スタートライン
「一体どういうことなの!」
のばらが叫んだ。
「何であんたがここにいるのよ?」
不機嫌をあらわにのばらが雅秋を指さして言った。
ミアが雅秋に黄金の鯉の大きな絵の制作を頼んだ次の日の放課後のことだった。
生物室では雅秋とのばらによるバトルが始まっていた。
「おいおい、お前、人を指指しちゃいけないって子どもの時に習わなかったのか?」
ふふんと鼻で笑い軽蔑の視線をのばらに送りながら雅秋が言った。
「俺はボランティアでお前らに協力して絵を描いてやるんだぜ?解ってんのか?はぁ?」
のばらは一人ぶつぶつと後を向いてごちた。
「‥‥‥‥こんなことになるなんて‥‥‥昨日早く帰るんじゃなかった!こんなヤツに側で見張られてたらミアちゃんとの至福のひとときが台無しだわ!ちっ。」
雅秋とのばらが火花を散らす片隅で、小さくなりながら中村とマナカはこそこそ話をしていた。
「‥‥‥どうなっていくのかしらね‥‥‥この先。」
「この世は諸行無常だ。なるようになっていくさ‥‥‥。」
「でもさ、なんで、この人たちはこんなに敵対してるの?何があったのかな?」
「さあな。明日うちのクラスの砂区に聞いとく。あいつなんでも知ってっから。あー、でもガセも多いからやめとくか。」
がらっと生物室の戸が開いた。
「遅くなってごめんなさい、今日はクラスの日直で。」
ミアが入ってきた。
「よお!ミア、待ってたぜ。」
雅秋が座った椅子を後ろ側に斜めにゆらゆらさせながら右手を上げた。
「雅秋!もう来てくれていたの?」
いきなり生物室に来ていた雅秋に驚いて言った。
「ミアの頼みなんだから当たり前だろ?」
雅秋が言った。
「じゃ、必要な材料を書き出しておいてもらえるかしら。買いに行かなければいけないし。」
「わかった。でも絵の大きさによるからな。説明を聞いてからだ。」
「そうね。のばらさんが脚本を書いてくれているのよ。」
ミアがのばらを見た。
「ミアちゃん、この人にはさっさと絵を仕上げて退場してもらうから。それで、私、脚本は夕べ頑張って仕上げたからみんなで回し読みしてほしいの。大体よかったらコピーして台本にして練習しながら手直ししていきましょう。」
ミアとマナカと中村を見て言った。
「あんたも、一応よんでね。それで、イメージを固めてさっさと描いてしまってちょうだい。」
雅秋に冷たい声で言った。
「ミチルちゃんはどうしたの?今日はお休みなのかしら。」
のばらがミアに聞いた。
「ミチルは文化祭で手伝いをしてくれる人を探しています。部活に入っていない人に声をかけてみるそうです。早くしないと、他で予定を入れられてしまうかもしれないので。だから遅れてきます。」
「そうなの。見つかるといいわね。では、先に読んでみて。」
のばらは脚本を回し読みした面々を見まわした。
「あの、どうかしら?急いで書いたから不備もあるかもしれないけど。感想を教えてくれない?」
のばらがほほを少し紅潮させ、期待して感想を求めた。
「いいと思います。たぶん。」
マナカが言った。
「俺もいいと思います。だいたい。」
中村も言った。
「私もいいと思います。おそらく。」
ミアも言った。
「俺はどうでもいいぜ。ほとんど。」
雅秋が言った。
「‥‥‥‥なんかふがいない感想しかないわね。‥‥‥‥もしかしてこの人たち全員理系なの?もう少し言いようがないのかしら。まあいいわ。ではとりあえずこれでいきましょう。ミチルちゃんがいないけど‥‥‥事後承諾をもらいましょう。」
のばらが決定した。
「じゃあ、これを、そうね、予備も含めて10部作っておきましょうか。」
「俺たちいこうぜ、マナカ。コピー室。」
中村がマナカを誘った。
「うん、いいよ‥‥‥‥あの紙が一枚ずつ排出されるのを見てると萌えるよねぇ。もう目がはなせないよ。洗濯機の渦とかも見とれるよねぇ‥‥‥‥。」
マナカがうっとりとして言った。
「‥‥‥‥‥そんな萌え初めて聞いた。さすがマナカだな。じゃ萌えさせてやるよ。行くぞ。」
中村はさっさと生物室を出た。
「では、いってきまーす!わーい!待ってよぉー、ヒトミー!」
マナカはあわてて中村の後を追っていった。
入れ替わるようにミチルが遅れてやって来た。
「すみません。遅くなって。あっ!」
ミチルは雅秋がもう来ているとは思わなかったので驚いた。
「あ、あの、甲斐先輩、錦鯉研究部のためにありがとうございます。僕たち、できるだけ協力しますので、よろしくお願いします。」
ミチルは礼儀正しく挨拶した。
「おう、よろしくな!‥‥‥誰かさんと違って礼儀がなってんな。」
雅秋がちらっとのばらを見た。
のばらが雅秋を無視して言った。
「ミチルちゃん、お手伝いしてくれそうな人はいたの?」
「はい、僕の友達の、座家リアスくんが手伝ってくれるそうです。」
「そうなの?よかったわ。じゃあ、通し稽古まで進んだら来て貰って動線を作っていきましょう。」
「おい、ミチル!座家って、もしかしてあの日に焼けたひょろ長い奴か?」
雅秋がうんざりしたようにミチルに聞いた。
「あ、たぶんそうですけど‥‥‥。」
そう言いながら不安げにミアを見た。
「ありがとう、ミチル。助かるわ。」
ミアが微笑んだので、ミチルはほっとした。
中村とマナカが戻る前にミチルとのばら、ミアで雅秋にどんな絵を描いてもらうか相談して決めた。
二人が戻って来て、コピーした紙をみんなで製本して台本が出来上がった。
「さあ、やっと始まるわね。みんなで制作の過程を楽しんで作っていきましょうね」
のばらが自分の台本を抱きしめながらみんなに言った。




