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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第1章
21/102

ミアの応手

 雅秋がそんなことをいうのならミアはミアのやり方でやる、と一人で決めた。


 ーーー私は私のやり方でミチルを助けてみせる。そしてこの劇も。


 ミアは正攻法でいくつもりだ。


 煌は狡猾な手段を使ったようだが、こちらも狡猾に返せばさらに狡猾に返されるのは目に見えていると思った。


 そして時田りりあについては、雅秋の策略はうまく行くわけないとわかっていた。なぜなら時田りりあはミアと同じクラスの女子で、ミアは彼女のこと知っていたからだ。


 彼の女好きなタイプはマッチョで強くて実直な男子だ。


 3年にすてきな先輩がいると言っていて、聞けばそれはゼツガの事だったのを覚えている。まるで雅秋とは正反対の男子だった。


 彼女の兄は柔道の有段者で、りりあも黒帯保持者だと言っていた。

 彼女は彼女に釣り合うたくましい男子ではないと興味がないらしい。


 その前に、りりあに限らず同じクラスの子は皆、ミアと雅秋が付き合っていることを知っている。常識人のりりあは、雅秋のことは友達の彼氏という認識しかもたないだろう。


 それに雅秋が他の女の子におかしな真似をしたならばミアはもう雅秋とはつきあうことはできないと思っていた。





 ミアの密かな決心に気づくことはなく、ミチル女子化計画は着々と進んでいた。





 のばらが出入口の戸の小窓に紙を貼ってふさいだ。


「さて、と。」


 それから、ミチルを前に、のばらとマナカでミチル女子化計画について考えだした。

 何か、獲物を前に楽しんでいる風がありありだ。




 ミアが突然言い出した。


「みんな、ごめんなさい。わ、私今日、帰りにお母さんがデパ地下で予約したお萩を取りにいかなければならないの。なのでお先に失礼するわね‥‥‥。」


「お萩って?‥‥‥お月見の?」


 リアスが妙なものを見るようにミアを見た。


「なら、俺も帰る。」


 雅秋が言った。


「だっ、だめよ!これはいわゆる我が家の神事の一貫で‥‥‥その‥‥‥乙女が、そう、穢れなき乙女が一人で運ばなくてはならないのよっ。」


「‥‥‥‥何なんだよそのおかしなミッションはよぉ?」


 雅秋が訝しげにミアを見た。


「と、とにかく私は行くわ。あ、後、余った台本を一冊頂くわ。これも神棚にお供えしようかな。じゃ、さよなら!」


 ミアは急いで荷物を持つと生物室を出て行った。




 ミアが出て行くのを見て雅秋も慌てて自分の荷物をまとめた。


「俺も帰る、じゃあな!」


 雅秋はミアの後を追った。




 生物室では構わずミチル女子化計画が進められていた。


「制服は私のでは大きすぎるわよね。」


 のばらがミチルを見ながら言った。


「しょうがないなぁ、私が貸せばいいんでしょ!ちょっと着てみ。今体操服に着替えるから待ってて。」


 マナカはトイレに着替えに言った。




 戻って来たマナカはミチルに制服を渡そうとした。



「ちょっと、待て!」


 中村が突然割り込んできた。


「マナカの脱ぎたての制服をミチルが着るのか?」


「それがどうしたのよ?」


 マナカが眉を寄せた。


「‥‥‥‥‥そ、その‥‥‥。」


 中村が言いよどんだ。


「‥‥‥‥ヒトミ、なんかキモい。」


 マナカは中村を無視してミチルに制服を渡し、机の影で着替えるように言った。




 ミチルが着替えている間に劇で使うように用意してあったメイク道具と黒髪ストレートロングウィッグを用意した。




 ミチルがマナカの制服を着て現れた。




「きゃー!土方くん、そのままで十分いけてるじゃん。」



 マナカが大騒ぎした。


 マナカに超やる気スイッチが入った。


「私にやらせてー!のばらさん!」


 マナカの最高潮テンションにさすがのばらも一歩退いた。


「いいけど‥‥‥、でもやりすぎないでね。」




「はい、土方くん、ここに座って。このネットを被って地髪を隠して。はい、化粧水、クリーム、はい、もう、肌きれいすぎ!そのままOK!ちょっと下向いてて。違う!目だけ下!アイライン、はいマスカラにちょっとだけアイシャドウ、うわっ!すごい目力になった!リップは艶だしてっと。」



