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錦鯉研究部  作者: 黒りんご
第1章
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新入部員

In my mind 美少女周囲ではあれこれ勝手に起きてしまうものよ の夏休み明けからのストーリー。


ミアに失恋したミチルはその後‥‥‥?

 夏休みが明け、始業式とHRの半日の日課が終わり、ミチルは1ヶ月ちょっとぶりに錦鯉研究部が部室がわりにしている生物室に向かった。

 旧校舎の一階にある中庭に窓が面している教室だ。



 ミチルの心の中はグレーに塗りつぶされていた。今見ている景色さえ一変して見える。色を失い、ふわふわして自分が自分でなくなったような体験したことのない気分で歩いていた。



 ミチルは今日、自分は失恋していたことを知った。



 ミチルが密かに恋をしていた同じ高校の幼なじみのミア。

 ミチルが夏休み中、家族と長期旅行に行っている間に彼女には彼氏が出来ていた。


 ミチルは今日までその彼氏となった男子は知らない人だったが、この学校内ではかなりの有名人らしい。その男子は3年生で、女子から圧倒的な人気のある生徒だという。イケメンで派手な雰囲気を持つこの甲斐雅秋(がしゅう)という男子は成績も優秀で美術部の部長も務めていた。


 しかし、彼のプライベート部分ではいい噂はないらしい。


 かわいい女の子を口説き落とし、1、2ヶ月ですぐに飽きてしまい次々に彼女を変えているそうだ。



 よりにもよってなんでミアはそんな男子と‥‥‥‥‥‥。



 ミチルは生物室の鍵を開けた。


 久しぶりだな‥‥‥‥。この臭い‥‥‥‥。ここは夏休み前のそのまま‥‥‥。僕と同じだね‥‥‥‥。

 でもミアは変わった。僕がいない間に‥‥‥‥。



 ミチルは窓辺に行き中庭を眺めた。



 あの生徒たちの間に拡散された、ミアと甲斐雅秋ってやつのキス動画っていうのは本物なのかな?もしそうだったらミアはあそこで‥‥‥‥‥。



 ミチルはポケットの上からスマホを触った。



 ミアに真偽を直接聞くことなんてできない。いくら僕だって‥‥‥‥。

 それに、あの動画は本当だって言われたら僕は‥‥‥‥。


 夏休み前のあの日に帰りたいよ。そしたら僕は何を言われても一人で家に残ってあんなに長い家族旅行なんて絶対行かないのに。



 ミチルは一人、まだ真夏同様にきつい日差しの照りつける外の景色をぼんやりと見ていた。




「やっほー!ミチル、元気だったか?」


 突然引戸がガラッと開けられ、中村一深(ひとみ)が現れた。


「うわっ!びっくりした。」


 ミチルは テンションの高い中村の大声に物思いから呼び戻された。中村はハムスターを愛する同じ1年生の男子だ。ミチルは2組で中村は8組だった。


「よお!会いたかったぜぃ、ミチル!」


 いきなりミチルに肩をくんできた。


「久しぶり、ヒトミ。相変わらずだなぁ。」


 中村の屈託のない笑顔でミチルの気分は一時救われた。



 直後、開いたままの扉から池中真中(まなか)が入ってきた。久しぶりに会ったマナカは、ストレートの髪を後ろでひとつ結びにしていた髪型からウェーブのついたツインテールに変わっていた。


