年末年始
「ふっ……ふふふ、あはは!」
「⁇……な、ナツミさん、どうかしましたか? 私、何か変でした⁇」
マフユはイヤホンを外して尋ねた。
寮でゲーム中、同室のナツミが急に笑い出したのだ。
「いやぁ……フユ子ってこの間までいつも無表情かと思ってたんだけどさ、実は1人でゲームやりながらめっちゃ百面相してたんだね。さっきから焦ったり喜んだり怒ったり……あはははは!」
「もぅ〜〜‼︎ 勝手に人の顔を観察して、そんなに笑わないでくださいよぅ! それに今日は私、1人じゃないです。オンラインの協力プレイで、同好会の皆さんも一緒ですからっ!」
「今度は恥ずかしがったと思ったら、ドヤ顔になるし! あははっ!」
「むぅぅ……」
最近マフユはすっかり明るく元気になった。
同好会のメンバーとも、女子寮のルームメイトとも、数週間の内にすっかり打ち解けていた。
(それもこれも全部ハル先輩がきっかけをくれたからだ。私も何かお返ししないとな……)
***
『えーー‼︎ マフユちゃん本当に明日帰っちゃうの⁇』
『はい。皆さんはイベント頑張ってください! 年が明けたらまた遊びに行きますね!』
『本当の本当にこっち残れそうにない⁇』
『最後までお手伝いできなくてすみません……でも最初からその約束でしたので……』
『ちょっと帰りを遅らせるのもできない?』
『はい……もうアキラちゃんが新幹線の指定席も取ってくれているので……』
『残念だけど仕方ないか……冬休み中もゲーム内で会おうね』
『はい! よろしくお願いします』
(先輩、私がこっちに残ると思ってたのかな⁇ 実家に帰ること、もっと前にも伝えてあったのに……なんでだろ?)
冬休み、マフユはハルに惜しまれながらも、予定通り妹とともに田舎へ帰省した。
ハルの期待に反して、マフユの脳内にクリスマスを一緒に過ごす選択肢は無かったのだ。
久しぶりの母の実家で過ごす年末年始は、マフユにとってとても充実したものになった!
***
「「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」
冬休み明け、久しぶりに再会したマフユとハルは、まず年始の挨拶を交わした。
今日の2人は駅で待ち合わせて、特にプランもなく遊び歩くことにしていた。
「先輩、これお土産です。同好会の皆さんへのお菓子は荷物になるので、また後日に大学へ持って行きます。でも、先輩には特別にこれもお渡ししたくて……」
マフユはそう言って、紙袋を差し出した。
受け取ったハルは、中のゲームキャラグッズを見て目を輝かせる。
「お? おーっ‼︎ これ、最近あった町おこしコラボ企画のやつ‼︎ マフユちゃん行ってたんだ⁉︎」
「はい、実家からなら電車で行ける距離だったのでっ。私、先輩が本当に喜んでくれるものをお渡したくても、普通に買えるものだとご自分で手に入れているかもしれないので……先輩への恩返しになるものを探しに行ったんです。おかげで、私自身もすごくいい思い出になりました。写真、いっぱい撮ってきたので後でお見せしますねっ」
ハルが喜んでくれたのが嬉しくて、マフユは息を弾ませ満面の笑みを浮かべていた。
「マフユちゃん…………君ってば本当に、最ッ高の女の子だよ‼︎」
ぎゅーーっ‼︎
ハルは人目も憚らずマフユを抱き寄せた。
マフユもクスクスと笑って、ちょっとだけ抱き返す。
「……ところで、先輩? 先輩のリクエスト通り、中は制服で来たんですけど……コートとマフラーで殆ど隠れちゃってますよね? これで本当にいいんですか?」
ハルとマフユは体を離し、今度はお互い手袋をはめた手を繋いで歩きだす。
「在学生に見えるように、同好会へはいつも私服で来てもらっていたからね。やっぱりあのお嬢様学校の制服姿のマフユちゃんも見ておきたくてさ。この後どこか暖房の効いた店で食事するときにでも、コートを脱いで見せてよ?」
「学校の先生に見つからないように、なるべく奥まった席がいいですね」
「そっか、注意されちゃうんだ……真面目なマフユちゃんを俺が悪い子にしてしまったんだね?」
「ふふっ……責任取ってくださいよ〜?」
冗談めかして言うハルに、マフユも冗談めかして言い返した。
「……マフユちゃんと一緒に歩いてたら、俺もまだ高校生に見えるのかな?」
「うーん……兄妹だと思われるんじゃないですか?」
「え〜っ? 兄妹は違うよ〜」
(…………『恋人』なのかな⁇)
はっきりと関係を示す言葉は出さないまま、2人は手を繋いで歩いていく。