第十五章-4 苦難乗り越え分かったことは……
「真っ暗ですけど、船らしき影はありませんね」
「どこか影になる場所に隠したか?」
今夜は満月で月明かりが良かったためライトを消したとしても、影を捉える位の視界は確保できた。ライトを持ってきたが、下手に灯りをつけるとバレる可能性が高いから使わないに越したことはない。
「……本当にいるんでしょうか。裏切り者」
「俺は信じないな」
弱気になるステラさんに俺は即答した。
「俺たちの生活は確かに酷いですが、都市にいる人たちは俺が生きていた時代と同じくらい、いや、それ以上の生活をしているはずです。俺がいた時代でも人を探したら、落とした物を探す技術はいくらでもあったから、スパイがいなくても探しものを探すのは簡単なんです。ステラさんの探索魔法には劣りますけど」
神々しく光る満月の更に上。
今でも衛生が生きていれば、GPSや衛星写真で俺たちの動向を探すことはできるはず。それもアンドロイドがいれば24時間大人数体制でも可能なんだ。
俺たちが酷い生活水準で過ごしていたから忘れがちだが、都市部は日本が描いていた未来像に近い世界を構築できているんだ。
それでも俺は、こんな未来になるくらいなら、過去のほうが良かったかな。
「そうだ。昼の時船を見つけたせいで言えなかったことなんですけど」
「そういえば、何かお話があったのですよね?」
「うん。今となっては難しくなっちゃったんだけど、咲倉さんたちレジスタンスの安全が確保されたら、一度東京に――俺がステラさんと再会した場所に戻らないかって」
「えっ。でも、あそこは危険なんじゃ」
「それは百も承知。けど、例の懐中時計を失ったのはあそこら辺何だ。あれを探す以上、俺達は戻らなくちゃいけないんだ。そうしないと、俺達は元の世界に戻ることが出来ない」
「ケイタさんの世界は私達の世界に無い技術がいっぱいありますから、過去に戻れる技術もあるんじゃないんですか?」
俺はステラさんに元の世界に戻る旅を再開したいことを伝えた。それをステラさんは危険と判断し、この世界に過去に戻れる機械があるのではないかと考えた。ステラさんの考えは最もだが、俺は首を横に振った。
「この世界のどこへ行ってもそんな技術は確立していないと思います。もし、そんな技術があるとしたら、この世界から人はいなくなると思います。1200年前出身の俺から言わせてもらっても、昔の方が今の数倍いい世界だったと思いますし」
AI、アンドロイドの存在は人の世界を豊かにするとは俺の時代から言われていて、仕事の半分はAIが奪うとも言われていた。それが仕事だけでなく生きていくための必需品さえ奪うとは、誰が思っただろう。
それなら、辛いか楽しいかは置いといて、自分で働き、稼いで、そのお金を使って好きなように生きている俺の時代のほうが、まだ自由はあった。
「今はほとんど廃墟になっていますけど、俺の時代には廃墟になっている建物を探すほうが難しかったですからね」
「ヤマナシにあったあのような都市がですか?」
「あれよりかはだいぶ古いですよ。そうですね、ガウムの町が便利になった程度の町が大多数でしたね」
俺の田舎もそんな感じだったな。道路整備と信号機がしっかりとしていた位で、交通網は1,2時間に一本、コンビニよりも商店の方が近かったくらいだし。
「この辺りもそんな感じの町だったのでしょうか?」
「来たこと無いけど、そうじゃないかな? あ、でもこの辺なら」
静岡県で伊豆半島。かなり南方に来てしまったから過ぎてしまったかもしれないけど。
「もしかしたら熱海かもしれませんね」
「アタミって町ですか? そこには来たことがあるんですか?」
「いや、無い。けど、温泉街だから、それなりに栄えて――」
「温泉ガイって何ですか⁉」
あっ。狙ったわけじゃないけど、ステラさんのスイッチが入ってしまった。
「えっと、今は周りの偵察」っと最優先事項に戻そうとするが、ステラさんの顔がこのままキスしそうな勢いでぐいぐい迫ってくる。
「えっと源泉が近くにある場所に、その源泉を使ったお宿が立ち並ぶ町ですね」
「立ち並ぶってことはそれだけ温泉もあるってことですよね! どのくらいあるんですか⁉」
「いや、だから行ったこと無いんで分かりませんって。草津ならサークルの時調べたけど……」
「クサツって所は別の町ですか⁉」
「そ、そうです! 俺がここに来る前仮住まいしていた場所からそんなに遠くなくてサークルの仲間と一緒に行った所です!」
「ここ以外にも温泉街――ケイタさん、そこへ行ったことがあるならどのくらいあるか知ってますよね⁉」
が、ガチでグイグイ迫ってくる! ガチすぎる! この勇者様任務放棄してガチすぎる!
「ネットで調べた限りだと――百件くらいはヒット」
「ひゃっっ⁉」
ステラさんが素っ頓狂な声をあげるように俺の眼前で止まった。
そして、その顔が少しずつ酒に酔ったように綻んでいく。
「一軒に長い時間入っても、一日三軒位回れば三十日。それも温泉街は一つだけじゃない……。それが今となっては汚れた湖しか無い……確かに昔は素晴らしい世界だったんですね。それこそ天国のような世界だったに違いないです」
あぁ、勇者様が遂に勇者様放棄しだした。俺の世界に戻ったらこの人勇者辞めちゃうよ。寺ガールならぬ湯ガールになりかねない。それただのJK。いや、JD? じゃん。
「でも、あの懐中時計があれば、また時を戻せるのか……」
チートじゃんそれ。勇者様がチート道具使って温泉旅行ひたすらするよく分かんないことが起こっちゃうじゃん。でも、それが今はどこにあるのか分からないし、何より今はやらなくちゃいけないことがあるし。
カチッ、カリカリ
「ん?」
何だ今の音。何かが動いたような。
確か、こっちの方角から聞こえたような。
「ステラさん。今何か聞こえませんでした?」
「源泉垂れ流しの音が――」
「すみません。何でも無いです」
この人はしばらく戻ってこれなそうなので音のした方に近寄ってみる。波の音にも負けない何かが自然になるとは思えないから、この先に何かがあるはずなんだが。
月夜では見逃す可能性があるのでライトを使って照らしながら探りを入れる。音の方は、岩場になっているな。
俺は注意をしながら岩の影を調べ始める。
カランッ、カラッ
いる! 今小石が落ちたような音がした。ほぼ無風な場所で石が勝手に落ちるようなことは無い。なら、こっちに誰かいるはず。
俺は謎の正体を確かめるべく灯りを音がした方に向けた。
……が、誰もいない。
「っ⁉」
次の瞬間顔、正確には首元に背後から大きな圧がかかる。