「いぇーい!少年たちよ!ひっさしぶりぃ!」


 しかし、中身はそのままだ。相変わらずの元気溌剌モードで登場した。


「よお、マナカ!なんか雰囲気違ってんじゃん?」


 中村が一番に口にした。


「どうよ?ひと夏で女の子は変わるのよ。ふふん。」


 マナカはすました顔をしてみせた。


「池中さん、久しぶり。その髪にあってるね。かわいいよ。でもなんか違う人になったみたい。」


 ミチルがしげしげ見ながら言った。


「イメチェンしたのよ。今まで地味すぎたもん。‥‥‥‥で、あんたたち、このくそ暑いのになに引っ付いてるの?」


 中村はミチルの肩に腕を回していたままだった。


「ふっふっふ!実は俺たち‥‥‥‥‥。」


 中村はマナカにニヤニヤして見せた。


「マジ!?そうだったの!‥‥‥‥でもわかった。私はやさしく見守ってるから。」


 マナカは大袈裟に一歩下がって驚いた顔をしたがすぐに普通に戻った。


「池中さん‥‥‥‥わからなくても見守らなくていいから。」


 ミチルが中村の腕をほどき、わずかにひきつった天使のような微笑みを浮かべながら言った。


「ねえ、土方くん、今日ミアさんは来ないの?」


 マナカがミチルに聞いた。


「あ‥‥‥‥ミアは今日は来ないよ。」


 ミチルの顔があきらかに曇った。


「なあんだ。残念!ミアさんに私のイメチェンの感想を聞きたかったのにぃ。」


「お、おい。マナカ!ちょっと中庭のビオトープ見にいこうぜ。ほら、早く!」


 中村が急にマナカの腕を引っ張って外に誘った。


「えっ?なあに、急に‥‥‥‥。でもまあ、ヒトミ、それはいい心がけだね!」


 マナカは一瞬戸惑ったものの、ビオトープをひたすら愛している彼女は機嫌よくヒトミと出ていった。


 ここは錦鯉研究会という名称ではあるものの、ただの鯉の餌やり当番と化した実態は帰宅部に近いものであった。

 そのため、顧問の地衣(ちい)先生もほとんど来ることはなかった。


 しかし、その中でマナカだけは中庭の一角に作ったビオトープの研究観察を目的としていてそれなりに活動していた。




 廊下から中村がマナカをたしなめる声が小さく聞こえてきた。


「しばらくここで真夏多さんの話はするなっ!いいな?」


「なんでよ?」


「いいから!それより、こんなところにイケメンがっ!」


「えっ、どこにっ?どこよっ。」


「ここに‥‥‥。」


「なんで自分を指さしてんの?ヒトミ‥‥‥‥ブリザード来たー。」





 ミチルと共通の座家(ざか)リアスという友人を持つ中村はミチルがミアに失恋したことを知っていたようだ。



 中村とマナカが出ていって前の廊下から遠ざかると生物室が急にしーんとなった。


 ミチルはまたミアのことを考えだしてしまった。


「だめだ!僕は名波先輩が抜けたから変更届を書かなければいけないのに。」


 ミチルは自分のほほを両手でパシッと打った。


 部として認められるのは5人からだ。なのに錦鯉研究部は、3年の名波が去り、1年生のミチルと中村とマナカとミアの4人になってしまった。そのため最近中村が入って5人となり『部』に昇格したものの、また『会』になってしまうのだ。


