第十二章-4 守る為には……
男の銃が火を吹いた。
その音のせいで聴力は一瞬にしてやられ、三半規管は上を下への大騒ぎ。
それだけで理解できたのは、生きている。
撃たれたのに。
いや、俺自体が撃たれていなかったのか。
「うぐっ!」
フラフラになった俺に衝撃が二度連続して襲いかかる。
一つは背中、もう一つは腹部に。
「大丈夫ですか⁉ 一体何が⁉」
困惑する耳がステラさんの動揺する声を捉えた。
その中で微かに聞こえた何かを漁る音と駆ける音。
「ぐっ……いって……」
「ケイタさん、大丈夫ですか⁉」
「ステラさん……」
彼女の手によって何とか立ち上がる。そこで現状が明らかになった。
いなくなった男。
綺麗に無くなった弾丸の陳列棚。
そして、頭部を破損されたアンドロイド。
「あいつ⁉」
「あの人が退治してくれたんですか?」
「違う! 逆だ! あいつがこいつを殺して、店のものを盗んだんだ! それも子どもたちの為というのは全くの嘘で、本当は俺たちのお金で私物を買うことが目的だったんだ!」
「騙されたんですか⁉ 私達!」
「すまない俺は薄々」
買い物かごには美味しそうなパンが大量に入っていた。本当に純粋だな。けど、それを子供に届けることはできない。それを持ち出してしまえば、俺たちも。
「ケイコク、ケイコク……ツウチ、ゴウトウ」
違う。持ち出す必要すら無かった。
「C地区 レンピオの店にて強盗が発生。直ちに警備部隊は現地に直行、確保をお願いします。敵の武装も確認されたので、やもない場合は射殺も許可致します。目標対象は――三名」
店員型アンドロイドが事切れる前に通報を行ったようで、その結果、ここに警備型アンドロイドが直行することが決定したみたいだ。
それよりも問題は。
「目標三名。俺たちも含まれてるのか⁉」
くそっ! 俺たちをデコイにしやがったのか、あいつ!
「このままじゃ俺らも捕まっちまう。ステラさん逃げましょう!」
「私達が逃げるんですか⁉ あの人を追わなくても」
「今はあの人を追うよりも逃げるほうが先決です。あいつの所に行ったら余計に仲間だと勘違いされるだけです!」
あの野郎最後まで俺らをこき使って。今度会ったらただじゃおかねえぞ。
こみ上げる気持ちをぐっと抑え、警備型アンドロイドが到達する前に俺達は町を出ることにした。
◇
「結局かなりの数を倒しちまったな……くっそ、本物は衝動が強くて腕が痛いな……」
「自然治癒の補助魔法かけますね」
「本当にすみません……」
足場の悪い外でステラさんはまだしも、一般人の俺がアンドロイドを引き剥がすのは至難の業だった。結局何度か対立することとなり、そのたびにステラさんが各個撃破していった。それだと足を引っ張っている俺の示しがつかないので何度かハンドガンを取り出して引き金を引いたのだが、実弾の反動は俺の知っているモデルガンの比にならない物で、足の踏ん張りが無ければ確実に吹っ飛ばされただろう。
それ以前に反動のせいで狙っていた場所に飛ばないことが何度もあった。
情けない自慢はもう十分だろうが、更に付け加えるならやはり音だ。男が店員型アンドロイドを狙った時みたいに耳元で撃たなかった分視界が揺らぐまではいかなかったが、それでも撃った直後は耳がキーンっとした。
ステラさんの魔法が痙攣する手、がくつく足に効いてきたところで俺たちは再度移動を始める。
「本当にすみません」
そして、もう一度謝罪する。
「ケイタさんのせいじゃないです。元はと言えば私が提案をしなければよかったんです」
「いや、俺はあの時、あいつが子どもたちを助ける気がさらさら無かったことを既に理解していたんだ。でも逆らうことができなかった。こいつを、背中に突きつけられていたせいで」
俺はホルスターからハンドガンを取り出す。無駄撃ちもあったせいでだいぶ弾数が減ってしまった物の、命中さえすればまだ脅威となる代物だ。
実物を扱ってみて、その難しさを実感した。
それを軽々と扱い、アンドロイドの致命部位を的確に、それも一発で仕留めるあの男の実力は相当のものだ。場数を踏んでいるのは素人目でも分かった。
「盗みや人を騙すことに長けた人だったんだよ。恐らく何回、何十回、それ以上同じことをやっているに違いない。今回は相手が悪かったんだ」
「私がもっと早く気づいていたら……」
「気づかれたら今度は堂々と俺を人質に取っていましたから、どっちみち変わらないですよ。引き金を引くまで一秒もかからない上に、武器は俺の背中に突きつけられていましたからステラさんが少しでも動いたら殺すつもりだったと思います、俺の注意不足です」
俺とステラさんの歩は重い。
得られたものよりも失ったものの方が大きかった。
持ち物に変化はない。心の持ちように大きな損失を与えた。




