転換期
10月に入った。
文化祭で、ミアとルイマのいる1年1組ではルイマ監督によるショートムービーの上映を企画し、制作中であった。
「ごめんなさい。クラスでの手伝いがほとんどできなくて。」
SHRが終わった放課後、ミアが言った。
「いいのよ。錦鯉研究部は人数が少なくて大変なんでしょう?土方に聞いたわ。この前、私が忙しいのを知らないで錦鯉研究部の手伝いを依頼してきたのよ。」
「ごめんね。私がちゃんとミチルに言っておけばよかったね。キリルは忙しいって。でも、リアスがすごく手伝ってくれてて助かっているのよ。」
ミアが言った。
「‥‥‥リアスって‥‥‥ザッカリーのことよね?」
「うん。」
「‥‥‥‥いつの間にかミアとも仲良くなったみたいね?」
「うーん、そうね。雅秋とも気が合ってるみたいよ。いつも二人で騒いでいるもの。」
「そうなの?それは意外だわ!」
「そう?‥‥‥‥、あ!ミチルが廊下を通ったわ。私行くね。ばいばい。」
ミアはミチルを追いかけて行ってしまった。
「‥‥‥‥『座家くん』から『リアス』か。すごい進展よね。」
残されたルイマは複雑な心境だった。
ルイマはミアの隠れファンでもあった。そして最近はリアスのことを意識しはじめていたが、リアスが中学1年のころからミアが好きなことは知っていた。
「‥‥‥‥ザッカリー、まだがんばってるんだね。もしかしたらもしかしちゃうのかしら?」
ルイマは重くなった心でつぶやいた。
「ミチル!」
ミアの呼ぶ声で、ミチルが振り向いた。
「ミア。」
昨日の帰りのミチルの態度が気になっていたのだが、ミチルがいつもの笑みを浮かべていたので、ミアはほっとしていた。
「一緒に行きましょう。生物室に行くのよね?」
ミアが言った。
「うん‥‥‥‥。」
ミアはミチルの様子が何か違う事に気がついた。なにか機嫌良くウキウキしているようだ。
「ミチル、何か良いことでもあったの?ふわふわしてる。」
「え?僕そんな風に見える?」
ミアに向いた顔はどうみてもにやけてしまうのを抑えている表情だ。
「うふふ、どうやら当たったようね?」
「あはは‥‥‥‥ミア、実は僕‥‥‥‥」
ミチルはミアにのばらとの事をうちあけた。
「‥‥‥‥そうだったの。ミチルがハッピーで私もうれしい。でも‥‥‥ ちょっとさみしいような‥‥‥ううん何でもないわ。」
ミアはミチルにいくぶんかの切なさをかくして笑顔を見せた。
生物室に着くとリアスと中村が座って話をしていた。
「早かったのね。」
ミアが言うとリアスが答えた。
「おう、俺らのクラスは写真の展示だけだから放課後そんなにすることもないしな。」
「一人一枚以上、ちょっと説明書きを入れて写真を用意すればいいだけだからな。後は前日にディスプレイすればいいだけさ。だから当日の当番もないんだぜ。でもその分こっちで大変だけどな。」
中村が言った。
「みんな、こんにちは。」
のばらが入って来た。
「のばらさん!今日もきれいだなぁ‥‥‥。」
中村がうっとりと見た。
「のばらさんっ!」
のばらの声がするなりミアがのばらに駆け寄った。
「どうしたの?ミアちゃんたら。うふふ。そんなに私に会いたかったの?かわいいわね。」
のばらがうれしそうに笑った。
「私、聞きました!ミチルから。ミッ、ミチルのことお願いします。ミチルは小さな時からの私の親友なんです。すごくやさしくていい子なんです。だから私、ミチルが幸せだと私もうれしくて‥‥‥‥」
ミアはミチルがのばらと結婚するかのような勢いで話し始めた。
「ちょ、ちょっとミア!あの、やめて、僕恥ずかしいいよ。」
ミチルが止めに入った。
「ミチルどういうことだよ?まさかっ!」
中村が立ち上がった。
「おおっ!マジか?ミッ君とのばらさんが?」
リアスが驚き、ミチルとのばらを交互に見た。
「あ、あのっ、みんな?」
のばらは出来るだけ秘密にしておこうと思っていたのだが思惑が外れた。