「このウィッグを被せて、ピンで止めてっと!」




「きゃー!いやー。私のTHE最高傑作だぁー!うぇーい!」


 仕上がりを見てマナカが盛り上った。


「見て見て~!」




「マナカ、上手じゃないの!ミチル‥‥‥なんてかわいいのかしら!さすが私の彼氏になっただけのことはあったわね!見直したわ‥‥‥‥。」


 のばらがうっとりミチルのほほを撫でた。


「の、のばらさんに褒めてもらえてうれしいです。」


 ミチルが照れて言った。



 リアスと中村が2人の声につられて寄って来た。



「‥‥‥‥うわっ!マジかよ‥‥‥‥。」


 リアスがびびった。


「ミチルぅ!結婚してください!」


 中村が王子様のようにミチルの前でひざまづいて片手を差し出した。


 ミチルは天使の微笑みで中村の手のひらに右手を乗せて立ち上がった。



 そこには長い黒髪、薔薇色のほほをした、イラストの美少女が抜け出たような可憐な女の子が立っていた。






 ミアは一人、生徒会室の前まで行った。




 ミアはドアをノックした。


「どうぞ。」


 声がした。



「失礼します。」



 ミアは一歩入って部屋を見回した。


「生徒会長の雪村先輩はいらっしゃいますか?」


 ミアが言った。


 神谷神露(かんろ)が来た。


「ああ、雪村はいないよ。用なら伝言しておくよ。」


 真面目そうなきっちりした男子が言った。


「そうですか‥‥‥私錦鯉研究部の真夏多ミアです。会長に直接渡したい物があるのですが。」



「‥‥‥ならここで待っているかい?」


「いいんですか?」


 ミアが神露の顔を見た。


「ああ、いいよ。今は僕しかいないし。ここに座ってて。」


「ありがとうございます。神谷先輩。」


 ミアが言った。


「あれ、僕のこと知ってるの?」


「はい。あの‥‥‥雪村先輩が先ほど来られて、次の金曜日に会長と副会長神谷先輩と書記の時田さんの3人で私たちの文化祭の劇の視察をして開演の可否を決定すると言ったんです。そのことでお話が‥‥‥。」


「ふーん。雪村は今日はまだここには来ていないんだ。でも、そろそろ来るだろうからその時僕にも話すだろう。」


 神露は言った。


「私、そのことで神谷先輩にお話があります。」





 20分ほどしてから煌が生徒会室に来た。


「雪村、錦鯉研究部の子が来ているよ。」


 神露が煌に言った。


「おや、ミアちゃんじゃないか。あの血の気の多い先輩のことで相談にでもきたのかい?」


 煌が言った。


「いえ、錦鯉研究部の演劇の台本を読んで頂きたくて雪村先輩に届けにきたんです。」


「それはわざわざありがとう。ミアちゃん。」


「この物語は私の大切な人の物語なんです。だから、あの‥‥‥のばらさんのことは関係なく劇そのものをジャッジして下さい。お願いします。私‥‥‥雪村先輩が正しいことをすると信じています。」


 ミアが煌の目を見て言った。


「僕が間違った判断をするとでも?僕は校内で行われる演劇中で、公序良俗に反することが行われていないか確認するだけだよ。」


 煌はそれが当たり前だというように答えた。


「それは、具体性に欠ける言い方ですね。判断する人によって反しているかどうか基準が多少ずれるかもしれませんね。これは男女の愛の物語でもありますからそれを表現するためのそれなりの演技が必要なんです。」


「そういうことは前後の流れや演出によって印象がかわるだろうから見てみないと何ともいえないな。それに問題点があれば修正してもらえれば公演は可能だよ。」


「本当ですか?私、開演できないのではと心配していたんです。」


 ミアがほっとして神露をを見た。


「だから言っただろう。雪村が独断で公演中止にするなんてありえないよ。だったら僕と時田さんが見る意味がないじゃないか。」


 神露が言った。


「それに雪村の判断が間違っていると僕が思ったら僕は彼を止めると君に約束しよう。」


 神露がミアに言った。


「僕はいかがわしい劇を公演させることはできないと言っただけだ。公演を中止だなんて一言も言ってはいないよ。それに、のばらにだって、監督ののばらが公序良俗に沿った表現をすれば、僕の判断も変わるということをそっと言っておいたのだが。わかってもらえているのか不安だな。」


 煌の眉間に力が入った。



「私、ここに相談にきてよかったです。さすが生徒会長と副会長ですね。」


 ミアが尊敬のまなざしで二人を見た。


「あの、雪村先輩。のばらさんのことで、個人的に相談があるのですが‥‥‥。」


 ミアが言った。


「のばらのことで?何かのばらから聞いているのか?その‥‥‥具体的な僕との出来事とか。」


「いえ、そういうことは聞いたことはないです。」


「‥‥‥そうか、いいだろう。では僕たちは仕事があるから30分後の5時半にまた来てもらえるかな?」



「はい。わかりました。ありがとうございました。」


 ミアは錦鯉研究部の劇が守られたことにほっとした。

 後はミチルの恋を護ってみせる、とミアは気を引き締め生徒会室を後にした。




 そして前の廊下には雅秋が立っていた。




 生徒会室では煌と神露が話していた。


「おいおい、煌。お前、言葉遊びがうまいからな。また相手の心理によってどうとでも取れることを吹き込んで惑わせたんだろう?」


 神露があきれたように言った。


「ああ、ちょっとのばらにお仕置きしたのさ。どんな風に出てくるか楽しみにしていたんだけど。なんか普通だったな。つまらなかったね。」


 煌が言った。


「あのミアちゃんって子は純でかわいかったな。彼女にしたいタイプだ。」


 神露が言った。


「あんな毒もない子は僕の好みではないな。外見以外は。」


 煌が言った。






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