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第一章-4 実力はあれど……

「そんなに歩くんですか……」

「え? 二時間ですよ? エズイラ砂漠を超えるとなると、一週間はかかりますから、それに比べれば比じゃないですよ?」

「超えたことありませんからね! そもそも行ったこともありません!」


 日本から出たことが無い俺にとってそんな広大な砂漠は無縁の土地だ! 鳥取砂丘だって観光地だし、何日もかけて渡るような場所ですらない!

 馬車と言う移動手段が出てくる位だから予想はしてたけど、この世界には飛行機や鉄道、それどころかバイクすら存在しないと思われる。


「文明の利器の偉大さがここに来て身に染みる……。都会暮らしに慣れ過ぎてもう自転車何て使わないって思ったばっかりなのに」


 二時間程度なら例えこんなグラスロードであっても、自転車を使えば三十分もあれば辿り着けるはずだ。

 時間的な問題もそうだが、何より疲労感は比べ物にならない。散歩にしては長すぎる。何より目的がウォーキングじゃないから楽しむ気にもなれない。

 せめてもの救いと言えば道先案内人がいてくれることか。それもすごく親切で人当たりがいい子が。


「ジテン――シャ?」


 案内人が首を傾げこちらを向く。この世界には自転車も無しか。あれなら上手いこと代用できる物があるかと思っていたけど。


「えっと――乗り物の類何ですけど、馬車があるなら車輪は分かりますよね? あれを人力で動かすんですよ。ペダルを使って漕いで、それでチェーンを動かしてギア――ってチェーンもギアも説明しないといけないのか」


 俺は自転車と言う物を説明する。

 が、相手は最先端社会に触れてこなかった密林の奥地に住む原住民のような存在。どれが理解でき、どれが理解出来ないのか、異世界旅行初日、異世界知識皆無な俺にとっては手に余る所業となる。


「それなら任せてください。再度お手を拝借しますね」

「へっ?」


 彼女の手がまた俺の手を包む。握る力の強さから先ほど感じた優しさよりも頼もしさを感じる。


「ジテンシャでしたっけ? それをイメージしてください」

「イメージ?」


 彼女の言葉を繰り返すと同時に俺は駅にある駐輪場を自然とイメージした。電車やバスが数分置きに行き来する田舎ではあり得ない好待遇なのにも関わらず、収まりきらない自転車が駐輪禁止域に溢れている。

 その姿をイメージした時だった。


「えっ⁉ 何この世界⁉ 石壁作りの家――にしてはかなり大きい。ケイタさんが着ている服が違和感無いほどに王家や公爵が着てそうな派手な服。そして、これが自転車ですか……」


 ステラさんが狼狽すると同時に言葉を連ねる。

 石壁作りの家、派手な服。

 それは恐らく駅のことであり、派手な服と言うのは――恐らくどれも、だ。スーツだろうが、ユニクロの服だろうが、ダメージ負い過ぎのジーンズと虹色ケミカルシャツだろうが、エスニックな服を着ている彼女からしてみればどれも特異な物に見えてしまうのだろう。

 ってか、これってつまり俺の脳内を覗いているってことか?


「これって何で出来てるんですか? 鉄ですか? こんな重そうな物を使ったら余計に時間がかかっちゃいそうですけど?」


 指摘されていたので自然とフォーカスしていた自転車を見た率直な感想をステラが述べる。

 馬が移動手段として確立されているこの世界において、車輪がついている物とは押す、引っ張ると言う考えが一般的なのだろう。そうなると必要になるのが動力。恐らくこれを押して動かす考えがステラさんの頭にはあるのだろう。


 けど、それは使い方の差異であり、これは荷車と言うよりも馬。それも馬車と言うよりも乗馬に近い。

 高校に入ってバス通学を始めて以降乗ることが無くなったので中学時代の記憶を思い出す。

 寝ぼけ眼を覚ますために坂道をブレーキ無しでかっ飛ばしたときは恐ろしい速度になった記憶が甦る。

 ……だが、それと同時に突如飛び出してきた猫を避ける為に盛大に転んだ苦い思い出が古傷を痛める。

 

「うわっ! 早っ――痛い!」

 

 丁度その場面に移った時、少女の呻く声。あっ。そうだった。今この辛酸を味わっているのは一人じゃなかったんだ。

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