「あれっ?みんなで何してんの?のばらさんに集まって。」
マナカがキョトンとして生物室に入ってきた。
「おい、ミア。お前ら何やってんの?」
雅秋もやって来た。
「甲斐先輩!俺の憧れののばらさんがいつの間にかミチルとできてたんだ!マジかよ!これは、電撃、衝撃、俺には打撃だぜ!」
中村が言った。
「ミッ君、俺より先に彼女が出来たなんて‥‥‥。」
リアスがガックリしている。
「‥‥‥本当なのか?」
事実ならば、雅秋の要注意人物が一気に二人片付く。
「本当よ、雅秋!」
ミアが言った。
「そうだったのか!それは良かったな!俺はマジ応援してっからな。お前ら仲良くやれよ!」
雅秋が心からうれしそうに言った。
「雅秋、ありがとう。やさしいのね。」
ミアが雅秋の言葉に感激した。
その二日後、リアスの多大な貢献のおかげもあり雅秋の絵は完成した。
その翌週の月曜日。この日は雅秋とリアスも加わり稽古が行われていた。
リアスは朗読、雅秋は牧野様、ミアは蓮津姫役パターンでの練習だ。
リアスが台本を持って読み始めた。
『これはぁ、今、正にあなたがいるこの地この場所で生まれた物語。あーそうなんだ、はるかはるか遠い昔から伝わる物語。そう、霊界の使者、黄金の鯉の現れる伝説の井戸は今もこの学校のどこかにひっそり眠っているのでーす‥‥‥。まじんこ?』
「座家くんてイケボね。その点だけはなかなかいいわよ。」
のばらが言った。
第2幕に入りミアと雅秋の演じる蓮津と牧野様シーンに入った。
ミアはずっと蓮津姫と索の物語を演じることに心が落ち着かないでいた。索の元カノを自分が演じることになるとは‥‥‥。
ーーー雅秋はこれが蓮津姫と名波索の物語でもあるということに気づいてはいないみたいだけど。索が姿を消してからもうひと月半、雅秋は索のこと覚えているのかしら?それとも、もう忘れつつあるの?怖くて聞けない‥‥‥。
「ミアちゃん、どうしたの?」
のばらの声で我に返った。
「あ‥‥‥‥ごめんなさい。『牧野様、わたくしを強く抱きしめてくだいませ!』」
ミアが言った。
『蓮津‥‥‥‥‥!』
雅秋とミアが見つめ合った。おもむろに雅秋はミアを抱きしめた。
ミアは台本通りに再び顔を上げて雅秋の目を見つめた。
『愛しております!牧野さま。』
「俺もだ!ミア。」
雅秋はミアに本当にキスしようとした。
ミアはびっくりして横を向いて避けた。
廊下から見学者のきゃーきゃー言う声が響いてきた。
「ちょっと、あんた!いい加減にしなさいよ!」
のばらがおかんむりで雅秋に側に置いてあった作り物のピーナッツを投げつけた。
「いや、今のはふりしただけだから、ふふん。」
そう言って朗読役のリアスをちらりと見た。
「なあ、甲斐先輩は絵を描く報酬でこの役をやるんだろ?だったら俺だって一回くらいやったっておかしくないよな?」
リアスが言い出した。
「残念だが牧野役はもう埋まっているんだ。」
雅秋がそっけなく答えた。
「ザッカリー、なら僕の鯉&神役2回分やってくれないかな?相手役はミアの演じる那津姫なんだけど。僕だと背が小さすぎるからちょっと困っていたんだ。」
ミチルが言った。
「いいのか?マジで?後でやっぱりやーめたっ、とか言わないだろうな?」
リアスがミチルの両肩をつかんで真正面からミチルに確認した。
「うん。僕も助かるんだ。」
ミチルがにこりとした。
「やったね!うぇーい!」
リアスが雅秋を見てニヤニヤした。思わぬ展開に雅秋は顔をしかめた。
生物室の戸がガラリと開いた。
「失礼。生徒会から錦鯉研究部に話がある。文化祭の責任者はいますか?」
生徒会長、雪村煌が現れた。
「私が文化祭の演劇の責任者だけど。」
のばらが煌の前に立った。
「今、報告がきたのだが、ここでは、劇にかこつけて男女でいかがわしい行為がなされているそうじゃないか?それが本当なら生徒会のとして、この劇の公演は許可できない。」
煌はのばらに挑むような視線を送った。




