表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第1章
17/102

思惑交差

 次の日も生物室では雅秋とリアスを含めた7人で11月3日の文化祭に向けて準備を進めていた。




「なんで俺があんたの助手なんだよ?」


 リアスが床に新聞紙を敷きながら言った。


「あんたとは何だ!甲斐先輩と言え!1年のくせに。礼儀を知れ。それに、お前はミアの代わりなんだからな。ちゃんとやれよ。待て‥‥‥‥‥お前、美術選択してるのか?いや、中学の時のでもいい、成績はいくつだ?」


 雅秋が訝しげにリアスを見た。


「ふっ。聞いて驚くな!俺は勉強以外は成績がいいんだ。美術はいつも4だったぜ!」


 リアスが得意気に言った。


「4でいいとか言ってるお前に哀れみなんだが‥‥‥‥‥それならまあいいだろう。」


「なんだよ。あんた4を何だと思ってるんだよ?」


「どうって‥‥‥5じゃなくて残念ってとこだろうな。」


 雅秋がさらっと答えた。


「俺、今ますますあんたが嫌いになった。」


 リアスは右手で額をおさえながら目を閉じた。






「おう、あの二人は意外と仲良く作業してるなぁ。」


 教室の後ろの方で、なにやらおしゃべりしながら作業する雅秋とリアスを見て中村がつぶやいた。


 教壇の上では最終幕である第4幕の練習を始めた。


「ここからは私の創作部分よ。言い伝えにはない部分だけど、最後はハッピーエンドになんとか近づけたわ。じゃあ、ミチルちゃんからよ。はい、スタート!」



『那津姫は胸に入れていた護符に護られ、意識のないまま10年間もの間、黄金の鯉の腹の中で漂っていた。姫は霊魚の霊力を吸収し、成長しながら眠っていたのだ。那津姫は16才になっていた。』


 ミチルが台本を持ち、朗読を始めた。


『ある日、黄金の鯉は川底に住む大サンショウウオと対決した。大サンショウウオは、美しい姿をひけらかし霊界の使いとして川を支配する黄金の鯉をずっと疎ましく思っていたのだ。向かってくる大サンショウウオを鯉は丸飲みにしてやった。しかし、これはサンショウウオの術策であった。大サンショウウオはここぞと鯉の腹の中で大暴れしてやった。これにはさすがの黄金の鯉もたまらない。鯉は腹の中のものを吐き出した。』


「はい、ここでマナカは舞台中央にそっと出て横たわるのよ。」


 のばらが指示した。


 ミチルが続きを読んだ。


『吐き出された大サンショウウオは格上の黄金の鯉に一矢報いたことに溜飲(りゅういん)を下げ、さっさと去っていった。』


 一呼吸おきミチルは続けた。


『黄金の鯉はその時、大サンショウウオとともに眠っていた那津姫も吐き出していた。そして黄金の鯉は水に漂う那津姫を見つけた。

 鯉は人の姿に変化(へんげ)すると、見つけたその人間の娘を河原に寝かせた。目覚めた人間は透き通るような肌の美しい娘だった。』



「はい、ここでヒトミ、出てちょうだい。片ひざ立ちでマナカを抱え上げて。」


 のばらの指示が入った。



 中村が上手(かみて)から出て横たわるマナカの背中を抱上げて左足と左腕で支えた。


「お前はいったいどこから来たのだ?なんて美しい‥‥‥‥名はなんと申す?」


 中村が言った。



「わらわは‥‥‥‥那津じゃ。他のことは‥‥‥よくわかりませぬ‥‥‥。」


 マナカが答えた。



『そして、二人はお互いにひと目で恋に落ちた。』


 ミチルの一言が入った。



「マナカとヒトミはここで立ち上がって手を握りあって見つめ合って。」


 のばらが言った。



「ええっ!なんで私がヒトミとラブシーンを?」


 マナカがのばらに訴えた。


「しょうがないだろ?台本通りじゃん。ほら、手ぇ出せ。」


 中村がマナカになんでもないことのように言った。


「なんなのよー!もうっ‥‥‥‥しょうがないなぁ。」


 マナカがしぶしぶ祈るような格好で中村に向いた。マナカの合わせた両手のひらを中村が両手で包み込んだ。


 マナカが手から中村の顔に視線を移すと中村が真剣な瞳でマナカを見つめていた。


 ーーーあれ?男の子の手って大きくて力強いんだね‥‥‥‥うわっ、ガン見!ヒトミ、マジ役なりきってる?‥‥‥‥いつも笑ってふざけているヒトミと違う顔‥‥‥‥。


 マナカは中村の違う一面を見たようでどぎまぎした。



「はい、ここで5秒後、ミチルの朗読がはいります。二人は急いで下手(しもて)にはけてね。ヒトミは早替えよ!ここで下手スタッフと、はけたマナカはひとみを神に着替えさせるのよ。15秒でできるかしら。ここは練習が必要ね。次回は衣装をつけて時間内に出来るようにしましょう。」




