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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第3章
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城跡

 リアスの長い朗読から始まった。


 那津姫とキザシと呼ばれていた自分に似ている男子のいきなりの出現と退場のことでリアスの頭はいっぱいだったが、とにかく、台本を読まなくてはならない。


 ミチルから借りた注意書があちこちに色文字で書き込まれている台本の文字をただただ追って音読した。



 その後の那津と鯉の化身が恋に落ちるシーンはマナカと中村がリアルに演じ、冷やかしの歓声ともに下手(しもて)へ消えて行った。



 上手(かみて)からミアが、下手(しもて)から雅秋が出た。



「俺は殺されてから、成仏出来ずにいた。そのせいで蓮津を再び抱きしめることができるとは‥‥‥‥‥」


 雅秋は先ほどの取り乱した態度から180度変わっている。

 余裕をにじませ落ち着いて優しげな笑みを浮かべてミアを見ながらミアの手を取った。


「お会いしとうございました。わたくしは牧野様を亡くしたとて、想わぬ日は1日とてありませんでしたわ。さあ、今こそ神の審判の時。共に成仏の道へと進みましょうぞ。」


 ミアも雅秋をほんのり柔らかい笑みで見つめ返している。


 ーーーよく考えたら、さっき楽屋で雅秋と話したあれって‥‥‥まるでプロポーズよね?

 横を向いて赤くなってたけど‥‥‥‥‥でも、まさか高校生だもの、そこまで考えてはいないわよね。それくらい私のことを真剣に想ってくれているってことなのね。ありがとう、雅秋。私もそれに応えるわ‥‥‥‥現世にいる間は‥‥‥‥‥。



 神に変身した中村が出てきて愛の落花生を二人に授けようとした。



「いえ、神よ。わたくしたちにそのようなものは必要ありません。」


 ひざまずいたミアが中村を見て言った。



「ああ、そうだ。俺と蓮津はそのようなものはなくとも来世では必ずやまた巡りあい引かれ合う。神よ、その貴重な落花生は他の誰かのためにお役立てください。」


 再びミアと雅秋は手を取り合い微笑みを交わした。



 ーーーミア、俺ここで誓う!ミアだけを一生愛するって。


 俺、十二分にわかってるんだ。もし、俺がちょっとでもよそ見すれば‥‥‥ミアは座家に獲られる。座家じゃなくても虎視眈々と狙ってるやつらがいる。

 それに‥‥‥‥ミアは‥‥‥無自覚だが気が多い。周りに影響されやすい。気持ちもすぐ揺らぐ。だが、優しいミアは受けた愛情をまた愛情で返そうとする。


 だったら俺は‥‥‥‥‥誰よりもミアを愛し続ければいいだけだ。


 強引に強気でおせば俺のものにってわけじゃなかった。




「牧野様‥‥‥わたくし、生まれ変わっても‥‥‥きっとあなたをお慕いするのですわ。」


「蓮津‥‥‥‥私もだ。」



 雅秋と手を取り合いながら柔らかな微笑みを浮かべるミアと、単純なミア攻略法に気づいた雅秋の間に入り込むのは至難の技になりそうだ。







 生徒たちは祭りの後の少し名残惜しい気持を感じながら片付けを始めていた。




 理科準備室の前の飾りつけの看板やポスターを剥がしながらリアスがちらりとミアを見て言った。


「あのさ、あの錦鯉研究部の元部長だっけ?あの人飛び入りで来た時、甲斐先輩舞台上でミアに怒って泣いてたじゃん。あれ、リアル?甲斐先輩も元部長とミアの芝居って知らなかったんだよな?」



「‥‥‥‥あれは‥‥‥‥ううん、雅秋も知っていたのよ。あれは雅秋もお芝居していたのよ。」



 リアスに嘘をつくのは心苦しかったがそれ以上にミアは雅秋のプライドを傷つけたくはなかった。



「‥‥‥‥‥ふーん。」



 観客はミアを挟んだ若侍と雅秋の応酬はショーの一部と見なしていたが、部員たちから見れば雅秋の叫びがガチリアルなのは明らかだった。


 あれは本当の雅秋の心からの叫びだとはわかっていたが、リアスはあの雅秋が恥も外聞も投げ捨ててミアに感情をぶつけたことをミア自身がどう思っているのか知りたかった。



「なんだ、甲斐先輩も芝居してたんだ?すっげ熱演だったな、あれ‥‥‥‥‥俺、ちょっと感動したけどな。あのカッコつけの甲斐先輩が人前でミアに泣き叫ぶなんてな。」


 ミアが隠したのでリアスは話を合わせてそういう設定で返した。



「うん、私も感動したわ。私のことをそこまで想っていてくれてたなんて‥‥‥‥‥あっ、それは役柄上のことよ。あれはお芝居だったんだから。」


 ミアが壁に貼ってあった蓮津姫のちびキャラを剥がしながらほほを染めた。


 たぶん、あの甲斐先輩の熱い叫びが、ぐさっとミアの胸にささったんだろう‥‥‥‥とリアスは思った。


 ーーー俺、完全甲斐先輩に負けたかもな‥‥‥‥‥


でも、俺は待ってる。二人が別れるまで。人の心はいつか変わるんだ。俺は‥‥‥‥変わらないぜ!たぶん‥‥‥






「リアス、それにしてあのポニーテールのお兄さん、リアスに似ていると思ったら‥‥‥いとこだったのね?」


 ラストパフォーマンスが終わった後、リアスはのばらに『うわっ!あれ、那津姫様だー!』と叫んだことについて問い詰められて、皆の前で適当な言い訳をしたのだった。


「ああ、まあな‥‥‥‥‥」




 夏休み前のことだった。


 リアスはルイマからルイマが偶然撮ってしまった那津姫様の心霊写真を見せられた。怖くなったルイマに頼られて一緒に島田に相談に行った。その時、この学校に出没する幽霊の那津姫の存在を島田から聞き、知ることとなったがそれはキリルと島田、自分だけの他言無用の秘密だと念をおされていた。


「あれは‥‥‥‥実は俺のいとこの兄ちゃんと年の離れた妹なんだ。あいつ、その、コスプレが好きな兄ちゃんでさー、隙あらばああやってコスプレして出動しちまうんだよなー、あはははっ!妹まで使って那津姫様にコスプレさせてさ、困った兄ちゃんだよなぁ。」


 リアスは耳の後ろをかりかり掻きながらミアから目線をそらし空々しく答えた。


 ミアは、索から蓮津姫のことは聞いていたので、現れた蓮津姫は本物に違いないと確信していた。

 ミチルは親の知り合いだと言って隠していたが、本当は密かに七不思議の蓮津姫とつながりがあったのだ。


 だとしたら、リアスも密かに那津姫様を知っていてもおかしくはない。

 ミアだって七不思議の幻の生徒の索と知り合って恋に落ちたのだから。



 ーーーミチルとリアスも七不思議と関わっていたなんて‥‥‥‥‥



 私だけではなかったのね。不思議との(ひそ)やかな係わりを持っていたのは。




 リアスを見ればこれでは嘘がバレバレ‥‥‥というごまかしぶりの顔と態度のだったが、ミアはそれ以上聞くことはしなかった。


「そういうことでいいんじゃない?リアス。ここはお城の跡地なんだもの。不思議なことが起きてもおかしくはないの。」


 「えっ?な、何のこと?」


 リアスはルイマと島田との約束を守り空とぼけた。


 ミアは訳知り顔でうふふと笑った。





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