第十五章-3 苦難乗り越え分かったことは……
その夜。鉄筋がそれなりに生きていた雑居ビルの一室に集まった主要レジスタンスたちは暗い表情を浮かべていた。出来る限りホコリと蜘蛛の巣を払い除けたにも限らず、どれだけ明るい光源を使ったとしても、重苦しい空気は抜けなかった。
「で、恵太とステラはその船を見て、すぐさまアジトに戻り、遊泳していた子供たちを引き上げさせたと?」
「はい」
「上出来だな。最悪の自体を回避したという訳か」
咲倉さんは俺の判断を褒めてはくれたが、この場の空気を少しでも和らげようとする努力であることは誰もが気づいていた。
「一応聞きたいんですけど、その船がただの民間人――アンドロイドの所有物でない可能性は?」
「ありえん。動力が石油だろうが石炭だろうがそんな高価な物を船という運搬にも移動にも不向きな道具に使う奴などあいつら以外考えられん」
俺の質問はあっという間に一蹴されたが、予想通りの答えで頷くくらいしか出来なかった。
「じゃ、じゃあ……あれを使って追いかけてきたってことですか?」
「ステラは土地勘が無いから分からなくて当然だが、あたしたちがこの前襲った山梨は一切海に面していない土地なんだ。そしてあたしたちは最短距離で海岸を目指した。となると、あの船は山梨都市を牛耳っている奴らのものじゃない。ここいらで海岸沿いにある一番近い都市はどこだ?」
「千葉は館山が一番近いかな? 静岡は富士麓が主要都市のはずだから、愛知以降の県になるんじゃないか?」
遠目から見ても船だと分かる位の大型船が川を下らなければ海に出れない山梨県から追いかけてくる可能性は、未来の革新的技術を除けば0%。となると別の都市からここに来ていると考えるのが一番しっくりくる。応援を呼んだということか。
「にしてはピンポイントに来たな」
「あぁ……信じられないくらいにな」
「海外逃亡防止の巡回警備船じゃないかな? 最近多いって話だし、企業家たちにとっても技術の漏洩は避けたいだろうし」
「太平洋を貴重な燃料で渡りきれるのか? まさか手漕ぎとは言わんだろうな? 渡るなら日本海かオホーツク海の二択しかありえん。言いたいことは分かるが、現実から目を逸らすな。もう、そうとしか考えられんだろ」
何が起きているのか、恐らくステラさん以外の誰もが感づいていた。それでも信じようとしなかったのは、過ちに気づけなかった俺達の未熟さを隠すためか、または一週間近くも寝食を共にしてきた者を疑いたく無かったから……か。
「裏切り者がいるな。恐らく、孤児たちの中に」
「そんな! あの子達はそんな悪い子じゃ」
「なら、この状況をどう思う? まさか、君たち二人のどちらか、または両方が裏切り者だったからこうなったか?」
「リーダー、とりあえず落ち着け」
「落ち着いていられるか! このままでは全員の命が危ないんだぞ! 早く裏切り者を探し出して追放し、この場を離れるんだ!」
咲倉さんが珍しく焦っていた。やっと見つけた安楽地を僅か一日で追放されることになってしまった。その原因に気づけなかった皆を、自分を容赦なく言い責める。
「咲倉」
そんな彼女に声をかけたのは悠さんだった。それも普段みたいな呼び方ではなく、呼び捨てで。
「ここで水掛け論をしていても時間の無駄だ。こんなことをしている間にも奴らは動いている。奴らの動向を偵察するもの、武装していないレジスタンスの護衛、元孤児たちの護衛、並びに必要なら監視を今すぐにでも開始すべきだ。こうなった以上、先手を取らなければ負けは確定だ。分かるか?」
最近はそれなりにふざけ、大富豪では孤児たち相手でも大人げないほどの知的戦術を繰り広げていた悠さんが真剣な顔で咲倉さんに今やるべきことを伝える。反論する隙を与えないように。
「まずは全員を一箇所に集めよう。プライバシーを与えるためにそれぞれ部屋を与えたが、こうなった以上命の危険性もあるし、何より単独行動しやすくなるのはスパイにとって都合がいい上に、何より俺たちに余計な疑心暗鬼を生んで思考を鈍らせる。正直伝えないほうがいいことなのかもしれないが、今回は包み隠さず全部伝えるぞ。それがアンドロイドの判断を助長させたとしても、迎撃体勢が整っていればすぐに動くことが出来る。被害が出たとしても、全滅は絶対に避けられる」
そして僅かな時間で今後のスケジュールが分単位刻みで完成した。
「以上だ。いいよな? リーダー」
悠さんが普段通りの部下に戻る。思わぬバトンタッチに圧倒されていた咲倉さんが一瞬戸惑う。眉が上がった顔は見せまいと、顔を両手で拭き、その後両頬を強く挟むように叩いた。
「悠。そのレポートは書き直しだ」
そこにはいつも通りの咲倉さんがいた。
「被害が出たは消せ。被害を出すな。これで決まりだ」
「かなり無茶ぶりさせるな」
「すまんな。弱っている姿を見せて」
「何言ってんだ。雄々しいよりも女々しい方が合ってるだろ? 性別からして」
「っつ。ば、馬鹿なこと言うな!」
咲倉さんが悠さんの不意打ちに思わず赤面する。哲也がいたら絶対からかわれるだろうな。そしてその後もぎ取られるかな。
「ま、まずは皆を一箇所に集める! だが、偵察も怠る訳にはいかない。ステラ。この中で一番戦力があるのは君だ。辺りに怪しい奴がいないか見てきてくれないか?」
「分かりました!」
「すみません。俺も一緒に行っていいですか?」
「駄目だ。さっき言っただろ。君たちも」
「リーダー。疑心暗鬼になるからそれは止めるんだ。それに、彼女がもし裏切り者ならこんな回りくどいことをしなくても俺たちなんか一瞬だ」
「……そうか。よろしく頼むぞ」
悠さんの待ったもあり、俺とステラさんへの疑いは一時的に解除された。
俺は光源の一つとしてライトを譲り受け、どこに敵が潜んでいるか分からない真夜中の海岸に向かった。