「まあ、しかたないのかな。僕たちほとんど生き物係しているだけだし。僕も部長として何か他の活動も考えないとな‥‥‥。」



 ミチルがひとりごちているとノックとともにすらっとした華やか雰囲気の女子生徒が入ってきた。



「ねぇ そこのあなた、ここは錦鯉研究部なのかしら?」


「えっ?そうですけど‥‥‥。僕は1年で部長の土方ミチルです。」


「君が部長なの?そう‥‥‥‥」


 女子生徒はしげしげとミチルを見て言った。


「‥‥‥‥あなた、すごくいいわよ。」


「えっ?」


「ここはミアちゃんが入っているのよね?」


「ミアちゃんて、真家多ミアさんのことですか?それならそうですけど‥‥‥。」


「今日はいないのね。」


 教室内を見回して言った、


「はい、ここは鯉の世話の当番以外は来ても来なくても自由なんです。」


「そうなの‥‥‥‥。じゃ、私とりあえず仮入部するわ。」


 彼女はすんなりと言った。


「ほ、本当ですか!見学もしてないのにいいんですか?」


 ミチルは突然の入部希望者に希望を見いだしたが後で失望することを恐れてここであまり喜んではいけないと自重した。


「いいわよ。ミアちゃんがいるんでしょう?それにあなた、とってもかわいいのね。ミチルちゃん。」


「ミ、ミチルちゃんて‥‥‥‥。」


 ミチルはほほが赤らんだ。


「うふふっ。赤くなってかわいいのね。私は2年の牧野のばらよ。」


「牧野先輩‥‥‥じゃあとりあえず書類を渡しておきますので、よく考えてから持ってきてください。」


「牧野先輩なんていわないで。のばらって呼んでくださらない?ミアちゃんもそう呼んでくれるのよ。」


「あ、はい‥‥‥‥じゃあ、のばらさんこれを‥‥‥。」


 ミチルは仮入部届けを渡した。


「ありがとう、ミチルちゃん。じゃ、また明日ね。」


 優雅な微笑みを残してのばらは帰って行った。





 中村とマナカが生物室に戻って来るとミチルは入部希望者がきたことを早速話した。


「それってどんな人なの?」


 マナカが興味津々でミチルの顔を見た。


「2年の牧野のばらさんっていう、うーん‥‥‥なんかきれいで大人っぽい感じがしたなぁ‥‥‥。」


 ミチルはのばらの去り際の優雅な笑顔を思い浮かべて言った。


「ほんとかぁー!なんで俺がいない時にくるんだよぉ。俺も会いたかったなぁ。そのお姉さまに、くーっ!」


 中村が悔しげに手を握った。


「明日また来るかもしれないよ。用紙を提出するために。」


「よっしゃ!俺は明日も来るからな!別にすることないけどさ。」


「ヒトミ、することはあるんだよ。僕たちは文化祭の準備も始めないといけないからね。本当は夏休み中から計画をたてられればよかったんだけど。」


 ミチルが言った。



 引退した名波先輩によると、毎年文化祭の時、錦鯉研究会ではこの生物室で鯉の写真を展示していたという。しかし、全く人気はなく、ここだけは人気(ひとけ)もなく来るのはいちゃつきたいカップルだけだったという。



「今年は何かもっと楽しめるものを考えようと思って。今月7日までに生徒会に計画書を提出しなければならないんだ。何かいいアイデアはないかなぁー?」


 ミチルが中村とマナカに言った。


「そうねー、ここは錦鯉研究部という名称だけで特に鯉の研究なんてしていないもんね。鯉のことなんて詳しく知らないよね。なんでこんな変な名称がついているのか不思議だね。」


 マナカは前々から疑問に思っていた。


「そうだね、地衣(ちい)先生によると昔はただの生物部って名前だったらしいんだけど、いつの間にか錦鯉研究部になっていたんだって。誰かが勝手に変えちゃったみたい。」


 ミチルは以前耳にしていたことを話した。


「じゃあさ、別に鯉に関する展示じゃなくて良くね?」


 中村がミチルとマナカを交互に見て言った。


「そうだね、僕もそう思うけど、それで生徒会で通るかどうかだね。一応ここは錦鯉研究部だから。」


「私いいこと思いついた!鯉のゆるキャラをつくろうよ。でさ、それのグッズを売ったら部費になるじゃん。いぇーい!」


 マナカが右手でブイサインを作ってほっぺにつけた。


「ゆるキャラかぁ‥‥‥デザインは誰が考えるんだよ?」


 中村がマナカを見た。


「それじゃ、明日までに各自考えて来ることにしよう。ミアにも連絡しておくよ。これは部員全員でやらないといけないことだしね。」


 ミチルが言った。


「ねぇ、錦鯉研究部のライングループつくろうよ。連絡すること増えそうだしさ。」


 マナカが言った。


「おう、賛成。んじゃ、今日はこれで解散だな。」


 中村が立ち上がった。


「うん、じゃ、ヒトミとマナカのデザイン楽しみにしてるよ。」




 ミチルは中村やマナカとひとときを過ごしたことで気分がだいぶ救われていた。





 ミチルは家に着くと自分はすごくお腹がすいていることに気がついた。


 今日はお昼を食べていなかった。ミチルはミアのことがショックで食事のことなどすっかり忘れていた。



 もうすぐ4時近くになる。


 キッチンに立っていた母に自分の夕食を早めてくれるよう頼んだ後、シャワーを浴びた。


 ぬるめのシャワーで汗を流しつつ、ミチルはやはりミアの事を考え始めた。


 ‥‥‥ミアに錦鯉研究部のゆるキャラのこと連絡しないとな‥‥‥。

 それに、明日は全員で文化祭のこと話し合わないといけないから、ミアにも来てもらう必要がある‥‥‥‥。

 顔を見るのはつらいかな‥‥‥、僕。


 ああ、でもそうだよ、あの甲斐雅秋という男子は彼女を1、2ヶ月で変えるって噂だったから‥‥‥ミアもほんの数ヶ月で別れるってことだよね?


 と、いうことは‥‥‥‥!


 少し希望を見いだしたミチルは、多少元気も出てきた。



 自分の部屋に戻るとミアに連絡するためにスマホを手に取った。


 ルイマからメッセージが届いている。


『ミアに対する嫌がらせの写真がまた拡散された。でもそれは誰と誰だかわかんないようなものだしきっと事実とは違うのよ。たぶん甲斐雅秋推しの子の仕業だわ。許せない!』



 ミア‥‥‥‥こんなことされてまでこのままアイツとつきあうつもりなの?