『鯉の腹の中で霊力を得た那津姫は霊界で黄金の鯉の妻となった。二人は仲むつまじく霊界で末永く暮らした。』


 ミチルがそつなく朗読した。



「ここで暗転します。この隙に神のヒトミはセンターに、私とミアちゃんはヒトミの前にひざまずくわよ。ここから蓮津姫と牧野様のエンディングシーンにはいるわ。ライトがついたらすぐヒトミのセリフよ。」



 そういいながらのばらも演技に入った。



「あわれな恋人たちよ。我はお前たちに特別に情けをかけようぞ。お前たちは転生する前にこれを食すがよい。」


 神役の中村は手のひらより大きい一粒のピーナッツの作り物を見せながら言った。


「この一粒を半分に割り、それぞれ食せばおまえたちは転生しても必ずまためぐり会うことができるだろう。」



「いえ、神よ。わたくしたちにそのようなものは必要ありません。」


 中村の前にひざまずくミアが言った。


「ああ、そうだね、私と蓮津はそのようなものはなくとも来世では必ずまためぐりあい引かれ合う。それは他の誰かのためにお使いください。」


 のばらが片膝立ちのままミアの手を取り微笑みをかわした。


「牧野様‥‥‥。」


「蓮津‥‥‥‥またあおうぞ!」




『これは、この地に伝わるいにしえの物語。さあ、この伝説に思いを馳せて見てください。あなたのすぐそばに蓮津姫と牧野様がいるかもしれません。いえ、‥‥‥‥もしかしたらあなた自身が。思い当たることありませんか?』


 ミチルが台本を閉じた。



「はぁ、これで通しで終わったわね。みんなだいたいの流れはつかめたかしら。役を交換してまた通してやらないとね。あと、ヒトミは早替えの練習があるから浴衣をもってきておいてね。神の衣装は、去年の寄付の衣装からそれっぽいのを借りてあるから大丈夫。」


「わかりました、のばらさん。俺、今すっげーやる気だからな。鯉&神。マナカがんばろうなっ!帰りの時間までもう一回あっちで二人で練習しようぜ!」


「ええっ!ちょっと‥‥‥!」


 中村はマナカの腕を引っ張って隅に連れて行った。






「のばらさん、僕はどうでしたか?」


 ミチルが台本を胸に抱え、子犬のようなかわいらしさでのばらの前にとことこきた。


「ミチルちゃんは、よかったわよ。滑舌もいいし。一度客席から確認しないとわからないけど。」


 のばらはそう言ってにこっとした。



「あの‥‥‥今日の帰りでいいので相談があるのですが‥‥‥。」


 ミチルがのばらにおずおずと言った。


「‥‥‥‥ええ、私も話したいことがあるの。」


 のばらは煌にあてつけるために純真なミチルを利用したことを後悔していた。


「あの‥‥‥昨日のあのことは忘れていいのよっていうか忘れてちょうだい。だからミチルちゃんには何の責任もないから。」


 教室には他の人もいるのでのばらは小声で言った。


「‥‥‥‥の、のばらさんにとってはどうでもいい出来事だったんですね‥‥‥‥。」


 ミチルが下を向いて泣きそうな声で言った。


「い、いえ!そうではなくて‥‥‥。ミチルちゃん、ここではお話できないから一緒にかえりましょう。その時に。」


 のばらが慌てて言うとミチルは顔を上げた。ミチルが傷付いたのは一目瞭然だった。


「‥‥‥はい。わかりました。」


 ミチルはのろのろとのばらから離れて行った。


 ーーーああ、私は煌にあてつけるためにミチルちゃんを利用して、またもや不用意な言葉でミチルちゃんを傷つけてしまうだなんて。こんなつもりではなかったの。これでは私は本当に噂通りの『毒虫のばら』だわ‥‥‥‥。


 ミチルちゃんは責任をとって私とつきあうなんて言い出したけど‥‥‥‥。

 これって、責任をとらなければならないのはミチルちゃんではなくて私のようね‥‥‥‥。






「わー、すごいわ。ずいぶん進んだのね。雅秋、リアス。」


 ミアが雅秋の絵を見て歓声をあげた。


「ああ、こいつなかなか手際もいいし、センスもいいぜ。ミア、この分なら今週中には終わりそうだな。」


 雅秋があごでリアスを指して言った。


「甲斐先輩に褒められても全くうれしくないけどな。」


 リアスはミアにそういいながらもずいぶんと機嫌良さげだった。


「リアスはスポーツも得意で美術も得意なんてすごくかっこいいじゃない?」


 ミアがリアスに微笑んだ。


「今知ったのかよ?ミア。」


 リアスはちっと舌打ちしてからにかっと笑った。


「もう、ミアはあっち行ってろ!」


 雅秋がミアに言った。


 雅秋が焼きもちをやいているのがわかって、リアスはさらに機嫌良く作業を進めた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