デート?
プップーー‼︎
マフユが駅でハルを待っていると、突然近くの車がクラクションを鳴らした。
「マフユちゃーん! こっちこっち〜!」
「‼︎……先輩?」
マフユが驚いて振り返ると、少し古そうな車に乗ったハルが手を振っている。
慌てて駐車スペースに駆け寄ったマフユに、ハルは助手席を指して促す。
ガチャ…………バタン!
「驚きました。今日って車だったんですね」
「うん。衣装の材料だけじゃなくて新しいラックも買うことになってさ、荷物運ぶために借りてきた。これは叔父さんの車。叔父さんってば、俺に甘いんだよね〜」
「仲良しなんですね。素敵だと思います」
「うん。でもなぁ……叔父さんは小さな建設会社を俺に継がせたがっててさ、勉強させるために俺によく仕事を手伝わせるんだ。俺はゲームプログラマーになるために工学部に入ったから、叔父さんの手伝いは小遣い稼ぎのバイトとしか思ってないんだけどね……まあ今は助かってるよ」
「なるほど…………あっ」
マフユが少しタバコ臭い車内を見回していると、ハルが身を乗り出して助手席にシートベルトをかけた。
ハルからは微かに香水の匂いがして、マフユは女なのに色気のない自分との差を感じてしまう。
「すみません……」
「マフユちゃん、緊張してるね……俺の運転じゃ不安かな?」
「いいえ! そうじゃなくて……たぶん、助手席に慣れていないせいだと思いますっ」
(だってママは運転できないし、運転手さんやアキラちゃんの彼氏さんの運転だと私は後部座席だし……)
「ふふっ、なんだか可愛い理由だなぁ……それじゃあ行こうか」
「は、はいっ」
買い物はとてもスムーズに行えた。マフユは布地や型紙に詳しく、役に立てることを嬉しく思った。
予定より余った時間、2人は食事をしたり私物を買ったりして有意義に過ごした。
***
(こんなのアキラちゃんには見せられないなぁ)
帰りの車内でマフユはハルと撮ったプリクラを見つめた。
プリクラには、どのデコレーションを選んでいいものか困惑するマフユに代わり、ハルが容赦なくハートを飾り付けてしまっていた。
これだけ見ると完全にカップルだ。
「マフユちゃん、何か気になるの?」
「え……えっと、プリクラの補正って違和感すごいな〜と思って……」
「あはは、まあそれ込みで楽しむものじゃない? でもマフユちゃんは素っぴんのままで可愛いから、ありのままを撮るのも楽しみにしてるよ♪」
「可愛いくなんかないですっ。からかわないでくださいよ、もう……」
マフユはそそくさとプリクラをバッグに仕舞い込む。
「……本当はクレーンゲームでぬいぐるみでも取ってあげられたら良かったんだろうけどね。俺、確実に得られる自信の無い賭けはしないって決めてるんだ。まあ、好きなゲームのプライズとか諦めるのは悔しいんだけどさ」
「堅実なのはいいことだと思います。それに、私にぬいぐるみなんて勿体無いですよ」
「え〜、勿体無いとは思わないよ? でも、今日はマフユちゃんにぬいぐるみよりも受け取って欲しいものがあるんだ。……そこ、開けてみて」
ハルは信号停止の隙に、マフユの膝の前にあるグローブボックスを指した。
マフユが開けると、そこにはゲームのロゴ入り手提げ袋が入っていて、更にその中身は……
「ああ〜‼︎ これ、前に話してた入手困難のドラマCDじゃないですか! しかも一緒に入ってるのってもしかして……去年の地方大会のパンフレットに、クリアファイルとステッカー‼︎」
目をキラキラさせてはしゃぐマフユを横目でチラリと確認し、ハルは満足気に笑う。
「ゴメンね? CDは1つしかないから貸してあげるだけなんだ。けど、それ以外は俺が余分に手に入れてた分だから、マフユちゃんにあげられると思って」
「え、あ、ありがとうございます‼︎ こんな貴重なものを……ほ、本当にいいんですか⁇」
「いいよいいよ、マフユちゃんなら大事にしてくれるし……って、CDはちゃんと返してね?」
「勿論です! 必ず! 絶対‼︎ すぐっ……ええと、次はいつ会えますか⁇」
「俺は……平日なら授業の後、休日ならいつでもいいよ。マフユちゃんは?」
「私もですっ。あ、あのっ、だったら明日でもいいですか? 今夜聴いて、明日すぐ返すので……」
「マフユちゃんがいいなら、俺もいいよ。それにしても……マフユちゃんが明日も俺に会いたいなんて嬉しいなぁ♪」
「そ、それはっ……その……っ」
マフユは否定できずに真っ赤な顔で俯く。
「……ねぇ? マフユちゃん、冬休み本当に田舎に帰っちゃうの?……俺、できればクリスマスもマフユちゃんと2人で過ごしたいけどなぁ」
「⁉︎」
ハルが少し弱々しく呟くように言った言葉に、マフユは心臓を突かれたように驚いた。
「なんで……そういう特別な日は、私なんかじゃなくて恋人と過ごしたらいいじゃないですか……」
「え? 言ってなかったっけ? 俺、今フリーだよ」
「言ってないですっ。けど、先輩はとてもモテる人でしょう? 今からでも間に合いますよ……」
ハルはそれを聞いて少し笑ったあと、真面目な顔になって話し始める。
「俺さ、ゲーム大好きじゃん。大好きっていうか、愛しちゃってんだよね、それこそ最優先で。だからよく、彼女との時間よりゲームする時間優先して別れちゃうんだ。特にリアルのイベント時期って、ゲームでも期間限定イベントあるからね」
「ああ、それは……ありますよね」
「その点で言えば、マフユちゃんなら一緒にいて楽だよね。趣味が共通で、理解してくれる。それにさ、やっぱり俺、俺を好きって言われるより、俺の好きなものを好きって言われた方が嬉しいし安心する。……俺、今日また改めて思ったよ、マフユちゃんとはもっといろいろ話してみたいって」
「っ…………クリスマスのことはわからないですけど、……私も、ハル先輩とはもっとお話ししたいです……」
マフユはサイドミラーに映った自分の真っ赤な顔を見て、消え入りそうな声でやっと答えた。
その後、大学へ荷物を運び込んだマフユは、ハルから同好会の他のメンバーを紹介された。
ハル以外の先輩たちも皆優しくて、マフユは入学後は必ず入会すると約束した。