第九章-1 元に戻れはしたが……
おまけに喋れて――まぁこれについては俺の時代からそうだったけど、その後憶測とか言ってなかったか? つまり自立思考型AIか⁉
相手が強敵だと言う報告は既に渡っているのだろう。一網打尽にされないよう散開したアンドロイドたちは背負っていた得物を構える。そして交渉も無しに銃口は早々に火を噴いた。
飛んできたのは銃弾だったので、俺が潜むアスファルトには貫通することは無かった。プラズマレーザーとか未知のビームが出てきたらどうしようと思っていたが、その心配は杞憂に終わった。
ちなみにステラさんへの心配は、最早なかった。
例の防御魔法は地球でも使えるらしくライフルから放たれた目では追えない速度の銃弾を弾いていく。一歩も退くことなく剣を構え一薙ぎ。遠距離からの攻撃で一体のアンドロイドを両断した。
「R-23ニ異常ヲ確認。切断ノ後カラ分析スルニ、高圧力ノ水、マタハ風と断定。被弾ノ確認ガ見ラレナイ為、銃デノ戦闘ハ不向キ。白兵戦ヘノ移行ヲ推奨ス」
その光景を見て、異常と判別したアンドロイドから他のアンドロイドに指示が下される。それに不服を申し立てる物はおらず、皆ライフルを納め、一糸乱れぬ動きで警棒のような物を取り出した。
警棒が灯る。遠目から見ても、それがただの警棒ではないことが光源の強さで理解できた。
「炎を剣に纏っているんですか⁉」
「内側から熱くしているんです! それでも炎を纏っているのと変わりない熱さを保つことはできます!」
ヒートカッターともなれば包丁とかチェーンソーなどに引けを取らない切断力を誇ることが出来る。その熱量にもよるが、鉄などの剣では相性が悪すぎる。
「ならば近寄る前に何とかしましょう!」
「ステラさん! 後ろからまた増援が!」
ステラさんが魔法で対処しようと考えた。と同時に奥からさらなる増援がもの凄い勢いで近づいてくるのが見えた。俺も武器を持っていればいいのだが、生憎俺の手には例の懐中時計しかない。
こうなったら一時撤退するしかないか。
未だにこいつの謎は解明できない。
どこへ飛ぶか、いつへ飛ぶか、ここより安全か、危険か。
どうなるかは理解できない。ただ一つ言えるのは、現状を回避することは出来る。
「ステラさん! 一度ここは引きましょう! 手を」
俺がステラさんに向けて左手を差し出す。ステラさんもその声に答えてくれたのか、こちらを振り向いて手を伸ばす。
二人の手が繋がり合おうとしていた。
その合間を――何か素早いものが遮った。
「その場から離れろ!」
そして怒号が貫いた。
何事かと困惑する。
が、異世界でウルフに襲われた際の経験が活き、俺は素直に逃げることができた。ステラさんに至っては何が起きるのかも理解していたのか、俺よりも遠い位置まで跳躍している――ってそんなに逃げないと危ないことが起きるの⁉
俺が問いかけようとする余裕もなく。
ドォーン!
爆音とともに砂煙、ここの場合アスファルト煙が舞う。
粉々になった石やアスファルトなどの破片が俺にぶつかる。危険と感じた俺は、その場で頭を抱えてしゃがみ込むことしかできなかった。
「しっかりしな!」
そんな俺の手を取った誰かが叫ぶ。
「さっさと走るよ! そうしないと死んじまうぞ!」
煙が少しずつ晴れると同時に見えてきたのは、カラーサングラスをした人だった。
顔の上半分が覆われていて素顔はほとんど分からない。しかし、左右から流れるように落ちる黒いストレートヘアーと先ほどの声の澄み具合から女性だろうと憶測ができた。
「こっちだ! 足元に気をつけろ!」
立ち上がると同時に見えた謎の人物の全身像。見せつけるような胸部の膨らみが、その人物が彼女であることを決定づける。
銀色をしたボディースーツのような服装が、体のラインをしっかりと強調していたのが、最大のヒントだった。
俺はサイバーパンクかSFの世界に迷い込んでいる。ここは日本に類似したパラレルワールドだと脳に刻んだ。
そして、逃げることに専念することに決めた。




