ミアは最後だけ煌の顔を見て言った。


「そんな個人的なことが文化祭の劇の可否に関係するわけないだろう?のばらはとんだ勘違いをしていたんだね。僕は驚いたよ。どうしてそんな風に思ってしまったんだろうね?」


 煌は心外そうに言った。


「さあ、それは私にはわかりません。それで、劇はいいとして、雪村先輩は本当にのばらさんを取り戻そうとしているのですか?」


「どうしてミアちゃんがそんなことを気にするんだい?君には関係ないだろう?」


「それはそうですが‥‥‥私、雪村先輩はもうのばらさんに関わらないでほしいんです。」


「それはどうして?」


「そ、それは‥‥‥その‥‥‥。」


 ミアはミチルのためだとは言えずにもじもじした。


「僕がのばらが好きだと言ったら何か君に問題でも?」


「そ、それは困ります。私‥‥‥。」


「だから、それはどうして?」


「だって、のばらさんにはもう彼がいるんです。だから‥‥‥雪村先輩が好きだとしてももう無駄ですから。」


「‥‥‥‥君はさっきからまるで僕に愛の告白をしているように聞こえるけど?」


「えっ?」


 ミアは顔を上げ煌を見た。


「のばらのかわりに僕の彼女になりたいのならそう言えばいいじゃないか。ミアちゃん。」


「そ、そうではなくって‥‥‥。」


「いいよ。ミアちゃんを僕の彼女にしてあげても。そしたら僕はもうのばらに関わることはなくなるだろうね。」


「違うんです。私、そういう意味で言ったのではないんです。」


 ミアはほほを染めながら煌の目を見て訴えた。


「恥ずかしがっているの?君の方からこんなに迫ってきたくせに。」


「本当に違うんですっ!私の言い方が悪くてごめんなさい。」


 ミアが焦って言った。


「‥‥‥‥今さら僕の勘違いだと言って僕に恥をかかせる気かい?」


 煌は冷ややかな笑顔でミアを見た。


「違っ‥‥‥‥!」


 ミアは自分がはめられたことに気がついた。





 生徒会室を出ると雅秋が待っていた。



「ミア、待ってたぜ。帰ろう。」


 雅秋が言った。



「雅秋‥‥‥‥、私。」


 ミアは雅秋を見たら涙が出てきた。


「ああ、甲斐先輩。ミアは今から僕の彼女ですから。ミアの方から積極的に誘ってきてね。そこまで女の子に言われたら僕も断れませんから。」



「ち、違うの!雅秋‥‥‥‥!」


「まさか、本当に‥‥‥‥ミチルのためにそこまで‥‥‥?」


 雅秋が顔色を失い、そして苦悶の表情を見せた。



「そういうことですから。」


 煌はうそぶいた。


 煌は隣で両手で顔を覆ってうつ向くみあの腰に腕を回して引き寄せると、そのまま雅秋の前から連れていった。


 その煌の姿はまるで、傍からからみれば落ち込んだ恋人を慰めている優しい彼氏のように見えた。





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