 ミチルはミアが貶められるのは雅秋のせいだと思った。




 ミアにメッセージを送信した。


 錦鯉研究部の連絡事項とともに励ましを一言添えようと思ったが、言うべき言葉が思いつかずやめた。

 ミチルにはミアと雅秋の別れを願う言葉しか浮かんではこなかったから。



 ミアからは『了解』の一言が返信されてきた。





 翌日の放課後の生物室では久々にメンバー4人が揃った。


 片隅のテーブルに4人で座って話し合いを始めた。ミチルの横に中村が座りその前にはミア、ミチルの前にはマナカが座っている。


「きゃっはー!今日は久々にみんな揃ったね!ミアさん来てくれてうれしー!」


 マナカが座ったまま横からミアに抱きついた。


「餌当番以外来なくてごめんなさい。私、人数が足りないってミチルがいうから入っただけで何の研究テーマもなくって‥‥‥。でも文化祭についてはちゃんとやるから。」


 ミアは抱きついたままのマナカに言った。


「いいのよ!ヒトミだっておしゃべりしてるだけだし、土方くんだってただの事務員兼管理人なんだから。ねー?」


 マナカが中村とミチルを見た。


「ひっでーなぁ。俺マナカの手伝いしてんじゃん。マナカのビオトープのメダカが、やごに喰われてたってもう助けてやんねぇからなー!」


 中村がむくれた。


「ひっどー!ミアさん聞いた?土方くん何とか言ってよ、このやご派の男に!私たちはメダカ派だからねっ!」


「あ、あの‥‥‥そろそろ文化祭の話を‥‥‥‥。」


 ミチルはマナカに言った。マナカの回転は早かった。


「きゃー、私キャラ考えてきたよっ!ほら見てっ!」


 マナカが一枚の絵を出した。



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」



「どうしたの?みんな。これ超キュートじゃない?」


「マナカ‥‥‥‥内臓見えてたらグロいだろ‥‥‥。これ解剖してる途中か?」




「え‥‥‥えっと、じゃあヒトミのは‥‥‥?」


 ミチルがさりげなく先に進んだ。


「俺のはな、マナカのとは違ってかわいいぞ!ほらっ。」



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」



「何で黙るんだよ?みんな。」


「何?これ。まるでたい焼きじゃん。鯉焼いちゃったらだめじゃん?飼ってるのに。」


 マナカが眉をひそめて中村を見た。




「あっと‥‥‥‥‥、次はミアが出して。」


 ミチルは嫌な予感しかしなかったが次を促した。


「私のはこれよ。夕べ一生懸命考えたの。どう?」



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」



「ミア‥‥‥‥これは?」


 ミチルには、こうなることは想定内だった。


「真夏多さん‥‥‥‥‥美術部入んない方が良くね?これほんとに鯉?これどうみてもなまずじゃね?」


 中村が哀れなものを見たように言った。



「あ‥‥‥‥じゃ、じゃあ僕の‥‥‥‥」



 その時、生物室のドアがノックされ、ガラリと開いた。


「あら!皆さんお揃いのようね?私のために待っていたのね。」


 牧野のばらが登場した。


 ミアとマナカが座ったまま振り向いた。


「のばらさん‥‥‥!どうしてここに?」


 ミアが立ち上がった。


「ミアちゃん!私錦鯉研究部に仮入部するわ。よろしくね。」


「え?」


 驚いているミアの手を取って微笑んだ。


「うっわー!きれいな人がキター!」


 マナカがのばらを見て言った


「あら、あなた、素直で正直でいい子ね。気に入ったわ。」


 のばらは椅子に座っているマナカに横に体を傾げて顔を合わせた。


 のばらの豊かな長い髪が揺れた。


「きゃー、私今日はきれいエキス×2浴びまくりー!いぇーい!」


 マナカは1人はしゃいでいた。


 中村は耳を赤らめながらのばらを見ていた。


 のばらは中村をちらりと見てからミチルに仮入部届を見せた。


「ミチルちゃん。これでいいかしら?」


「ぶっ!」


 中村とマナカが同時に吹き出した。


「ミ、ミチルちゃん!?」


 ミチルが顔を赤くした。




 挿絵(By みてみん)





  






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