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第十三章-3 助ける力を持つ者は……

「なるほどな。それで彼女が疑心暗鬼になったと言う訳か」

「彼女の世界が特殊だったのもあるんですけど、何より彼女の性格がお人好しの度を過ぎた物なので」


アジトの入り口に待っていた由人さんに連れられてやってきた薄暗い倉庫の中で、か弱いランプに照らされた咲倉さんに町の中で起きたことをすべて説明した。


「君が口添えしてくれたように私たちレジスタンスに人を引き受けるスペースはもう残されていない」

「そこなんですけど、何でアンドロイドと共存できる人と出来ない人がいるんですか?」


町の中には人間もアンドロイドもいて、まるで共存、いや、そもそも同じ人種のような接し方をしていた。差をつけるとしたら人が旅行者で、アンドロイドが現地の案内人と言う所か。互いの存在意義とやりがいを理解しているように見える。

一方で人間を見つけるや否や明らかな殺意を持って攻めていくアンドロイドも存在する。

つまり、アンドロイドが一方的に人間を憎んでいる訳ではないと言う事だ。


「それについてはアンドロイドが出来上がる過程まで遡るな。――君の時代からアンドロイドが活躍する世界は想像できたのだろ? なら、君が思うアンドロイドが出来た理由とは何だ?」


咲倉さんが俺を試すかのように問いかけてきた。

映画では宇宙外勢力に対抗するため、外交的には軍事力の強化など戦いの為が多かった。

けど、単純に考えれば。


「労働力、生産性を補うため、ですか?」

 「そうだな。人口の現象は働き手の減少に直結し、働き手の減少は産業全体に、そして経済に大きな損害を与える。日本という国自体が消えかねない中で出された打開策が、機械に仕事をさせることだった。これがアンドロイド誕生の話だ」

 「それが何年から始まったのか、詳しいことは俺らにはわからん。鉛筆のノートを持つ前にナイフと銃が渡されたからね」

 

 俺が生きていた時代から既に問題視されていた少子化が1000年以内に深刻化し、アンドロイド誕生のきっかけとなったということか。

 

 「アンドロイドは基本的に使い捨てだった。人間なら怪我をすれば治療のため病院に行かせてもらえる。病気になれば数日の休養を得ることもできた。その権利をアンドロイドは得ることができなかった。修理や換えパーツを取り付けるよりも、新しいものに取替、古い物は分解して使える部分だけを残して再構築した方が効率が良かったからだ」

 「高そうな素材なのに使い捨てですか」

 「実際にすごく高い。だから、アンドロイドの大半は大手企業が所持していた。そこから家庭用アンドロイドが普及するまで、時間が空いたというがどのくらいかは知らん」


 咲倉さんはそっけなくそう言って話を続けた。


 「人工平等条約が結ばれるきっかけとなったのが、そこだった。仕事場ではただの道具、機械の一部としか考えられなかったアンドロイドが家庭に入ることによって、始めはペットのように、そして家族、中にはかけがいのない存在にまでなるアンドロイドを愛した人もいた。

 そんな頃からだった、会社でこき使われるアンドロイドの実態に反感を示した人々がアンドロイドにも権利をとプラカードを抱え始めたんだ。活動は家庭内で雇われたアンドロイドにも広がり、同士であるアンドロイドたちを救うために活動をした。結果、政府が対応に乗り出し、企業が折れ、人工平等条約が締結された。

 それが――この悪夢の始まりとなった」

 「それが、ですか?」


 今の話を聞く限りだとアンドロイドも人間もハッピーエンドを迎えた締めくくりに思える。

 それが、何故今のような醜い争いごとに発展してしまったのか。

 

 「人工平等条約は人間と同じ権限をアンドロイドにも与えることだった。恵太、人は何のために働く?」

 「労働するわけですか――やりがいとか、社会勉強とかありますけど、一番は、お金?」

 「そうだ。賃金だ。アンドロイドには一切支払われていなかった物を、企業に支払うよう命じられた。今まで使い捨て機械のように大量導入していた企業にとってそれは大打撃だった。だからこそ、削ぎ落とすことが必要になった。労働力を」

 「会社の首が回らなくなるからな。リストラしなくちゃいけなくなったってことか。リストラ――もしかして」

 「そうだ。リストラしか行わなかったんだ。疲労が蓄積し、怪我や病気にかかれば数日の離脱というデメリットを生み、文句の多い人間。疲労の蓄積がなく、摩耗や異常が生じれば部品交換ですぐさま元に戻り、技術面にも影響を及ぼさない。そして何と言っても従順。

 お前ならどっちを切る?」

 「それで同族を切ったというのか⁉」

 「アンドロイドも人間と同じだろ? それが奴らの主な言い分だった。おまけに賃金を貰っても主な使い道が無かった、と言うよりも使い方を考えなかったアンドロイドたちに賃金を渡しても何の意味ももたらさなかった。

 だから、企業はサビ対策の最新コーティング、最新バッテリー搭載と言うアンドロイドにとって最高のパフォーマンスが出せる程度の最低賃金だけを渡していた」

 「それで大企業だけが金持ちになって、会社をクビにされた人間はこうやってホームレス当然の生活をしている」

 「そういう訳だ」

 「政府は何してるんだ⁉」

 

 企業がまんまと抜け道を見つけて一人勝ちしている光景と生き残るために苦労をしているレジスタンスや孤児。

 その光景を見ているであろう政府は一体どうしたと言うんだ! 人工平等条約を制定できたなら、その改定も安易だと、俺は考えた。


 「政府は今や企業の犬だ」


 咲倉さんはその芽を抜ききる。

 

 「今生き残っている企業から税収できぬ限り、日本はすぐにでも破綻すると言われている。どこからかは知らないが大量に借金をしてるらしくてな」

 「機嫌取りの為に、多めに見ているってことですか!」

 「今の政府が出来ることなど外国の気分を害さないようにヘコヘコ頭を下げるくらいだ」


 借金大国がこの時代になっても収まらず、挙げ句にそれを企業に利用されることになろうとは。

 

 「君たちが行った山梨の都市はアンドロイド工場ともう一つ浴室のシステム開発をしている工場、その二つだけで成り立っているんだ。コンビニもアパートも、本来は政府がやるべき道路の整備や街灯の整備も、全部その二社で執り行っているんだ」

 「あそこに暮らしているのはその二つに勤めている奴とその親類だけだ。あそこで暮らしていくとなれば、親族になるしかあるまいな」

 「その二つだけ、ですか。食べ物とかはどうしているんですか?」

 「違う都市から空輸だ。都市はそれぞれ空輸機関を所持している」


 つまり今の日本は都市という小島を飛行機を飛ばしながら、不法地帯の海を超えて経済を回しているというわけか。

 

 「これが貧富の差を生み出した原因」

 「都市一つにおけるアンドロイドの戦力は限られる。でも、その都市と繋がりのある都市から援軍が送られてきたら、その数は数えきれない。それに人は新しい戦力を作るのに最低でも10年以上かかるが、アンドロイドは1時間もかからない。まともにやりあったら勝てるわけがないんだ」

 

 由人さん、咲倉さんともに暗い顔で現状を伝える。これが――絶望って訳か。

 ステラさんを率いたアジト移動戦。その勝利で見せた咲倉さんの喜びの顔が今となってはよく分かる。

 ステラさんが必要なんだ。

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