策謀
「生徒会としては、いかがわしい劇を文化祭で開演させることはできない。」
煌は無表情の中に冷ややかな笑みをわずかに浮かべてのばらを見た。
「どのことを指して言っているのかわりかねますが。さっき、この男がミアちゃんにしたことなら、今、たまたまちょっとふざけただけです。劇中にリアルなキスシーンなどありません。」
のばらは煌に落ち着いて返答することを心がけた。どんな揚げ足をとられるわからない。
「おい、なんだよおま‥‥‥」
雅秋の口出しをのばらは目で制した。
「それにこの物語はこの地元の名家の名士である古文書研究家の私の祖父の膨大なコレクションの中の一つを現代語訳した史実に基づく物語です。」
のばらは慎重に反論した。
「放っておいたら失われてしまう古文書を私の祖父が莫大な時間と私財を投じて収集し大切に保管していたからこそ知ることができる幻の伝説なんです。そんな貴重な物語を今私たちは文化祭にふさわしいとセレクトし、甦らせているんです。それをいかがわしい扱いすることは果たして正しいと言えるのかしら?」
今度はのばらが挑むように煌の目を見た。
「‥‥‥‥そういうのなら。では一度通しで拝見させてもらってから判断することにするよ。僕と副会長の神谷神露、書記時田りりあの3人でジャッジしよう。で、いつ見せてもらえるのかな?」
煌はのばらに近づいた。そしてそっと耳元で言った。
「文化祭においては、僕がアドミニストレーターだ。すべては僕の判断次第で決まる。そして僕の判断は君の判断次第で変わる。わかるね?」
「‥‥‥‥みんなで創っている劇を人質にとるなんて。」
のばらがつぶやいた。
煌の右の口角がわずかに上がった。
「‥‥‥‥では、四日後の金曜日にお見せします。」
のばらは煌に言った。
「承知した。」
煌は冷やかに部員を見回してから生物室を出て行った。
「悪い‥‥‥俺がふざけてたせいで。」
雅秋がのばらに言った。
「‥‥‥‥そうではないの。あんたには関係ない。それはあいつが私を陥れるきっかけを狙っていただけで。気にしないで。」
「陥れるって‥‥‥どういうことなんですか?のばらさん。」
ミチルが不安げに聞いた。
「それは‥‥‥‥。」
のばらは言いあぐねた。
「もしかして僕のせいですか?」
「違うわ。すべて私のせいよ。煌を甘く見ていたの。それにここまで私に執着しているなんて思わなかったし。このままでは金曜日には難癖をつけて不許可にするでしょうね。でも私が煌のもとに戻ればあっという間に解決するのよ。」
のばらが悔しそうに言った。
「のばらさん。僕がのばらさんにそうはさせません。」
ミチルが言った。
「でも、それでは劇はつぶれてしまうのよ。ここまでみんなで作り上げてきたのに。」
「もしそうなっても仕方がないと思います。」
「おばかさんね。みちる。それだけで終わるわけないでしょう?私が煌に戻らない限り次々仕掛けてくるに決まってる。」
「そんな‥‥‥。」
ミチルが手を握りしめた。
「なあ、だったらあいつのこいつへの執着を解き放てばいいだろ。」
雅秋が言った。
「どうやって?のばらさんがわざと嫌われることすればいいのか?」
リアスが聞いた。
「ばーか。他の女をあてがえばいいだろ。そっちに夢中になれば昔のことなんてどうでもよくなるさ。」
雅秋が知ったか風に言った。
「次の金曜日までに?他の女って誰を?まさか‥‥‥‥!」
リアスがミアを見た。
ミアがびっくりして雅秋を見た。
「んなわけねーだろ!ミアをそんなことに使うか!」
「じゃ、誰が?」
マナカに視線が集まった。
「な、何見てんのよ!私じゃ無理だって。生徒会長の気を引くだなんて!」
「そうだぞ!マナカじゃ無理だ。絶対無理だからな!」
中村が言った。
「何かむかつくー!ヒトミのおもいっきりのその全否定。」
マナカが中村の耳を引っ張った。
「いででー!いいからマナカは黙ってろ!!」
中村がいつになくきつくマナカに言った。
「結局誰もいねーじゃん。ダメだったな。その案。」
リアスがしょぼんだ。
「ぼ、僕がやる。」
みんなが一斉にミチルを見た。
「僕が女の子に変装する。」
ミチルが真顔で言った。
「な、何言い出してるのよ?」
のばらが面食らった。
「だって‥‥‥僕がのばらさんを守りたいから。」
ミチルがのばらを切ない目で見た。
「私のためにそんなことしなくていいわよ‥‥‥‥ミチル。シャクだけど、一時的に煌に戻るのが簡単だし。」
「そんなのダメです!僕がやる。」
のばらはミチルが捨て身で自分を守ろうとしていることに戸惑った。
「ミチル!わ、私がやるわ。ミチルのためなら私‥‥‥‥!」
ミアが言い出した。
「だめだ!俺は断じて許さない!」
雅秋がミアの腕をつかんだ。
「でも‥‥‥‥。私ミチルの恋を助けたいの。」
ミアの目に涙がにじんだ。
「ミア、ありがとう。でも僕がやる。僕がのばらさんを守る。だって、僕の彼女だから。僕にやらせて。」
「ミチル‥‥‥。」
ミアはミチルの本気にのばらへの想いの強さを感じて胸の痛みを感じた。
「本気で言ってるの?煌は品行方正の優等生で通っているけど、狡猾な手もつかうのよ。私はあんなに腹黒い男だとは気がつかなかったし。本当に出来ると?
」
のばらがミチルの本気度を確かめた。
「うん。でも変装は手伝って。それにどう振る舞えばいいかわからないんだけど‥‥‥。」
ミチルはおどおど言った。
「おいおい、お前ほんとに出来んの?」
雅秋が言った。
「‥‥‥うまくいくとも思えないけど‥‥‥でも可能性があるなら僕はやる。」
ミチルが言い切った。
「そうか‥‥‥。俺もミチルとこいつがうまくいってくれた方がありがたいしな、今回雪村に言いがかりをつけられるきっかけを作っちまったことには責任を感じているんだ。だから俺も協力する。」
雅秋がミチルに言った。
「俺は生徒会の書記の時田りりあって女子が金曜日の試演で、開演許可を出すように仕向けてやる。」
雅秋が奸計を用いようとしているのは一目瞭然だった。
「雅秋、やめて。」
ミアが眉をひそめた。
「ミア、焼きもちか?俺はただそいつが俺の味方をしたくなるように仕掛けるだけさ。」
「女の子を傷つけるようなことをしないで。」
ミアが嫌な顔をした。
「もちろんさ。ただ俺推しの女子を一人増やすだけさ。座家手伝えよ!」
「えっ?俺っ?」
リアスがすっとんきょうな声を上げた。
「‥‥‥‥‥‥‥だったら、私だってミチルのために‥‥‥。」
ミアは一人何やら決意したようだったが誰も気づいてはいなかった。




